京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

黒澤明の『夢』を見て

2023-05-31 12:57:10 | 俳句
黒澤明の『夢』を見て
                  金澤ひろあき
 夢は不条理なものであるから、美しいものも恐ろしいものも、不可解なものも含んでいる。
かと思うと、現実が出てくるものもある。
 古い映画だが、黒澤明の『夢』を見直した。「こんな夢を見た」で始まる七つの話をつないだオムニバスである。
 狐の嫁入りを見て、狐を怒らせた話や桃の精に会う話。文明を批判・拒否して生活する水車のある村などは、映像が美しく何回も見たくなる。
 と同時に重いテーマもある。東京にいる市民が爆発した原発の放射線に追い詰められて行く話、核戦争後、生き残った人間が鬼になる話など、世界を破滅させる危険を予見している。
 これらの重い話の後で、「水車のある村」の美しい明るい生き方をラストに置く。どんなに苦しくとも、最後に救いや希望を見出したいという願いもあるのだろうか。
 確かに、夢と違い俳句は基本的に不条理の世界を描かない。現実をベースに描いて行く性質のものであろう。しかし、それだけになおさら、現実の危うさやそれを越える希望を描けるのではなかろうか。
『主流』NO、651に、
 片陰をあるく俳句に何ができるかと   田中陽
私も同じ悩みを考え続けている。色々な答えが出てくる。その時、この黒澤映画のことを思う。現実を描く。予見する。希望を持つ。そして、それらの中に美を見出す。口語で描けるものを描く中で実践したい。
 また、同じ号で印象深かった句がある。
  死んで神さまと云われるよりも人間をかえせ命をかえせ  暉峻康瑞
 「死んだ」というよりも「死なされた」人の本当の思いだろう。死んで神さまになった人達、例えば軍神などがある。日本の神は自然神以外に、偉大な人物や非業の死を遂げた人への慰霊で祀られているものがある。慰霊だけでなく、時の権力が「神さま」を利用することも、歴史で繰り返されてきた。
 死んで神様にされた人達の本音は何だろう。神になれて嬉しいのか、それとも「平和にもっと生きていたかった」なのか。危うい世界で生きている私達にとっても、過去の話、他人事ではない。
  夕陽折れているコロナ禍の無音       野谷真治
 現在、コロナと戦争が突き付けてくる不条理。どんなことが起こり、そしてどう生き延びてきたか。カミュのように書いて伝えて行くべきだと思う。この句の「夕陽が折れ」と「無音」がなまなましい。
 確かにコロナは収まりつつあるという。町には人出が回復しつつある。しかし、コロナはなくなったわけではない。コロナによって引き起こされた問題もまだ続いている。コロナは格差や分断、少子高齢化など、もとからあった問題をさらに増幅させてしまった。カミュも『ペスト』の中で書いている。「病は無くなったわけではない。じっと潜んでいて、いつかまた人類に不幸と教訓をもたらすのだ」と。
  法事終わり小鳥が水を飲みに来る    鈴木瑞恵
 私もこの四月に父を亡くした。大切な人を失った直後は、日常から切り離される思いがした。
 私の場合、あわただしく日常へ戻ったが、この句の筆者の場合、小鳥がそっと気を遣うようにやってくるのに気付いている。
 日常が戻ってくる。それは悲しみを癒す静かな日々であってほしい。小鳥という小さな命が、そのきっかけとなっている。



青い瓦の教会

2023-05-30 07:50:40 | 俳句
青い瓦の教会
         金澤ひろあき
教会の青き瓦や聖五月   ひろあき
屋根青き教会聖母へ白き百合
青き屋根百合の香りの聖母像
風の訪う聖母教会百合薫る
※大津市膳所の岡の上にあるカトリック教会です。昭和10年頃に建てられたそうです。瓦が聖母マリアゆかりの青ですが、写真では綺麗に出ないのが残念です。美しいステンドグラスは、信者さんの手作りだそうです。


フリー句(自由連句)「寝る前に」の巻

2023-05-29 12:50:53 | 俳句
フリー句(自由連句)「寝る前に」
寝る前にホエーに漬ける胡瓜かな  青島巡紅
*熱した牛乳に酢を加えると白い固形物と透明な液体に分かれる。ホエーとaはその後者。塩で味を調整して浅漬けにも使える。
一品増えた朝の豊かさ       金澤ひろあき
藤棚で弁当食べる家族の笑み    巡紅
いち早くTシャツ短パン姿にて   ひろあき
朝走る彼女の姿は凛々しくて    巡紅
練習の成果出たのは卒業後     ひろあき
冬桜ハン角斉の漫画かな      巡紅
デビュー遅いが注目集める     ひろあき
裕次郎「生きている限りは青春だ」 巡紅
アドリブで泣かせる演技できる人  ひろあき
幸福の魔法は愛し合う二人の秘密  巡紅
野の草の花を咲かせる五月晴れ   ひろあき
木漏れ日や遊び疲れた子の寝顔   巡紅
赤い薔薇香りに色のある如し    ひろあき
青信号アクセル踏めば赤色灯    巡紅
北海道原野の中に四車線      ひろあき
参拝者の思いの籠る千本鳥居    巡紅
生きている限り蔓草伸びようとする ひろあき
苦い酒華燭の典の数合わせ     巡紅
釣り合いがとれずに揺れるやじろべえ ひろあき
舌を出す女の子の顔笑ってる    巡紅
風薫る猫と木霊は出入り自由    ひろあき



シールなくなる

2023-05-26 07:44:05 | 俳句
シールなくなる
        金澤ひろあき
 2023年5月。足元のシールがなくなりました。スーパーのレジで、ソーシャルディスタンスを保つために、床に貼られた、立ち位置を示すシールでした。
 教室のアクリル板もなくなりました。外国人がまたたくさん来ています。マスクをしていないので、すぐに分かります。
 人が多くない所ではマスクをしない日本人も増えました。急に暑くなったので、マスクをしない人はもっと増えるでしょう。
 少しずつ、世界が変わりつつあります。
  若者の素顔と素足 疫終わる    ひろあき
※京都の最近の街角風景です。




フリー句(自由連句)「ランドセル」の巻

2023-05-25 07:51:17 | 俳句
フリー句(自由連句)「ランドセル」の巻
ランドセルまだ大きいな新入生     金澤ひろあき
雨上がりはしなだれるオオキンケイギク 青島巡紅
楠の三百回目の青葉そよぐ       ひろあき
陸舟の松義満公を覚えているとポリグラフ実験 巡紅
*フィクションです。出る可能性はあります。
北山に一休さんは知恵比べ       ひろあき
野へ山へ縄文人の先生招く       巡紅
豊穣の祈り女体土偶ふくらんで     ひろあき
湯気出るほかほかご飯にノリタマ    巡紅
お米来て日本の文化出来上がる     ひろあき
花に月人より素直に見上げてる     巡紅
木霊聞く原生林の入り口        ひろあき
北斗七星が見たいと朽ち果てた零戦   巡紅 
使われなくなったジャングルの滑走路  ひろあき
宇宙から日本列島見ると日々の小ささに頭ポリポリ 巡紅
釈迦の手の平いい気になった孫悟空   ひろあき
手で掴む星実は彼方で呑み込まれてる  巡紅
銀河鉄道終着駅のベルを聞く      ひろあき
江戸のあちこちにあった富士塚     巡紅
*富士信仰のために富士山の山体を模して造られた塚 
広重の五十三次由井の宿        ひろあき
※由井の宿は十六番目。由井の浜より雪の富士が描かれる。
江戸城よりも駿府城で過ごした家康公  巡紅
*駿府城は静岡市にあった城。
戦乱の幕を引く人今欲しい       ひろあき
真っ白な朝日の光に包まれて      巡紅