風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 @NHKホール(11月13日)

2017-11-14 21:30:22 | クラシック音楽




275年の歴史を誇るライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、全世界の音楽シーンに比類のない影響を与えてきたといえるでしょう。このたび彼らは、楽団の豊かな歴史の中でも特に重要な役割を演じた5つの傑作――かつてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が世界初演を任された5つの曲――を、皆さまのために演奏いたします。いずれも、楽団の個性の本質を成す作品です。とりわけ私は、日本の聴衆の方々の前でブラームスの《ドイツ・レクイエム》を初披露できることに心躍らせております。
(ヘルベルト・ブロムシュテット。公演プログラムより)

【ブラームス:ドイツ・レクイエム 作品45】

みなとみらいホール、サントリーホールに続き、ブロムシュテット×ゲヴァントハウス管弦楽団の来日ツアー最終夜のNHKホールに行ってきました。
開演前の西村朗氏によるプレトークがとてもわかりやすくて、クラシックど素人の私には非常に有難かったです。シューマンを亡くし、母親も亡くしたブラームスは、この曲を作曲することで自らも救われたのではないか、と。
死者への鎮魂ではなく、愛する者を亡くしこの世界に遺された者達への、そしてやがては自らも死にゆく運命にある、生者のためのレクイエム。

このホールは、メータ×イスラエル・フィル×ベジャール・バレエ団の第九を聴いて&観て以来です(来月公開の「ダンシング・べートーヴェン」楽しみ!)。
心配していたホールの音響は、今回は全くといっていいくらい気になりませんでした。これがモーツァルトとかだったら別だったと思いますが、ブラームスだとこの派手さの皆無なデッドな音響も合っているようにさえ感じられた。

正直なところオケの集中力はみなとみらい>サントリーホール2日目>NHKホールと尻下がりになっているように感じられましたし(ツアー最終日でだいぶ疲れてるのだと思う)、今夜は崩壊しそうな演奏をなんとか持ち直しているような危うい箇所もあったと思うし、前半などは手探りな感じもありました。
しかしそんな演奏の色んな粗を全部超える大きな大きな幸福感をもらえた演奏会でした。

今回3日間聴いて、このオケの弦の音って独特な揺らぎ(うねりじゃなくて揺らぎ)があるんですね。一方で揺らぎもうねりも全くないオケもあるし、弦楽器の知識は皆無なのでよくわかりませんが、楽器とか奏法とかオケによって色々違いがあったりするのかな。ブロムさんのインタビューによると、コントラバスの弦もアメリカのオケより一本多いそうです(確かに低弦がズンズン響いていますもんね^^)。

演奏は先ほども書きましたが、特に前半はちょっと手探り状態のような、危うい箇所も多くあったように聴こえました。合唱団がフォローしていたようにも感じられた。でも案外初演もこんな感じだったのではないかしら、とか感じられちゃったりもするのだから、初演楽団というのは得ですね笑。
それに本当につくづく、このオケの音はブラームスに合っているのだもの。器用じゃなくて、実直で誠実で優しくて。

ところで第2曲の「und ist geduldig darüber, bis er empfahe den Morgenregen und Abendregen. そして耐え忍んでいます、その上に、朝の雨と夕べの雨を迎えるまで。」の部分の雨の音を模した演奏が私はものすごーーーく好きなのですが、この曲の実演を聴くのは初めてだし3階席からじゃ聴こえなかったらどうしようと思っていたら、ものすごくはっきり演奏していて、思わず笑ってしまいました(声は出してないよー)。ブラームスの曲って時々こういう妙に可憐で可愛らしいところがありますよね。あの仏頂面でこの可愛らしさ。ああ、好き!

個人的にうわぁ・・・と感じたのは、第4曲からでした(音がノってきたなと感じたのは第3曲から)。始まった瞬間にオケからふわぁっと広がるように天国が見えた。録音で聴いたときは他の6曲に比べてさほど面白みを感じられなかったこの曲だけど、もう泣きそうになるほど美しかった。。。。。
この後、第5、6、7曲と、ずっと幸せな気持ちが続きました。

最終楽章の終盤に現れたとてつもない音色と合唱の美しさはもう・・・・・・泣。全てがあるべきところに自然にあり、最後には静かに還るべきところへと還っていった、そんなレクイエムでした。

今夜合唱を担当したウィーン楽友協会合唱団は、この曲の最初の3曲の初演を行った合唱団とのこと(合唱団まで初演を同行するこだわりぶりは流石アニバーサリーツアー!)。人の声の力ってすごいな、と心から感じました。ブラームスがこの世界の「生きとし生ける者」へ向けて作ったこのレクイエムに、この合唱のこの声は必須だと感じた。その声からは、あのみなとみらいのシューベルトと同じく、人間の崇高さと愛おしさと美しさをはっきりと感じることができました。

NHKホールの客層ですが、正直私、舐めていました。過去の二大最悪客層(ちなみにどちらも都民劇場公演)と同じなのではないか、と。ごめんなさい、謝ります。想像していたより遥かに素晴らしかった。そりゃあ演奏中に時計のアラームが小さく鳴ったりとか何もなかったわけではないけれど、あの大きさのホール(収容人数3600人)で、あの曲目で、あれだけの静けさと集中力を維持した今夜の聴衆に心からブラボーです。
今夜は、最後の曲が終わった後(といっても少したってからですが)、指揮者が手を下ろす前に約1、2名の方がフラ拍手。ブロムシュテットは手を下ろさず。残りの客席が全く追従しなかったので再び長い沈黙が戻り、それからゆっくりと手を下ろされました。ミューザのヤンソンスさんのときと同じですね。ブロムシュテットさんの音楽に対する厳しい姿勢を垣間見ることができたと同時に、日本の聴衆(といっても約1名ですが)へ教えて下さっていたのではないかな、と思った。「この音楽はこういう風に余韻も味わうものなんですよ」と。
今夜あの場所にいた聴衆の気持ちはちゃんとブロムさんに通じていると思います。全く追従しなかった99.9%の人に私は感動すら覚えましたもの。ブロムさん、本当に日本の聴衆に愛されているんだなあって

その後は、数え切れないほどのカテコ+ソロカテコ。
上手側へ退場途中の楽友協会の皆さんも、そんなブロムさんに笑顔で温かく拍手を送っておられました。

終演後の会場はみんな笑顔で「よかったねえ」って口々に言い合っていて。
私の隣の高齢の男性は「ありがとうございました」って私に笑顔で挨拶して帰っていかれました。今日の演奏の精度は「完璧」とはいえないものだったかもしれないし(でもそれなら「完璧」ってなんなのだ?とも思う)、もしかしたらラジオやテレビでは伝わらないかもしれないけれど、そういう本当に温かく幸福な空気に会場が満たされていた演奏会だったんです。そしてそれに値する演奏を今夜の指揮者、オケ、ソリスト、合唱団はしてくれたと私は思います。

外に出たら演奏中に降った雨が上がっていて、ホール前の木々の青色のイルミネーションが濡れた落ち葉に反射してまるで夢の世界のようで。ホールから出てくる人達はみんな幸せそうで。本当に満たされた夜だった。
ブロムシュテットさん、ゲヴァントハウス管弦楽団の皆さん、ソプラノのハンナ・モリソンさん、バリトンのミヒャエル・ナジさん、ウィーン楽友協会合唱団の皆さん、本当にありがとうございました!

ゲヴァントハウス管弦楽団は次回は2019年に、新カペルマイスターのネルソンスと来日予定です。
ブロムシュテットさんは来年4月にN響を指揮予定。



このいかにもgoogle翻訳で頑張りました感が嬉しいデス


※以前もご紹介しましたが、アンサイクロペディアの「ブラームス」の記事がマジで秀逸なんです。ぜひご覧ください、冗談のわかる方は

※11/21追記

本日の読売新聞ニュースより。NHKホール前で見た青のイルミネーションは、これ↑です。
「青の洞窟 SHIBUYA」というプロジェクトらしいです。
21日が点灯式だったそうだけど、どうして13日夜に点いていたのかな。開演前には点いていなかったのに、終わって外に出たら点いていたんです。試し点灯だったのかしら?
ブロムさん達もあの日にこのイルミネーションをご覧になっていたら嬉しいな(^-^)

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