真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ノーパン痴漢電車 -そつとして-」(1999/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文・堀江遊/助監督:羽生研司・増田庄吾・入江広明/製作担当:真弓学/編集:金子尚樹/出演:藤咲美穂・佐々木基子・相沢知美・竹本泰史・平川ナオヒ・久須美欽一)。三人並ぶ助監督に気をとられ、撮影助手以降を取り零す。
 旅行会社勤務時代の先輩で、現在は独立して代理店「サニーサイドトラベル」を経営する酒井美保(佐々木)と映画か演劇を観に行つた久田真知子(藤咲)は、産休の福田さん(全然登場しない)の代りに三ヶ月の期間限定で、サニーサイドトラベルに経理として勤めることを求められる。専業主婦生活に物足りなさも覚える真知子自身に望まぬ話ではなかつたが、夫の茂雄(竹本)は絵に描いたやうに封建的な男で、女房が家の外で仕事を持つことになど、とても首を縦に振りさうにはなかつた。とはいへ旦那には内緒で要請を受け容れることにした真知子は帰りの電車の車中、平川ナオヒに痴漢されると満更でもないどころではなく感じてしまふ。主演の藤咲美穂を画期的に大雑把に評すると、メガネを外して見ればオッパイの大きくない少しキツ目のまいまちこ。それ、殆ど髪型だけだろ。翌朝御近所の世間話から流して、外で働きでもした日には離婚だと清々しく言ひ放ち家を出た茂雄を適当に送り出すと、真知子もそそくさと出勤する。戯画的な亭主関白ぶりを振り撒く反面頼まれるままにゴミは出して呉れる茂雄が、ブツクサいひながらも他の人の出したゴミ袋が乱れてゐるのを直したのに、背中を向け歩き始めるや再びゴミが散らかつてしまふギャグに際しては、羽生研司か増田庄吾か入江広明がフレームの外から引く、袋につけられた紐に竹本泰史が引つ掛かりさうになつてしまふお茶目が見られる。それはそれとして通り過ぎるとしても、普通に考へると撮り直せば?
 今度は朝の電車で久須美欽一の痴漢に遭ひつつ、とりあへず初出社した真知子は目を丸くする。気を利かせて職場の新しい仲間にお茶を出した営業の守谷誠一(平川)が、きのふの夜に自身を痴漢した男であつたのだ。真知子がひとまづその場を何となく誤魔化すと、守谷は逃げるやうに外回りに、美保も愛車の水色のオープンカーを駆り華麗に出撃する。ともあれ真知子が溜つてゐた伝票の整理を始めると、殊勝にもお詫びのケーキを持参した守谷がコッソリ戻つて来る。そのままお気軽に破廉恥にも、互ひの体にケーキを塗りたくり致してゐたところに、客からの電話がかかつて来る。真知子が取ると驚くことに得意客らしく、電話の主は茂雄だつた。連絡を受け茂雄が勤務する山之上商事の応接室に出向いた美保は、日帰りの大阪出張のチケット販売と引き換へに、こちらも抜群に敷居の低い枕営業を展開する。茂雄に対してもツッコんでおくと、面識の有無に関らず、通常客からの電話に対しては「お世話になつてをります」といふぢやろ。御多分に洩れずなどといつてしまつては実も蓋も無いが、今作の劇中は感動的に狭く、滅茶苦茶にもストレス発散の為の電車痴漢を部下に説く茂雄の上司・津川慎一(久須美)こそが、何のことはないその日の朝現に真知子相手に痴漢を働いてゐた。茂雄も茂雄で美保の肉弾セールスを上役に吹き込むと、津川はポップに鼻の下を伸ばす。何とフリーダムな社会なのか、ある意味ユートピア映画だ。
 相沢知美は、この男もこの男で性懲りもない守谷が後日痴漢する、職業は看護婦の木暮玲奈。後に職場にまで押しかけた守谷によると、「僕は、白衣の天使が好きなんだ!」とのこと。平川ナオヒ(現:平川直大)の突進力でさういはれると、申し訳ないがウッカリ納得してしまはざるを得なくなる。玲奈は後述するが後に今作の頂点を極める完成度を誇る、画期的に鮮やかな手続きの片翼、の更に半分を担ふ。
 物語の本筋が集約されることは別になく、今作に於ける電車痴漢はあくまで味つけ程度に止まりこそすれ、真知子が間違つても向かひたくはなかつた、茂雄の職場に向かふ羽目になる段取りに、ピンクと同時に娯楽映画の肝たるべき、論理性が完璧に輝く。“完璧”と称したのは滑らせた筆ではない、無い知恵を幾ら絞つて如何に検討してみても、瑕疵が見当たらない。自身も美保の美肉に与らうと、津川がサニーサイドトラベルに電話を入れる。真知子はすぐさま連絡を取るが、生憎美保は車がエンストし立ち往生してしまつてゐた。それならばここは守谷の出番だといふ話になつたその時、当の守谷はといふと少し前の場面から引き続く、病院にて玲奈との濡れ場を大絶賛奮戦中。仕方なく、真知子は山之上商事への突入を決意する、といふシークエンスであるのだが、美保の足をそれまでに印象づけておく地味に強靭な伏線に加へ、いはば三人目の濡れ場要員ともいふべき玲奈のだけれども、否だからこそ必須の絡みを、ヒロインの命運の左右に利するアイデアが決定的に素晴らし過ぎる。局面が目まぐるしく変化する、カット割のテンポも抜群。女の裸と物語、女の裸だけだといふならば、それはそれで構はない。健康でストレートな―別にバイでもいいか―男ならば、映画だの何だのといふ以前に、当然女の裸は好きだらう。他方、女の裸はノルマごなしの刺身のつまで、主眼はあくまで物語といふ場合には、逆に概ね鼻持ちならない出来であることが多い。さうではなく、女の裸があつて動く物語、女の裸があつて初めて完成する起承転結。それこそが、ピンクで映画なピンク映画といふものの、矢張り理想形であるのではなからうか。茂雄が津川に振られた出鱈目な推奨から、オーラスを締める主人公の夫婦生活に導く流れも渋い。最終的には他愛もない世界観の中で繰り広げられる、のんべんだらりとした艶笑譚でしかないのかも知れないが、なほのこと圧倒的な強度を何気なく煌かせる、全く以てプロの仕事といふべき感動的に麗しい一作である。もうひとつ細かな点で目を引いたのが、昨晩の夫婦の営みに於ける騎乗位のグラインドを、翌朝の食卓、焼き上げた食パンを射出するトースターに繋げるカットのスマートさ。人の善意に水を差すかの如く転がるゴミ袋のギミックを、真知子にも再度使用する意図は判らなかつたが。

 ところで潤沢に配置される乗客要員の中に一人ショートカットの、主演女優よりも美人が居る。ビリングのトップにはこの頃のエクセス感が炸裂する一方、残りの配役はこちらも超絶に磐石なのだが、この辺りはもう、御愛嬌と捉へるべきであらう。


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