風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

内田光子ピアノ・リサイタル 2015 @サントリーホール(11月15日)

2015-11-16 22:10:31 | クラシック音楽



どうも私はペライアが好きすぎて似たような音のピアニストばかり探してしまう傾向にあることにふと気付き、あえて違うタイプのピアニストの演奏会に行ってみることに。
というわけで、内田光子さんです。
最初にこの方のモーツァルトをyoutubeで聴いたとき、正直なところ、その魅力が私にはわかりませんでした。打鍵はカッチリしてるけれど醒めてるようにも聴こえますし、ふっと心が解放される瞬間がなく息が詰まるようにも感じたり。
ですが今回生で聴いて、この方のピアノのどういうところに人が惹かれるのか、わかったような気がしました。
最初の一音から緊張感と力強さ(打鍵の強弱ではなく)で彼女の世界にぐいっと引っ張られて、目(というか耳)が離せなくなって一瞬も気が抜けずに最後まで連れて行かれる。でもそれは生で聴いてみると意外と不快な感じではなくて、そこにはっきりと見える光景が気持ちいい。
今夜のシューベルトで、よくわかりました。その後のベートーヴェンでも。
誤解を恐れずに言えば、日本人的ではないピアニストですよね。
一方で、思いのほか人間味のある音を出されるのだな、ということも今夜知りました。

【シューベルト: 4つの即興曲 op.142 D935
シルクのような透け感のある黄色のシャツに光沢のある上下黒のパンツ。ステージに登場されたときの印象は「わ・・・、かっこいい」でした。背筋が伸びていて、仕草がとてもエレガント そして椅子に座るか座らないかであの第一音。ハイティンクもそうでしたけど、精神を落ち着ける時間とかはこの方達には不要なようですね^^;

4つの即興曲なんていう題だからてっきり統一感のない軽めの小品集なのかと思いきや、通して聴くとまるでソナタのようなのですね。なんて美しく深遠な4曲でしょう。
この曲についてシューベルトがどういう言葉を残してるかとか、そういう知識は私には一切ありませんが、光子さんの解釈のとおりにこの曲を聴くなら、つまり「死に向かって近づいていく美しさ」がシューベルトの音楽の特徴であるなら、この夜の光子さんの演奏はまさにその世界観そのものだと感じました。
そして怖いくらいの美しさのその最後にあるのは、少なくともこの曲に限っては、救いの光ではなく、死の沈黙そのものに私には感じられました。

そしてこの後のディアベリ変奏曲でも感じましたが、光子さんの音は時々とても厳かで祈るように響きますね。そんなとき、パリの同時多発テロがあった直後でしたので、音楽の力というのはどういうものなのだろう、とかやっぱり考えてしまいました。

~休憩20分~

【ベートーヴェン: ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲 ハ長調 op.120
次々違う表情を見せていく33個の変奏曲。光子さんが弾くと57分くらいだそうです。初めてyoutubeでこの曲を聴いたとき、なんと奏者の体力のいりそうな曲だろうと感じました。聴いているととっても複雑怪奇ですけど、光子さんによると奏者にとってもやはり複雑怪奇なのだそうで(それを暗譜で弾いちゃう光子さん)、ひどく体力と集中力を必要とする作品なのだとか。だから光子さんは70歳になる前に挑戦したかったのだと。この曲を弾かないまま死んでしまうのは嫌だった、と。そして一昨年から演奏会で弾いているそうです。光子さん曰く「ベートーヴェンには死に近づく際に宇宙を見渡すような特別な世界観がある」「作品の全体像は、人間が生きていく上で遭遇する最大の深みにスポッとはまってしまったようなもの。その一方で、深みに落ち込んだ者を上に引き上げる力がある。それはベートーヴェンにしかできないこと」とのこと。
youtubeで何人かのピアニストの演奏で聴きましたが、それぞれ全く弾き方が違っていて面白いのです(元の楽譜は一体どうなってるのだろ~?)。
が。
間違っても私のような素人が聴いていて楽しい曲とは言い難い曲でもあります^^; 明らかに玄人向きの曲ですよね。
とはいえyoutubeで聴いたときは1時間弱が拷問のように感じられましたが、この夜はほぼ飽きることなく集中して聴くことができました。生演奏であったことと、万華鏡のように変化しながらも全体では一貫している光子さんの世界と、ピアニストの気迫に連れていかれたといいますか。
特に最後のジャーンは、これまで聴いたこの曲の演奏の中で一番自然に納得できるジャーンだった(自分にしかわからない感想でスミマセン)。
今後他のピアニストの演奏でもぜひとも聴きたい曲かと言うと微妙ですけど、こういう曲をこのピアニストはこんな風に演奏するのかということが説得力をもって知ることができて、この夜この曲を聴けたことは幸運だったと思います。
圧巻の演奏でした。

あ、サントリーホールは今回が初だったのですが、とても素敵なホールですけど、音の反響?が強いのですね。お風呂場の中で極上のピアノを聴いているような妙な気分でした(^_^;)

次回のピアノリサイタルは、来年のクリスチャン・ツィメルマンの予定。

日本も、パリも、世界中の人達が芸術を安心して楽しむことができる日が遠くなく訪れますように――。

内田光子「心技体そろった今だからこそ≪ディアベッリ変奏曲≫」

ピアニスト 内田光子
(1)16歳でウィーンにとどまる選択
(2)“名もなき国”イギリスへ
(3)シューベルトの孤独感に惹かれ
(4)苦しいながらも楽しい弾き振り
(5)日本の“湿った静寂”が好き
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