2022年8月 京都童心の会 通信句会結果
【選評】後半
○青島巡紅選
特選 73 草笛や一銭五厘で戦死した 暉峻康瑞
一銭五厘は、赤紙が来て本籍地にいない人物に送る葉書代。太平洋戦争中なら現在のお金にしたら70円程度。(以上、ネットデータ)親兄弟に徴兵がかかり、出兵し帰らぬ人となった。当時は周知の通り、戦死は名誉なことで、家の外では泣くことも叫ぶことも出来なかった。敗戦したおかげで、家の外、衆人の前で泣くことも叫ぶことも出来るようになった。敗戦していなければ、日本は中国や北朝鮮、ロシアのような独裁体制の国だっただろう。戦死者を含むあの時代に塗炭の苦しみを味わざるを得なかった人々のおかげで、現在の日本があるのだから、もっと僕達は知らなければならない。人の死が軽んじられる国に二度としてはいけない。
並選
①4 手首の曲線梅干常連客 野谷真治
長年通い詰めた居酒屋だろうか。「梅干」が効いている。店の主人にもお客さんにも同じようにあるのだろう。静かだが暖かい雰囲気のある店、知らずに入っても暖かいものを分けてもらえそうですね。
② 7 平凡が一番幸せあっち向いてほい 暉峻康瑞
その通りですね。ただ、「青い鳥」ではありませんが、色んな刺激を経ないと判らないのですね。「あっち向いてほい」が暗示しているようです。
③ 12 朝顔や水浴びして大暑かな 野原加代子
いつもよりたっぷりと水を朝顔に与えている。花も一息ついている。さあ、暑い暑い1日が始まるぞ。一緒に乗り切ろうと言っているようですね。
④ 18 コロナも熱中症も怖いマスクの板ばさみ 三村須美子
この句の言う通りです。問題は「コロナも熱中症も怖い」と言ってしまっているので、「マスクの板ばさみ」が生きてこない。「怖いマスクの板ばさみ」と言い切ってもいいのでは。
⑤ 20 合掌造りマンサクの根っこでしばる屋根柱 三村須美子
「合掌造り」→豪雪地帯→人々の知恵と工夫→マンサクの根→屋根柱。遊びというか、謎が残っていません。ぼくもこういう作り方をするので、いいなあと思ったのですが、詩と説明文だと後者になっていませんか。「合掌造り」を「大雪や」ぐらいにすると遊びの間が出来るように思います。
⑥ 22 白百合を種から育てまず墓に 三村須美子
子が亡くし親を、親が亡くした子を思う心とはこのようなものでしょう。
⑦ 23 恐竜の吐き出すポケモン夏休み 三村須美子
イベント会場、恐竜の暑苦しさから意外な物が出てくる、と思うのは僕に子供や孫がいないからでしょうか。
⑧ 30 昨夜見た夢は山盛りさくらんぼ 蔭山辰子
子供の頃の原風景の一つででょうか。まだ桜桃が高価でオヤツにお腹一杯食べたいと思った記憶が蘇ったのででょう。人それぞれの欲求は違っても夢に出てくるのは同じですね。
⑨ 51 思い出が違う夫婦の流星群 金澤ひろあき
同じ場所に立って見ていても、方向や角度によって異なってきます。興味や関心の違いによっても、肯定や否定の度合いも変わってきます。記憶は自分の都合のいい方向に研磨されます。同じ人間は一人としていないのです。
⑩ 52 残暑続く「待ち人遠し」と告ぐみくじ 金澤ひろあき
涼しくなって欲しいのになってくれない。気分を変えようと御籤をひいても同様な内容のものをひいてしまう。良い事は続かないが悪い事は続くと言われるとおりに。大人の溜息ですね。
⑪ 59 まっさらな紙幣秘仏のお賽銭 金澤ひろあき
生きているうちに見られるものもあれば、見られないものもある。行けば必ず見られるものではない秘仏。ならば見られる機会を得た幸運と仏様に対する感謝の気持ちの表現をどうするか。一つのナイスな方法だと思う。
⑫ 62 私好みの猛暑白粉花は盆踊り 白松いちろう
言い得て妙。ロート状の花が四方に伸びて、まるで手を広げて踊っているかのようです。夕方から翌朝にかけて花は咲いて午前中には萎みます。盆踊りにやってきて去っていく人の群れの様にも似て。
⑬ 68 甲子園の教え土壇場の逆転 白松いちろう
諦めたらお終い、諦めず頑張れば道は開ける‥‥こともある、そんなドラマめいた瞬間劇を確かに甲子園は見せてくれますね。
⑭ 71 草いきれ夢から覚めたら憲兵がいた 暉峻康瑞
夢の中で夢を見るというものだろうか。それとも作者の体験だろうか。「草いきれ」が生きている。猛暑日に草叢が高温多湿になる状況は耐えがたい。あらぬ活動をして恐らく寝汗をかきうなされるような夢を見て目覚めれば囲まれていた、というような状況下だろうか。ただ、もっと緊迫感を出せるものと交換してもいいように思える。
⑮ 75 学徒出陣母は押入れで泣いた 暉峻康瑞
太平洋戦争中は嫌というほどあった光景ではないだろうか。戦争に駆り出されることが国家の為でめでたいことだと本気で思った親はいなかっただろう。こんな時代に戻ってはいけないのだ。
⑯ 76 老兵を叱るな童(わっぱ)蝿を打つ 暉峻康瑞
個人の自由はなく思想統制され、ただ国の命令に盲目に従うしかなかった個々の兵士。子供は、そんなやるせない大人の感情も知らず蠅を打って戦争をした、せざるを得なかった大人に無言のプレッシャーを与える。無邪気にそうしていても、戦争に加担したという後悔のある人物には自分が責められているような気持ちになってしまう。
⑰ 79 刈っても刈っても雑草永田町のようだ 暉峻康瑞
インパクトが大事です。「のようだ」は不要だと思います。「刈っても刈っても雑草」=「永田町」でバッチリです。
⑱ 82 神輿洗う錦の男衆総出 中野硯池
普段色の黒くならない場所で仕事をしている人達とは思えぬ活気と手際の良さ。無形伝統文化の極みを見るような思いで見てしまった。
⑲ 85 人梯子して鉾の稚児地に返す 中野硯池
祇園祭においては稚児は神の使いもしくは神の化身という位置があたえられる。鉾の上、神域の位置から地上に戻る手順といったところだろうか。稚児の前に立ち落ちないように全身全霊で稚児を守る姿は、神代の時代にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。
⑳ 89 八月や戦争知らぬ子は喜寿に 中野硯池
W特選にしたかった句です。特選した句対局と言うとオーバーですが、こちらは自分の子も77歳となったか、太平洋戦争からすでにそれだけの歳月が経っているのかと、記憶の風化にも拍車がかかる、と危惧されている。長寿な作者ならではの句ですね。
【お便り紹介】
○堀川はるひ様
残暑お見舞い申し上げます。
猛暑とコロナ禍の再燃等々、何かと落ち着かない日々が続きますが、お元気でお過ごしですか。
いつも童心の会を有難うございます。特に冒頭の文章を楽しみに読ませていただいています。
私はこの夏、毎朝、洛東高校前の疎水べりの道を歩いています。朝の空気はすがすがしく一日の活力源です。
まだまだ暑い日が続きます。どうぞご自愛専一にお過ごし下さいませ。
○暉峻康瑞様
京都の夏は大変でしょう。されど春夏秋冬日本の四季もこれ又ありがたきことなり。
人間の文明は、欲望の岩石ですね。もし地球が黄金で出来ていたら、人間わずかな岩石のために戦争を始める事でしょう。
【お知らせ】
句会 9月18日(日)午後2時
阪急長岡天神駅東口 喫茶 アーバンにて
2022年記念号 入稿しました。
10月句会 16日(日)にはお渡しできそうです。
遠方の参加者の方には郵送します。
お待たせしてすみません。