書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「リピート」乾くるみ

2021年05月29日 10時00分35秒 | 読書
「リピート」乾くるみ


「イニシエーションラブ」「セブン」に続き,乾くるみの3冊目.

シチュエーションミステリーとでも呼ぼうか.
現実にはあり得ないけど,もしこんなことが可能だったら,その後にどんなことが起きるだろうか?
前提は荒唐無稽だが,それ以外の部分は徹底的にロジカルに徹することで意外な結末を誘う物語.

決められた時間に決められた場所に行くと,時間の穴があり,そこに飛び込むと10か月前に戻れる.
その際,自分の意識と記憶はそのままの状態で,10か月前に居た場所の自分の肉体に,スッと入っていく.
これが前提.
もしこんなことが可能だとしたら,あなたはどうする?
競馬の大穴の結果を覚えて行って,大儲け?
値上がりすることがわかっている株を買う?

イニシエーションラブを書いた乾くるみ作品である.
そんな美味しい話だけでは済まないことは当然予想できる.

結末は読んでのお楽しみということになるが,正直言ってあまり道徳的・倫理的に好ましい話ではない.
人間なんて所詮身勝手なものさ,という諦観に立たないと最後まで読み通すのは苦痛かもしれない.
哲学的思考とは対極の人生観に基く小説だ.
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「データの見えざる手~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」矢野和男

2021年05月20日 10時53分02秒 | 読書
「データの見えざる手~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」矢野和男


この20年間でAIと呼ばれる研究分野はすっかり様変わりしてしまいました.
それまでは,AIとは,人間(科学者・研究者)が地道に研究してきた「特徴パラメータ」をもとに現実世界を「モデル化」し,未知の状況をそのモデルに当てはめることで,何かを判断する機械でした.
つまりモデルを作るために必要な,生データから特徴を抽出する手法は,専門家が過去の知識や研究成果をもとに決めていたのです.
というか,その特徴を抽出する手法そのものが研究対象だった,と言っても過言ではないかもしれません.
しかし,2000年ころから,そのような人間が決めた特徴パラメータによるモデル化の限界が明らかになり,それを打破する「新しい」AIが次々と発表されてきました.
何が新しいかというと,人間の知恵を必要とする特徴パラメータを使うのをやめちゃったのです.
生データ自身から自己完結的に特徴を導かせる手法が提案されてきたのです.
「スーパーで,紙おむつと缶ビールを近くに置くと売れ行きが伸びる」ですとか,「婚活を頑張りたい人は家電量販店に行きなさい」とかが一時期テレビのバラエティや情報番組で話題になりましたよね.
あのような話は(中には若干出所が怪しいものもありますが),いくつかはきちんとした上記の手法で導かれたものなのでした.
要は,今までは神を目指して研究するのが人間の役目だったのが,人間には人間の役目があるでしょう,未知の特徴を見つけるのはデータ自身にやらせなさいという発想ですね.
前置きが長くなってしまいましたが,この本は,著者の矢野さんが日立の研究所にて電子が単独で動作する半導体を開発した後に手掛けたテーマに関するもので,歴史的な経緯も含めて丁寧にわかりやすく解説したものです.
半導体をやられていただけあって,量子力学,統計力学,熱力学などへの造詣が深いのは当然ですが,その知識を情報の世界に応用した点が画期的だと思います.
さらに興味深いのは,提案するAIを使って,収支を改善し経営的に貢献するシステムをうまく作ると,社員の幸福度があがるという副産物まであるというのでした.そんなうまい話があるわけないと直感的には思うわけですが,どうも本当のようです.
疑われる方は本書をご覧いただいてお確かめください.
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「脳を司る『脳』」毛内拡

2021年05月19日 11時45分38秒 | 読書
「脳を司る『脳』」毛内拡


有り難いことに最近,多くの良書に巡り合えている.
特に,最近アップした「心理学用語大全」や「物語 アメリカの歴史 超大国の行方」はエンタテーメントではなく,私の人生観やライフワークに影響を与えそうな知識を得た本だった.

この「脳を司る『脳』」は,お茶の水女子大で生体機能組織学を研究する新進気鋭の学者である著者の,これまでの研究成果と周辺技術を専門外の読者にわかりやすく伝えるためのものである.
この本は,(おそらく)この分野の専門家には常識的なことかもしれないが,一般には大きく誤解されている意外な事実を実にわかりやすく解説してくれている.
「大きく誤解されている意外な事実」とは何か?
  脳はニューロン(神経細胞)の集合体であり,ニューロンはお互いにつながりあって電気信号をやり取りしている,
  人間の記憶や感情はこれら電気信号のなせる業である.
  つまり,脳の機能はこれらニューロンのネットワークがどうなっているかですべてが決まる.
と,思っていないだろうか?私はそう思ってきた.
しかし,この本によると,そうではない.
もちろん,記憶や運動など脳の基本的な機能の多くに,シナプスを介したニューロン相互の電気信号のやり取りが大きく貢献していることは間違いない.
ただ,それだけではないのだ.
キーワードは「細胞外スペース」である.脳には20%ほどの神経細胞以外のすきま「細胞外スペース」がある.
細胞外スペースは間質液(脳脊髄液)で満たされており,そこには神経修飾物質がある.
この神経修飾物質が,細胞外電場等の間接的な影響をニューロンに及ぼし,発火のしやすさをコントロールしている.
詳細は省くが,人間が感じる気分,緊張感,至福感などの心理的機能や精神機能は細胞外スペースが司っていると言える証拠が見つかりつつある.

というような話だ.
一部のAI研究者が言うように,ニューラルネットワークを究極的に発展させると人間の脳に匹敵するものを作ることができる,というのは原理的に不可能な話のようなのである.
著者の表現を借りるなら,ニューロンは有線ネットワークを作っているが,脳内には細胞外スペースというワイヤレスネットワークがある.
ということで,脳の本質を理解するには,脳内のワイヤレスネットワークの研究が必要のようだ.
グリア細胞やアストロサイトにその鍵があるようで,今後の研究が待たれる.
脳の不可思議な新たな一面を知ることができて,脳からウロコが取れた気分だ.





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「物語 アメリカの歴史 超大国の行方」猿谷要

2021年05月15日 10時20分39秒 | 読書
「物語 アメリカの歴史 超大国の行方」猿谷要


定年退職した我が身ではあるが,2020年の最大のストレスはもちろん,コロナ禍であった.しかし,それと同じくらい私のメンタルにダメージを与えたのはアメリカ合衆国大統領ドナルドトランプの言動であった.
とはいえ,落ち着いて考えてみれば,それが許せるものであろうがなかろうが自由の国アメリカでは,どんな発言も彼の勝手である.
問題は彼のような人物が世界最大の経済大国,アメリカ合衆国大統領に当選したという驚くべき事実である.
4年前アメリカ国民は,たとえ僅差でも,ヒラリークリントンではなく彼を大統領に選んだわけである.
私個人としては,仕事上それなりにアメリカの科学技術に興味を持ち,いろんな書籍等も読んでいたので,ある程度文化的な側面もわかったつもりになっていた.
しかし,これまでの知識をどう動員してもトランプが当選する理由を理解できなかった.
直観的に思ったのは「建国以来の歴史を踏まえたアメリカ人の心の中」を,実は全く理解していなかったのではないかということだ.
私が知っているのは,あくまで現代のアメリカだ.
GAFAとマイクロソフトとシリコンバレーが世界経済を動かし,ノーベル賞をたくさん取り,野茂,イチロー,大谷翔平が活躍するアメリカである.
そんなモヤモヤした気持ちの中で,手に取ったのがこの本だった.
正解だったと思う.
いままで,何となくわかった気になっていたものの,実は全くわかっていなかったアメリカの歴史を初めて(ごく一部ではあるが)理解できた気がする.
特に,先住民(アメリカインディアン)に対する政策から始まる人種差別問題は,我々日本人には想像しえない複雑な問題がからみ,現在のアメリカ人自身にも葛藤を与える要因となっていることが理解できた.
4年前にトランプ大統領が当選した理由も,是非はともかくとして,少し理解できたかなと思う.
ただし,このままでは,アメリカが世界から尊敬され真のリーダーになることは相当難しいと思う.
バイデン大統領の国際協調路線が奏功することを願ってやまない.
なお,この本が書かれたのは1991年なので,その意味では日本の平成の30年間の記述はすっぽり抜けていることを留意して読む必要がある.
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