風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

追悼 山崎豊子展 ~不屈の取材、情熱の作家人生~ @横浜高島屋ギャラリー

2015-11-01 20:21:58 | 美術展、文学展etc


『大地の子』の取材で上海宝山製鉄所にて(文芸春秋)

人類の不幸は戦争から始まるのだ。ああ平和、これこそ今、全人類の希求するものだ。白煙のもうもうと立ち上る焼きただれたこの姿、私の胸から一生忘れられない焼き印だ。地下鉄の改札口にべったり坐ってうずくまる人々は、昨日までは豪華な生活をしていた船場商人ばかりなのだ。まことに人の運命のはかなさをまざまざと知る。
(昭和20年3月14日の日記。21歳)

山崎豊子さんの作品は、小説は『大地の子』を、ドラマは『大地の子』、『白い巨塔』、『華麗なる一族』、『不毛地帯』を観たことがあるくらいでしたが、今日の資料や映像を見て、他の作品も読んでみようかナと感じました
『山河燃ゆ』(松本幸四郎)、『沈まぬ太陽』(渡辺謙)、『運命の人』(本木雅弘)などの映像作品も観てみたいな。

以下、展示についての覚書。

・生まれ育った大阪船場の老舗昆布屋の模型など

・年表
ええと私の年齢(39歳)のときは・・・と・・・『白い巨塔』の連載開始とのこと。わが身に照らして、はぁ・・・と溜息

・遺品の中から出てきた、昭和20年1月~3月(20~21歳)の日記
恋人の出征や3月13日の大阪大空襲時の様子が克明に記されていました。日記というよりも小説に近く、若さを感じさせる文章。恋愛に対しても情熱的な女性だったのですね。

『花のれん』で直木賞を受賞したときの、作家井上靖(毎日新聞社時代の元上司)からの手紙
「橋は焼かれたのだからもう仕方がない。あせらないで、自分のペースで頑張ってください。数は少なくとも力作を期待します」

・膨大な数の取材ノートと録音テープ
取材で訪れた国:17ヶ国
取材国が一番多かった作品:『不毛地帯』の8ヶ国
一番多くの人に取材した作品:『大地の子』の500名
一番長期間取材した作品:『大地の子』の中国3年、日本1年
取材した人の数:5300名
名刺の数:4000枚
取材ノート:980冊
録音テープ:5500本

『二つの祖国』(『山河燃ゆ』の原作)執筆資料
東京裁判の英語記録など。
昔ワシントンDCの歴史博物館で見た、壮絶な日本人収容所の展示を思い出しました。
映像も流れてたけど、幸四郎さん若い~。いい男!

『大地の子』執筆資料
進行表は横長の紙に「主人公」、「養父」、「実父」の三段に分け時代を追って書かれてあり、改めてこれはこの三人の物語なのだなぁと。
実父の欄の欄外には、再婚した妻との間に中国語通訳になる娘がいる、という実際に採用されなかった設定メモも書かれてあり、興味深かったです。
また、主人公の1985年11月46歳の箇所には「第一期工事完工。完工式後、父子、長江下り、「私は大地の子」」と書かれてありました。陸一心の「私は大地の子です」という台詞は、実際に山崎さんが長江下りをした船の上で雲が晴れて太陽が射したときに浮かんだ台詞だそうで、「決まった!」と呟かれたのだとか。
胡耀邦総書記と面会した際の中国でのスケジュール(予定びっしり)や、その様子を報道した中国の新聞記事も展示されてありました。

・山崎豊子文化財団の関連資料
『大地の子』の印税全額(三億円)で設立した、日本に帰国した中国残留孤児の子供の学資を援助する財団。
「私を支えたのは『大地の子』の恩人である故・胡総書記の「教育こそは国の礎である」という言葉でした。未来への礎に一助をなすことが、戦争という過去を知る世代のせめてもの務めだと思います」(インタビュー記事より)

・市川雷蔵、中村玉緒、新潮社の編集者斎藤十一からの手紙。斎藤氏からの手紙には「沈まぬ太陽がある限り新潮社は安泰です」と書かれてあり、まるで山崎豊子のドラマみたいだな~と。

『沈まぬ太陽』執筆資料
ボーイング社を取材した際のパス(ANAの名前がありました。やはりJALの協力はなかったのね…)。
映画への出演を切望する渡辺謙からの手紙。「沈まぬ太陽の恩地は一番やりたい役」とのこと。

『白い巨塔』執筆資料
医療過誤の裁判資料や、早期胃がんに関する資料など。
小説としては完結し評価も得ていた『白い巨塔』でしたが、その結末に対して医療過誤の遺族から「医師だけでなく、作家には責任はないのか」という強い批判を受け、山崎さん自身もその社会的責任を感じ、続編の執筆に踏み切ったそうです。

・志摩観光ホテルでの写真やレストランのメニュー
山崎さんのお気に入りのホテルで、正月はいつもこのホテルで過ごされていたそうで、そこで見かけた光景から『華麗なる一族』の構想を得たのだとか。

この他『ぼんち』『女系家族』『女の勲章』『不毛地帯』『運命の人』『約束の海』などの執筆資料や原稿、お気に入りのCD(ベートーヴェンがお好きで、ベルリンフィルのカラヤンの第九など)、書斎の再現、愛犬との写真、洋服や帽子やバッグ(お洒落な方だったそうです)などが多数展示されていました。

関東は本日で終了ですが、これから京都、大阪と巡回していきますので、ご興味のある方はぜひ(^_^)

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