風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 『わが祖国』 @みなとみらいホール(10月1日)

2017-10-02 22:49:03 | クラシック音楽


チェコ・フィルとマエストロ・アルトリヒテルは、ツアーの全公演をマエストロ・ビエロフラーヴェクに捧げ、彼のチェコ音楽への貢献と日本のファンの皆様への愛を讃えたいと思います。

(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)

このツアーに対するオケと指揮者の特別な想いが強く伝わってきた、とても温かくて熱い(日本語ヘンですが)、非常にいい演奏会でした。好きとか嫌いとか上手とか下手とかいう次元とは違う場所で魂を揺さぶられました。音楽の力ってすごいね・・・。
なので感想なんて書くのはヤボだけれど、覚書なので書いておきまする。


【第1曲 ヴィシェフラド】
アルトリヒテルさんの指揮についてはプラハ交響楽団と来日したときのレビューを読んでいたので覚悟はできていたけれど、想像以上の爆音系だった笑。今日の演奏、全体を通して「ここはもっと抑えた音で聴きたい」と感じたときは正直何度もあったし、こういうクライマックスの連続のような演奏は本来私の好みではないのだけれど、なぜか今日は全く嫌な感じを受けなかったのが不思議でした。その最大の理由は、やはり彼らの想いが演奏から強く伝わってきたからだと思います。
そして、そもそもオケの音がとても私の好みだったから。始まってすぐに「いい音だなあ、好きな音だなあ」と感じました。バイエルン放送響のように聴いた瞬間に「うわこのオケ上手いっ」と感じるような音ではないし、BRSOに比べると粗さもあるのだけれど、その大らかさこそがひどく心地よく、美しく感じられたんです。でも、その誠実で温かみのある音はBRSOから受けた印象とちょっと似ていました。温かみだけじゃなく禍々しさもちゃんと出ているところも。音に突き抜けた解放感があって、厚みと軽みのバランスが絶妙で。うーん、好きだなあ。
神経質じゃないのに鈍感な感じが全くないのは、指揮者はもちろんですが、きっと一人一人の団員の感覚も優れているのでしょうね。
そして胸の奥まで届いてくる絶対的な説得力は、やはり彼らとこの曲の繋がりの濃さゆえでしょうか。アルトリヒテルも楽譜無しで確信をもって指揮されていました。

【第2曲 モルダウ】
私は基本目を閉じて演奏を聴く人間なんですけど、今日の演奏は時々音にはっとさせられて反射的に目を開けて舞台を見入ってしまう瞬間が何度かあって。例えばモルダウの例の主題、一番最初のフレーズは「随分ゆったりと大人しく演奏するのだなあ、この川このまま失速するんじゃ…」と思っていたら、その後の第二フレーズ(ソドーレミーファソーラシードレーラードシー♪のところ)のぶわぁっと膨らむような盛り上げ方!うねって広がる川の流れが見えてぞくっとしました。
そしてその雄大な流れのこの上ない美しさ、ラストの華麗さと壮大さには川の描写以上の強い何か(ブラニークのラストと共通する何か)がはっきりと感じられて、それこそがスメタナがこの曲に込めた想いなのだろうなと感じたのでした。

【第3曲 シャールカ】
モルダウに続いてこのシャールカ、とても感動しました。特に後半。
兵士達の酒盛りは、カリブの海賊のような賑やかさと猥雑さがものすごく楽しかった。ただ美しい音で演奏するだけでは出ない魅力だと感じました。
そしてこのオケ、鳴らしすぎに感じられるときも確かにあるのだけれど(でも最大音量でも音は完璧に美しくまろやかなんですよ~)、静かな部分の演奏も本当に上手い。
ホルンの合図の後にアマゾン軍を密やかに誘導するシャールカのクラリネットの裏で弦が不気味にザワザワした演奏をするところ、どこかわからない場所から聞こえる音のように感じられてゾクゾクしました。ここはクラリネットも素敵だった~。
その後の怒涛の追い込みは、まさに殺戮が目に見えるよう。思いきり鳴らされる弦と金管はもう神々しいほど。このカンジ何かに似てる、何だっけ?と思っていたら、そうだ、ヨハネの黙示録のラッパだ。
最後の最後まで呼吸を忘れるほどの集中力と迫力で連れていってくださったアルトリヒテルさんとそれに見事に応えたオケ。ブラボー!でございました。

(20分間の休憩)

【第4曲 ボヘミアの森と草原から】
【第5曲 ターボル】
【第6曲 ブラニーク】
ここに休憩を入れるのはなかなかいいなと思いました。一息ついて「さあ後半」といかないと、こちらの気力と体力がもたない
さて、第四曲。個人的にはボヘミアの森や草原の風景や空気はあまり感じられなかったのですが(もともと今日の演奏はリアルな情景描写系とは違うように思うし)、スケールの雄大さはここでも感じることができました。
そして「ターボル」から「ブラニーク」へ。
この記事の冒頭に書いたのは特にここのことなんです。好きだとか嫌いだとか上手いだとか下手だとかそういう次元と違うものが胸に響いてきた演奏だった。ブラニークの終盤、ホルンの先導から「汝ら、神の戦士ら」のコラールへ。ここの強奏、実は演奏が熱過ぎて私の座ったRA席からはほとんど主旋律がわからなかったのですよ(旋律を知っていたから追えましたけど)。でもそんなの全く無問題、と思わせられるものがあったんです。そして最後に輝かしくヴィシェフラドの主題が現れたときには涙が出そうになりました。スメタナが心で見ていた風景が見えた気がして。スメタナは初演のときにはもう耳が聴こえなかったのだとか。でもきっと彼の心はこの風景を見ていたに違いない、と確信をもって感じることができました。正直初演の演奏はここまで爆演ではなかったろうと思うのですが笑、スメタナの心が見ていたであろう風景とチェコの民族の魂と誇りを感じさせてくれた、今夜の演奏だったんです。愛国心って本当はこんなにも温かくいいものなんだな、と感じさせてくれたチェコフィルの『わが祖国』でした。

【ドヴォルザーク:スラ舞曲第二集第八番(アンコール)】
アルトリヒテルから、このオケの首席指揮者・音楽監督であり、この5月に亡くなられたビエロフラーヴェクへの追悼の言葉の後に。
聴きながら、音楽による繋がりっていいな…と心の底から感じました。同じ感想をネットに書かれている方がいらっしゃったので、そう感じた人は多かったのではないでしょうか。
アルトリヒテルがビエロフラーヴェクに最後に会ったときにこの第8番の話をしたそうで、そういう理由でこの曲が今回のアンコールに選ばれたそうです(その経緯の書かれた山口公演のロビーの掲示板の写真をツイに上げてくださっている方がいました)。アルトリヒテルと団員の方達のビエロフラーヴェクへの想いの込められた、温かいアンコールだったなあ。ビエロフラーヴェクに特別な思い入れのある人、彼の公演から特別な感動をもらったことのある人は、涙を禁じ得なかったのではないかと思う。私でさえ泣きそうになったもの。私の場合は、先程も書いたけれど「音楽による人と人の繋がりって本当に美しいものだなあ」ということが、しみじみと感じられたからです。そして人間の美しさも。
「私たちの心の中は美しい音楽で満たされています。心を開いてこの美しい音楽を皆様と共に楽しむことは、私たちにとってこの上ない喜びであり、また、大変有り難いことでもあります。」
このチェコフィルからのメッセージ(全文を下に載せておきます)は帰りの電車の中で初めて読んだのですが、まさにこの言葉のままの、彼らとビエロフラーヴェクとの心の繋がり、そして彼らが心を開いて私達聴衆と音楽の美しさを共有したいと思ってくれていることが伝わってきた、温かく、そして切ない、そんなアンコールでした。

客席からはアルトリヒテルさんに対するソロカーテンコールの拍手が続いたけど、決して出てこられず、あちらのスタッフの方が舞台袖から両手の×で「マエストロは出ませんよ~」な合図があって拍手がやみました。自分は代役、ということなのでしょうね。とても謙虚な雰囲気の方だった。

今年はミュシャの『スラヴ叙事詩』全作とチェコフィルの『わが祖国』全曲という長年の2つの夢が思いがけず叶った、いいチェコ年だったな

~日本公演にむけてのメッセージ~

 親愛なる首席指揮者・音楽監督のマエストロ・イルジー・ビエロフラーヴェクを亡くし、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団は深い悲しみの中にありました。このような状況でしたが、マエストロ逝去以来、初めての大規模なツアーで日本を訪れる運びとなりましたことに、団員一同、心から感謝しております。
 イルジー・ビエロフラーヴェクとチェコ・フィルの団員たちは、あらゆる国々の中でも、とりわけ身近で親愛なる国として、常に日本を愛してきました。今回、私たちは献身的な音楽家であり、マエストロ・ビエロフラーヴェクの友人でもある、マエストロ・ペトル・アルトリヒテルの指揮の下に熱心で心温かい日本のファンの皆様と音楽の愉しみを共有できることを大変嬉しく思っております。
 今年5月の「プラハの春音楽祭」では、予定されていたプログラムを指揮することができなくなったマエストロ・ビエロフラーヴェクが、個人的にマエストロ・アルトリヒテルに代役を依頼しました。こうした経緯を踏まえ、二人の友情の象徴として、マエストロ・ペトル・アルトリヒテルと共に、今回のツアーを行うという結論に達しました。
 チェコ・フィルとマエストロ・アルトリヒテルは、ツアーの全公演をマエストロ・ビエロフラーヴェクに捧げ、彼のチェコ音楽への貢献と日本のファンの皆様への愛を讃えたいと思います。
 私たちもマエストロ同様、日本の皆様が大好きです。私たちの心の中は美しい音楽で満たされています。心を開いてこの美しい音楽を皆様と共に楽しむことは、私たちにとってこの上ない喜びであり、また、大変有り難いことでもあります。
 この場をお借りして、御礼申し上げます。
(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)


親愛なる日本の皆様へ
 私の友人であり指揮者仲間でもあったマエストロ・イルジー・ビエロフラーヴェクの代役として、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートを指揮することは、私の人生において、とても特別な出来事です。 
 イルジーは並はずれた人であり、今日のチェコのクラシック音楽界における最も重要な人物でした。彼は自身の音楽キャリアの全盛期をチェコ・フィルに捧げ、チェコ・フィルを未だかつてないほど高いレベルにまで引き上げました。彼は、団員たちを深く愛し、全てのコンサートを団員たちと共に楽しみました。幸運なことに、私は度々プラハで、こうした幸せな時間をイルジーと共有することができました。
 過去5年間に、私は何度かチェコ・フィルを指揮する機会に恵まれました。その度に私が実感したのは、イルジーがオーケストラの意識を向上させたことや、団員たちの間に、人生最高の演奏をしたいという共通の欲求が常にあったことです。
 今回のツアーで一連のコンサートを指揮すること、そして、私たちの音楽に対する愛を日本の皆様と分かち合えることは、私にとって大変光栄なことです。日本は私の心の中でいつも特別な存在です。毎回、この美しい国を訪れる度に私が感じるのは、日本の聴衆の皆様が、チェコの音楽を深く、真に理解してくださっているということです。こうした例は、世界中他のどこにもありません。チェコ・フィルの団員共々、「イルジーさん」と日本のファンの皆様のために演奏することを、心から楽しみにしています。
敬具
(ペトル・アルトリヒテル)

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