書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

「心はこうして創られる 即興する脳の心理学」ニック・チェイター著 高橋達二・長谷川珈 訳

2022年12月08日 09時36分55秒 | 読書
「心はこうして創られる 即興する脳の心理学」ニック・チェイター著 高橋達二・長谷川珈 訳


人の「心」に関する従来の常識を打ち砕く書籍です.
心理学・哲学で打ち立てられた様々な理論や仮設を見事なまで粉砕しちゃってます.

フロイトなどは単なる否定ではなく,「相手にもしない感」があって,ある意味清々しいんです.

一時期,今となっては大昔になったけど,人間の脳はノイマン型コンピューターと同じように,中央処理装置(演算装置),記憶装置,入出力装置などから構成され,入出力装置である目や耳から視聴覚情報を入力し,記憶装置の脳の一部で記憶し,中央処理装置である脳の別の一部で判断した結果によって手足を動かしたり,口で言葉を発したりする自動機械と考えた時期もありました.
マシンの処理さえもっと速くなれば,人間の脳を機械で実現可能と当時の研究者は考えたわけね.
しかし,その手法では,とてもコンピュータを人間に近づけることはできないことが明らかになったので1990年代です.
その後,機械学習,特にニューラルネットワークの進歩とともに,認識や判断には中央処理装置をアルゴリズム(人間が作ったプログラム)で駆動して判断させるのではなくて,データをネットワークに通して自動学習させ,未知のデータに対処するテクニックが急速に進歩しました.
その結果,人間に追いつくどころか,人間の能力をはるかに凌駕するシステムが次々に実現されてきた.アルファGoやワトソンなんかですな.

このような状況を知っているので,AIやICT関係の研究者・技術者で人間の脳をアルゴリズム機械と考える人は一人もいないものと思いますが,心理学者・哲学者にはまだまだそういう人がいるらしい.
この本が話題になること自体,そういうことなんじゃないかな.

この本は,従来の学説にとらわれている心理学者・哲学者だけでなく,AI・機械学習の研究者や技術派にも大いに参考になる内容も含まれています.
いえ,そう書いてあるわけじゃなくて,私が勝手に想像しただけなんですが,AI・機械学習はディープラーニング全盛で,CNNやRNNを論じないと未来はないみたいな雰囲気があるけど,いや待てよと,

この本で,アルゴリズムに相当する心の内側世界は完璧に否定され,心には表面しかないと強調されていますが,心の表面では過去の前例から即興的に浮かび上がる認識をこころが掬い取る「思考のサイクル」があると述べられています.
「思考のサイクル」ということはそこに繰り返し処理があるということで,微視的には小さなアルゴリズムが回っているという気もします.
この辺が新しいAIにつながらないかな,と埒もないことを妄想している今日この頃です.

それにしても近年まれにみるエキサイティングは本でしたね.
代金の2000円の百倍の価値があるかもしれません.
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする