京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

蜻蛉日記 なげきつつ 現代語訳 第1~2段

2020-05-29 08:04:15 | 俳句
古典教材 よく出るシリーズ
 コロナ自粛の中で、学習の参考になれば幸いです。

蜻蛉日記 なげきつつ  現代語訳(1)

 筆者は藤原道綱の母。20歳ぐらい。御曹司藤原兼家に言い寄られる形で結婚。道綱を出産した直後の話である。訳文で「夫」とあるのは、藤原兼家。「私」は藤原道綱の母である。
天暦九年(955年)の記事

【本文】第一段落
 九月ばかりになりて、出でにたるほどに、箱のあるを手まさぐりに開けて見れば、人のもとにやらむとしける文あり。あさましさに、見てけりとだに知られむと思ひて、書きつく。
  うたがはしほかに渡せるふみ見ればここやとだえにならむとすらむ
など思ふほどに、むべなう、十月つごもりがたに、三夜しきりて見えぬ時あり。つれなうて、「しばしこころみるほどに。」など、気色あり。

【現代語訳】第一段落
 九月ぐらいになって、夫が出て行ってしまった時に、私は箱があるのを手すさびに開けてみると、夫が別の女の所に贈ろうとした手紙がある。驚きあきれて、私が(この浮気の手紙を)見てしまったよということだけでも夫に知られようと思って(次の歌を)かきつける。
 うたがはしほかに渡せるふみ見ればここやとだえにならむとすらむ
 (疑わしい。他の女に渡してしまう手紙を見ると、私の所には通わないようになろうとするのだろうか。 掛詞で「疑わしい橋を他の女のところに渡してしまって踏んでいるのをみると」の意味も含む)
などと思ううちに、案の定、十月末頃に、三夜連続、夫が見えない時がある。夫はなにくわぬ顔で、「しばらく(あなたの愛情を)試みるうちに」などと、思わせぶりなことを言う。

【語句説明】
九月・・旧暦九月です。「ながつき」と読みましょうね。
出でにたるほど
に・・完了助動詞「ぬ」連用形  たる・・完了助動詞「たり」連体形
ほど・・時
手まさぐり・・手でもてあそぶ 手すさび
人・・恋人 夫兼家は筆者が出産したにもかかわらず、新たな愛人を作ったのである。
やらむ やら・・「やる」=贈る  む・・意志助動詞「む」
文・・よみ「ふみ」 意味「手紙」
あさましさ・・驚きあきれること 「あさまし」は、意外に思う、驚きあきれるという心情を示す。
見てけり
て・・完了助動詞「つ」連用形  けり・・詠嘆助動詞「けり」
だに・・最低限のことを示す。 だけでも さえ
知られむ
れ・・受身助動詞「る」未然形  「夫に知られよう」=私がもう見て知ってしまったことを夫につきつける気持ち。
「うたがはし」の歌
掛詞 「うたがはし」の「はし」 ①「疑はし」と②「橋」
「ふみ」 ①「文」②「踏み」
縁語 「渡せ」「踏み」「とだえ」は「橋」の縁語
とだえ・・夫が来なくなること
むべなう・・案の定
十月・・「かんなづき」と読みましょう。
つごもり・・月末
がた・・頃
三夜しきり・・三夜連続=別の女と結婚 
この時代、男が女の所へ三夜連続通う。その後、三日夜の餅を食べて結婚成立。露顕(ところあらはし)をする。
 兼家はこのとき、町の小路の女と結婚した。
つれなうて・・何食わぬ顔で
気色あり 読み「けしきあり」意味「思わせぶりなことを言う」


蜻蛉日記 なげきつつ  現代語訳(2)

【本文】第二段落
 これより、夕さりつかた、「内の方ふたがりけり。」とて出づるに、心得で、人をつけて見すれば、「町の小路なるそこそこになむ、とまり給ひぬる。」とて来たり。さればよと、いみじう心憂しと思へども、いはむやうも知らであるほどに、二、三日ばかりありて、暁がたに門をたたく時あり。さなめりと思ふに、憂くて、開けさせねば、例の家とおぼしきところにものしたり。つとめて、なほもあらじと思ひて、   なげきつつひとり寝る夜のあくる間はいかに久しきものとかは知る と、例よりはひきつくろひて書きて、移ろひたる菊にさしたり。

【現代語訳】第二段落
 これより、夕方に「こちらは宮中の方角からは塞がっていたのだ(方違えをしなければならない)。」と夫は言って出たが、私は納得しないで人に夫の後をつけさせて行き先を見させると、「町の小路にあるどこそこに、兼家様はお泊まりになりました。」といって帰ってきている。やっぱり(新しい女の所)だと、とても不愉快に思うけれども、言う方法も知らずにいるうちに、二、三日ぐらいあって、明け方に門をたたく時がある。そう(夫の訪れ)であるのだろうと思うが、気が進まず、戸を開けさせないので、夫は例の女と思われる所に行ってしまう。翌朝、このままに済ましておくまいと思って、
なげきつつひとり寝る夜のあくる間はいかに久しきものとかは知る (あなたの愛が離れて嘆きながら一人で寝る夜が明けるまでの次の朝までの間はどんなに長いものかあなたは知っていますか、いや知らないでしょうね。 掛詞で「戸を開ける間も待てないあなたにはわかりますかね、いや、わからないでしょう」の意味も含む。)
と、いつもより改まって書いて、色が衰えている菊にさしてしまった。

【語句説明】
夕さりつ方・・夕方
内の方・・内裏の方角 宮中の方角 兼家の勤務先。
ふたがり・・この時代、陰陽道の占いが盛んで、貴族たちの行動を左右している。陰陽道の神様はいろいろな方角に移動されるらしく、そちらに向かって人間が行くと不吉だとされた。そのため、人間のほうが一回別の場所に移り中継地を作り、改めて神様がいない方角にしてから動いた。
 兼家はこれを利用(悪用?)して筆者の家から抜け出し、新たな愛人のもとへ行ったのである。
 後に花山天皇を策謀で退位させる位の人間なので、道綱の母をあざむくなど、簡単にやってしまったのだろう。
「ふたがりけり」の「けり」は気づきの「けり」。
心得で・・納得しないで 「で」は打消の意味
見すれ・・「すれ」は使役助動詞「す」已然形 「させる」の意味
町の小路なる・・町の小路にある 「場所―なり」は「場所にある」の意味。町尻小路という小路があり、そこに新たな愛人が住んでいる。西桐院大路の東にあった南北の通りであったという。
とまり給ひ・・お泊まりに 「給ひ」は尊敬語 主語は兼家
さればよ・・やっぱり
いみじう・・非常に
心憂し・・不愉快だ 心情語 筆者の心情が表れているところ。
いはむやう・・言う方法 「む」は婉曲助動詞 「やう」は「すべ」「方法」の意味
知らで・・この「で」も打消の意味
ばかり・・ぐらい
さなめり・・「そうであるのだろう」つまり「兼家が訪れたのだろう」と思ったのである。
憂く・・気が進まない いやだ 兼家はたぶん愛人の家からの朝帰りの帰り道に、筆者の家に寄っている訳で、そんな夫を入れたくない気持ちが出ている。
明けさせねば・・「開けさせないので」 
「させ」は使役助動詞「さす」未然形 「ね」は打消助動詞「ず」已然形
例の家・・愛人の家
おぼしき・・思われる
ものし・・「ものす」はいろいろな動詞の代わりに用いられる。この場合は「行く」ぐらいの意味
つとめて・・翌朝
なほもあらじ・・このまま(済ましては)おくまい 「じ」は打消意志の助動詞

「なげきつつ」の和歌
心情は「嘆き」
掛詞「あくる」 意味①「明くる」 次の朝の意味 ②「開くる」 戸を開けるの意味
いかに・・どんなに
久しき・・長い
かは・・反語の係助詞 

例より・・いつもより
ひきつくろひて・・改まって
移ろひたる菊・・色が衰えた菊
 夫に色が衰えた菊に和歌を添えて贈ったのである。この菊と和歌の内容はつながっている。色が衰えた菊のように、夫の愛もうつろい、衰えている。それを嘆いていることを伝えようとしている。


フリー句「やっぱり彼女」の巻

2020-05-29 08:02:14 | 俳句
フリー句「やっぱり彼女」の巻

やっぱり彼女にあげてもらえば良かった穴子の天ぷら 巡紅
テ-ブルクロス広げる万緑          ひろあき
酢飯できたよ海苔はこちら具はあちら     巡紅
輪をかいて狙い定めているトンビ       ひろあき
理系の庭電磁スクリーンでビリビリ御免ね   巡紅
風神と雷神踊る金屏風            ひろあき
虎退治を鼻歌交じりに一休さん        巡紅
愛欲肯定する詩を歌う            ひろあき
今世で得られぬ少女求めてダンテ「神曲」   巡紅
夕焼けの橋のたもとで始まる思索       ひろあき
家族サービスに疲れた男の向かう一杯飲み屋  巡紅
0時過ぎ敬語だんだんとれて行く       ひろあき
酔って無い人がお父さんになる夜明け前    巡紅
歌麿の描く団扇のおちょぼ口         ひろあき
一つのグラフからストロー二本キイロハギ   巡紅
太陽の塔のライトアップがブルーの日     ひろあき
今日はキスの日夜のデートのお楽しみ     巡紅
夢なら覚めるな魔法のランプ         ひろあき
夢から覚めて静かな寝息に安堵する      巡紅
生き延びてきた者どうし風薫る        ひろあき

フリー句「風鈴に」の巻

2020-05-28 08:11:48 | 俳句
フリー句「風鈴に」の巻

風鈴に疫病退散墨あらた       ひろあき
マイナス入れると吐、プラスだけだと叶、これで行こう 巡紅
「辛」と「幸」一文字ちがいで    ひろあき
お口の幸福は一種類だけではありませぬ 巡紅
コロナよけのマスクで皆覆われて   ひろあき
処変わればマスクして咳き込んだだけで暴行事件 巡紅
仮名手本忠臣蔵にある折り句     ひろあき
人界にあって神界にない異議申し立て 巡紅
肥後の海あまびえ現れご託宣      ひろあき
夢のお告げ、自分の事は当たらない   巡紅
シナリオの漢字に読み仮名書き込んで  ひろあき
御神名、漢字を当てる前の真名は何だったの 巡紅
位置情報デジタル信号キャッチする   ひろあき
複製は鍵からでも鍵穴からでも作れます 巡紅
金剛力士左右対称仁王門        ひろあき
黄色恒星には地球型惑星、ワ-プ航法  巡紅
自粛中とんでしまった計画蜃気楼    ひろあき
蒼い夕焼疎なドライアイスの雪気密服の鬼ごっこ 巡紅
追っ手退け千本桜大団円        ひろあき
熟年結婚「お米は駄目よ、多産の象徴だから」 巡紅

※水無瀬神宮は後鳥羽院をお祀りする神社です。その休憩所に風鈴がたくさん吊っています。疫病鎮めの文字が記されていました。


フリー句「葉葉の奥」

2020-05-27 08:11:57 | 俳句
フリー句「葉葉の奥」の巻

葉葉の奥宮にて名残花オホホホ   巡紅
新茶をいれてほっと一息      ひろあき
ホテル急急如律令の閑古鳥     巡紅
蘇民将来の子孫なりと疫病神を祓う  ひろあき
誕生日毎に封を開けるようにと手紙の束心肺止まる 巡紅
書き変えられない傷を癒す若葉   ひろあき
どの樹にも病葉があると知る思春期 巡紅
光有れば影あり十三夜の月は    ひろあき
今年も十五夜に狸は腹つつみするのかな 巡紅
紙芝居ちょうどよいところでまた次回 ひろあき
喜劇なら結婚で悲劇なら死でもって閉幕 巡紅
アンコール響き渡る人生の頂上    ひろあき
己が霊族が全て愛と理解の内に迎えてくれる 巡紅
狭き門より入れとそよぐ百合     ひろあき
紆余曲折経てやっと一つになれるとバイクの二人 巡紅
六月に再スタートをかけてみる    ひろあき
僕達は街ごと熔岩に呑み込まれた訳じゃない 巡紅
泥の中より生まれて輝く蓮     ひろあき
見えなくても見える位置に立て共存共栄 巡紅
嫁と姑交わす杯          ひろあき

今年は花見も十分にできませんでした。名残の花をいとおしむ気持ちで、木の下にたたずんで見ていました。

フリー句「人生初」の巻

2020-05-26 08:09:34 | 俳句
フリー句 自由連句 「人生初」の巻 2020年5月

人生初の在宅勤務亀が鳴く      ひろあき
タクシー流しても留まっても途切れることなく青い空 巡紅
そのままで悲しみ無い国に行けたらね  ひろあき
どの色が欠けても虹じゃない      巡紅
じゃあねと言って有頂天まで      ひろあき
まだ寝息をたてている女の尻を叩く   巡紅
テントには夏の朝日がさして来て    ひろあき
おはようとUFOが山頂で見え隠れ    巡紅
ト-ク番組スタジオ興奮        ひろあき
電波ジャックで大混乱        巡紅
大国が威信をかけて情けない     ひろあき
漁夫の利を鷗が奪い鳶が邪魔して、はい最初から 巡紅
ユーチューバー再生回数億超える   ひろあき
幼児になって何憚らず泣けば菩薩様  巡紅
初めてのお使い見送る燕の子     ひろあき
親の心子知らず水田なくてどこに餌いる今春 巡紅
あてもなくさ迷うだけさ広い空     ひろあき
月に火星に広がって腰痛恐怖で地球に戻れず  巡紅

 月にも火星にもほとんどの人が行けない私達のこの連句を、未来の人達は読んで、どんな風に感じるのだろう、なんてことを思います。