団塊太郎の徒然草

つれづれなるままに日ぐらし

なぜ効率ばかり追求すると利益が減るのか

2012-07-16 10:01:06 | 日記

なぜ日本の会社はiPadを作れなかったか いま、企業が成功を収めようと思ったら、アップルのiPadのように極めて革新性の強い商品を作り出すか、リッツ・カールトンのように突出したサービスを提供するか、ふたつにひとつしかない。
 ところが、日本の会社の多くは、どちらもできずに伸び悩んでいる状況だ。なぜ、そうなってしまったのかといえば、ひとことで言って、効率を追求しすぎたということだろう。

 たとえば、私の専門分野である編集の仕事を例にとると、編集者の多くはあまりにも多忙な日々を送っている。短いサイクルで、年間に何冊もの本を出さなくてはならないからだ。
 毎週のように企画会議があるが、毎回毎回、新しい企画、面白い企画をひねり出すのは大変だ。そこで、多くの編集者がインターネットを頼ることになる。面白そうな著者はいないか。若者の間で流行しているものは何か。人気の高い著者は誰か……。インターネットは一見、ネタを効率的に収集し効率的に企画を考えるために最適のツールのように思える。

 しかし、である。編集者の多くがインターネットを使ってネタを検索するようになってからというもの、企画会議で提案されるアイデアは、ほとんどが似たり寄ったりのものになってしまったのである。世の中が、過度に効率を追求するようになった結果である。
 そして皮肉なことに、効率的に儲けようとすればするほど、画一的なものしか生み出せなくなっていき、企業の売り上げも利益も下がっていく。近年の日本の電機メーカーの業績悪化が、その見本だろう。


■非効率こそ結果として効率的

 では、どうすればいいのか。参考になるのは、たとえばザッポスの経営だ。ご存じの方も多いと思うが、ザッポスは創業わずか10年目で年間売り上げ1000億円を達成した靴の通販会社である。ザッポスのCEOトニー・シェイの商法は「顧客を熱狂させる」とまで言われているが、その実態は脱マニュアルの経営である。

 一般的に電話による注文受け付けの場合、機械的な音声ガイダンスがあり、最後に登場するオペレーターもマニュアル通りの対応しかしない。ところがザッポスにはマニュアルが存在しないのだ。オペレーターは顧客と自由に会話を楽しみ、時には1件の注文を受け付けるのに6時間も費やすことさえあるという。
 マニュアルとはまさに、効率を追求するツールの象徴である。誰がやっても、最短の時間で同じ結果が出ることを目的に、マニュアルは作られる。ところがザッポスのやり方は正反対なのだ。そして、脱マニュアルの経営が、全米の顧客を熱狂させている。現代は、非効率こそ結果として効率的であるという、パラドックスに満ちた時代なのである。

 革新的な商品やサービスを生み出せるのは、従来型のエリートではない。むしろ、いわゆる職場の「異端児」だ。
 1日中イヤホンを耳に突っ込んで音楽を聴いている奴。いつも外回りと称して社外をうろついてばかりいる奴。仕事はろくにしないのにフェイスブックの友達の数が異様に多い奴。社内ではぱっとしないのに社外では有名な奴……。こんないささか怪しげな連中こそ、実は、斬新な商品やサービスを生み出す可能性を秘めている。もちろん、結果的には単なるダメ社員で終わるかもしれないが、少なくともルーティンの仕事を効率的にこなすだけの優等生よりも、将来会社に大きなメリットを与える可能性は秘めている。

 一見、社業と無関係な突飛なことを考えつく変人社員を抱え続けることができるかどうか。企業の未来は、その「ムダ」にかかっている。

-------------------------

作家
夏川賀央
なつかわ・がお●1968年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、大手出版社などを経て独立。著書に『残業ゼロですごい結果が出る時間術』(PHP研究所)などがある。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿