風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

暗闇で聴く古典芸能 @横浜能楽堂(6月21日)

2014-06-22 02:22:13 | その他観劇、コンサートetc




最近はお能や文楽にも無節操に手を伸ばしている私ですが、非都民にとっては上京する交通費というのも馬鹿にならないのでございます。
しかし歌舞伎や文楽は無理でも能楽堂は郊外にもあるらしい、と知りググってみたところ、めっちゃ近くにあった!能楽堂!
んーと、公演スケジュールは・・・と
お、『暗闇で聴く古典芸能』っていうの、面白そうではないか。
早速、お〇ぴに格安で出ていたのをゲト。交通費がかからず、チケットも格安とは、ありがたや~。

さて、この「夏至の日に暗闇の中で耳を澄まし、古典芸能を楽しみましょう」という横浜能楽堂による企画公演。
ローカルな公演かと思いきや、人間国宝さんが三人もご出演。
そして、2月に拝見したばかりの嶋大夫さんも♪

【プレトーク】
まずは、アナウンサーの葛西聖司さんの司会で、40分間ほどのプレトーク。

近藤乾之助さん。「暗闇の中での能というのは、いかがですか?」との質問に、「つまらないですねぇ…」といきなり全否定、笑。「能は相手があって、相手が自分を動かすものだから、相手が見えないのは面白くない」と。
『西行桜』については、「サッパリした演目」と。そして「最後にシテもワキも囃子もみんな舞台からいなくなった後、舞台に面だけが残っているような、そんな感じがする演目」だそうです。素敵ですねぇ

嶋大夫さん。16歳で若大夫師匠に入門して最初に習った演目が、この『卅三間堂棟由来』だったとのこと。「1月4日に入門し、1月5日からお稽古でした」と細かな日付を嬉しそうに話される嶋大夫さん^^
お母様は文楽の道に進むことに大反対されていて(文楽か相撲かと言われるほど厳しい世界だったから)、ご出身の四国から大阪に着くまで、船の中でも列車の中でも、「次の駅で帰ろう」「次の駅で帰ろう」と言っていたそう。そして入門して三か月後に巡業があって、もちろん嶋大夫さんは役に付いていなかったけれど、ある日滞在先の宿で突然「お母さんをここに呼びなさい」と、そして「卅三間堂棟由来を語りなさい」と言われたそうで、語り終えた後、お母さんは大泣きしていたそうです。
また、文楽で植物の精が出てくるのは、この演目だけとのこと。これは母と子の物語だと思う、と。
嶋大夫さんって、少年のようなお顔で浄瑠璃の話をされるんですね。本当に浄瑠璃がお好きなのだなぁ、とほんわかしてしまった(*^_^*)
お辞儀もきっちりと美しくて、見ていてとても気持ちがよかったです。

そして20分間の休憩の後、暗闇に。
といっても、完全な暗闇ではありません。足下灯が意外と明るいので、歌舞伎座の照明を最も落としたときや、月のない田舎の夜の方がずっと暗い。でも目を閉じれば、暗闇になります。


【素謡 「西行桜」】
シテ 近藤乾之助
ワキ 當山孝道

今回の4演目のなかで、一番演者がやりにくそうに感じられたのが、このお能でした。先程の乾之助さんの言葉も、なるほど、と。また素謡では声が聴こえてくる位置がずっと変わらないので、演者が動いている本公演に比べると違和感があり、また、味気なくも感じてしまいました(ちなみに義太夫の場合はもともと同じ位置で語っているから、気にならなかった)。
この演目だけは、目を閉じるよりも、目を開けてしまった方が楽しめました。目を開けると、闇の中にぼんやりと能舞台が浮かんで見えるのです。足下灯は舞台上まで届かないので、そこは完全な暗闇。その中から謡の声だけが聴こえてくると、まるで昔の演者の亡霊がそこで舞っているようなそんな錯覚を覚えて、この感覚は楽しかった。この能舞台は関東で一番古い能舞台とのことなので(明治8年のもの)、一層そう感じられたのかもしれません。草木国土悉皆成仏、舞台にもきっと霊のようなものが宿っているのでしょう。
またプレトークで能一般について「悲しいものを悲しく謡ってはいけない」と仰っていましたが、能のこの抑制した謡がかえって観る者に情景や感情をストレートに伝える(想像させる)ということもあるのかもしれないなぁ、と感じたりもしました。
とはいえやっぱり、「声だけじゃなく、舞も観たいなぁ」と思ってしまった。
観る前は暗闇と能って合いそうと思ったのですが、実は一番合わなかったとは、面白いですねぇ。

【一管 「津島」】
笛 松田弘之

メロディがあるようなないような不思議な曲で、目を閉じて真っ暗闇で聴く笛は、昔の人達の感覚を類似体験しているような感覚になれました。
笛の音って好き。楽しかった!

【語り組踊 「手水の縁」~忍びの場~】
唱え 宮城能鳳
三線 西江喜春

組踊は初体験。
事前に詞章を確認して行ったにもかかわらず、何を言っているのか殆ど聴き取れなかった… 恐るべし、琉球。
にもかかわらず、のどかな音階と大らかな琉球語の響きの、耳に心地よいこと。暗闇とも不思議としっとり合ってる。
そして驚いたのが、西江喜春さんのお声。なんてお声でしょう!聴き惚れて、聴き惚れて。あんな発声のあんな音程の声、初めて聴いた気がする。それに最後まで細くならないあの声量。また聴きたいなぁ。殆ど歌詞は聴き取れなかったけど泣!

ここで10分間の休憩。

【素浄瑠璃 「卅三間堂棟由来」~平太郎住家より木遣り音頭の段~】
太夫   豊竹嶋大夫
三味線 豊澤富助

プレトークでも「床本は太夫にとって命の次に大事なもの」と仰っていたとおり、暗闇でも床本をセット(ペンライトのような光が見えたけれど、読まれている感じはなかったです)。
先月国立劇場でされた演目ですが(私は未見)、今回は主催側からの依頼で詞章を短縮されたとのこと。それが聴いていてかなり気になってしまい、イマイチ集中できず残念……。だって平太郎、高鼾かいて寝込んでいたはずなのにいつの間に起きたのよ??(起きた場面がカットされていた)
とはいえ、人間の感情がいっぱいに溢れる、この暑苦しいくらいの義太夫の人間味、やっぱり好きだなぁと。なんだかほっとした気分になりました。
ところで、三味線って暗闇の中でも弾けるんですね。知ってはいたけど、おおーと思ってしまった。
そして太夫と三味線弾きがお互いを見ていないことも知っていましたが、暗闇の中でも見事にピッタリ息が合っていて感動してしまった。だって何分の何拍子とかで語っているわけじゃないのに、しかも今回は詞章も変更しているのに、すごいー。と、文楽ド素人の私は感心しきり。
でもやっぱり、「人形や、太夫の語っている姿や、三味線の弾いてる姿が観たいなぁ…」と思ってしまった^^;
語り終えた後、歩いて舞台を去られる姿が、見慣れていないせいか不思議な感じでした。


以上、「あえて暗闇にする意味は果たしてあったのか?」という気もちょっといたしましたが、なかなかない貴重な体験ができたことは確かでした。
これからもこういう面白い企画はどんどんやってくださいまし!

能楽堂から出たら、陽はとっくに沈んでいるのに、空が明るくて。やっぱり都会の空というのは明るいのだなぁ、と改めて感じながら家路につきました。



紫陽花の花咲く、能楽堂への坂


お腹が鳴らないように、公演前に腹ごしらえ


日の長い夏至の空

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