書く仕事

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「蒼穹の昴」浅田次郎

2007年04月24日 21時29分12秒 | 読書

浅田次郎さん渾身の歴史長編.
最高傑作との評判にふさわしい満足度です.
面白いの一言に尽きます.
同じアジアにありながら,我々がほとんど実態を知らなかった(少なくとも私は...)清という大国について,本当にわかり易く,内容濃く教えてくれます.
物語の時代背景は,中国清朝末期の天津と北京.日本でいえば明治中期から大正時代まで.
上下巻800ページを超える超大作だけあって,多くの登場人物が出てきますが,無駄な配役がなく,登場人物一人ひとりが活き活きと個性的に描き分けられており,見事というほかないです.
その中で主役といえるのは次の2人.
李春雲(春児チュンル):貧しい家の生まれで,働き口を見つけるために浄身(男性の大事なところを切除しちゃうこと)して,宦官になってしまいます.
梁文秀:春児が住む地方の領主の次男坊.出世を期待されながら,うだつのあがらない兄を尻目に,高級官僚への超難関の試験,科挙に合格してしまいます.今の日本で言えば,上級国家公務員試験と司法試験と公認会計士試験にいっぺんに合格してしまうようなものかな?

春児が生きるために飛び込んだ宦官の世界と,文秀が目指した高級官僚の世界とは,実は宮廷の一点で結びついているのです.
この2人の数奇な運命,政治の舞台の表と裏,そして様々な人々との出会いと別れが,旧王朝から近代的国家への脱皮に苦しむ清国を舞台に,驚くべきエピソードとともに綴られていくのです.
ひとつひとつのエピソードが皆,ドラマティックに描写されるので,大河ドラマの見せ場ばかりを連続して見せられるようなもので,全く息をつく暇もありません.
歴史物なのに,インディージョーンズの映画を見ているような感覚に陥るほどです.
そう,大河ドラマ版ジェットコースター状態ですね.
次は何?その次は何があるの?っていう感じです.
ドンパチではなくて,物語の展開でジェットコースター感を与えてくれるといえば,お分かりいただけるでしょうか?
世界史の時間に習った李鴻章が外交・軍事の最高責任者として,ものすごくカッコいい役で登場します.
また,同じく歴史の教科書に出てくる袁世凱が,体制の旧守派として,ものすごい悪役で登場します.
この辺は,やや実際の歴史とは違うような気もしますが,まあ,面白いからいいか,ということで.
後半には伊藤博文も登場し,え~そんなこともあったの?という,びっくりのエピソードもあり,本当に面白いです.
中学高校で歴史で苦労し苦手だという人に,是非この本を読んでいただきたいです.
「なんだ~,歴史って面白いじゃん」っておっしゃること間違いありません.
ただし,この本は忙しい時に読んではいけません.
仕事が確実に遅れます.
でも,たとえ仕事が遅れて上司にしかられても,次のページを読まずにはいられないほど,読む楽しさを味わわせてくれる小説です.


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うれしいです (もりちえ)
2007-04-25 10:52:31
文章から「楽しかった!」という気持ちが溢れていて、この本を好きな一人の読書人として嬉しいです。
私は学生時代には歴史は好きだったんですけどね。大学に入ってからというものの、歴史物を読むわけでもなくどんどん遠ざかってました。
でも、この本では刺激されましたね。歴史物もいいかもしれない!手始めに高校時代に読んで面白かった記憶がある「水滸伝」「十八史略」あたりを再読をしようかと思ってたんですが・・・まだ手をつけてません(^^;
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>もりちえさん (coollife)
2007-04-25 22:40:15
はいはい、もう、超面白かったですね。
私も今まであまり時代物は読んでなかったですけど、いやあ知りませんでした。
こんなに面白いものがあるとは。
実は、今日大学の図書館で、三国志の第1巻を借りてきてしまいました。
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興味津々 (kitchentosan)
2007-04-26 14:07:23
coollifeさんのブログを見て、読んでみたくなりました。
早速図書館へWebで予約。
上巻がまわってきました。
今日、借りてきます。楽しみです。
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>kitchentosanさん (coollife)
2007-04-26 21:19:33
コメントありがとうございます。
ゆっくりとお楽しみ下さいませ。
ご感想のブログを楽しみにしています。
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歴史のうねり (仙丈)
2007-04-29 00:03:17
私もこの本を讀みました。
清といふ大帝國がなぜ西歐列強の食ひ物にされてしまつたのか。
官僚制と宦官。
いや、歴史のうねりといふものを感じました。
歴史そのものが主人公といふ氣がしたのです。
淺田次郎の手にかかると、難しいことも、頭ではなく胸にしみこんで來ますね。

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>仙丈さん (coollife)
2007-04-29 07:48:27
同感ですね。
歴史というのはもちろん人間が作り出しているのですが、同時に歴史のうねりというか、時代の流れみたいなものが人間を動かしているような気もしました。
人間と歴史との相互作用というのでしょうか?
あるいは、歴史自体が歴史を作り出しているということも言えそうです。
何はともあれ、面白かったです。
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西太后 (仙丈)
2007-04-29 09:50:34
一般には清帝國が滅ぶ一因として西太后の存在が擧げられてゐるやうですが、この本では西太后を惡女としては描いてゐません。
ああ、歴史は一人の「惡女」が作り出すやうなものではないのだ、そんなことを感じました。
昨年のGWには北京に行つて來たのですが、西太后が夏を過ごしたといふ頤和園にも行つて來ました。
そのスケールの大きなことには驚いてしまひました。
ご參考までにTBさせて頂きますね。
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>仙丈さん (coollife)
2007-04-29 17:18:12
私も西太后の悪女伝説に惑わされた一人です(笑)
仙丈さんは北京に行かれたのですか?
私は中国には行ったことがないので、想像でしか言えませんが、この本を読んで、頤和園を見ると、また感慨もひとしおでしょうね。
私も中国に行ってみたくなりました。
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読み終わりました (kitchentosan)
2007-05-18 11:37:49
やっとのことで、上下巻読破しました。歴史の不得意な私には、最初時代にせよ登場人物にせよ全然わからなくて、どうなることかと思いましたが、清の歴代皇帝をネットで調べたり、登場人物を忘れまいとメモを取ったりと、まあ忙しい読書になりました。
この本に書かれている内容が、どれだけ実際と合致しているかを調べるつもりはありませんが、全てが事実のように感じさせる著者の力と表現力はすごいと思いました。
小さな頃に歴史に興味を持てていたなら、今の私がもっと違ったものになっていたかもと思うと、不勉強を後悔しています。
読んでためになる一冊でした。
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