月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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ベクルックス・2

2013-09-07 03:10:34 | 詩集・瑠璃の籠

プロキオンの 声が
このごろ やさしい
ちる ちる
まるで わたしの髪を
なでてくれるように
やわらかな声で 鳴いてくれる

すると わたしは
わたしの犬に
ほおをなめられているような気がして
どこか くすぐったくなる
わたしの 犬
愛していた 愛している
ああ かのじょが
また わたしのところに
生まれてきてくれたら
今度こそ
何でもしてやろうと 思っていたのに

そんなことを 思いながら
ぼんやりと 蛸の文鎮をなでていると
ふと小さな風が 額をよぎった
わたしは 小窓をふりむいた
するとそこに 星がいた
わたしは 何かがわかったような気がして
ああ と声をあげた

待っていましたよ あなたを
と わたしは その星に言ったのだが
はたして なぜそう言ったのか
わからない

星は 不思議な笑い方をして
わたしをやさしく見つめ
べクルックスです
と言った
わたしは その星を見つめ返しながら
彼が今 ここにいることは
昔から 決まっていたような気がしていた

約束だったのですね
と わたしが言うと
べクルックスは 
そうです と言って笑った

あなたが いずれはこういうことになることを
あなたは ほんとうはもう ずっと昔から
わかっていました
ですから あなたは
その時が来たら
わたしに 後を頼むと
言っていたのですよ
わたしは そのとき
返事はしませんでしたが
こうして 約束通り
やってきました

約束とは? なんでしょう?

あなたは 遠い昔から
人間のおんなのこの
生きることが苦しすぎることを
苦しんでいた
ずっと おんなのこを
助けてあげたいと 言っていた
でも あなたは いずれ人々のために
何をすることもできなくなる日が来ることを
わかっていた
あなたは 最後の愛の天使でしたから
やらねばならないことが 多すぎた

ああ わかっています

そう そして
あなたは わたしにたのんだのです
その日が来れば
おんなのこのことを 頼むと

ああ わかります
約束をしました
でも あなたは

ええ そのときは
答えることができませんでした
はっきりと 答えてしまえば
人間が それに気づいてしまう
そうなれば

ええ ほんとうに 
つらいことになってしまう
でも

ええ そうです
わたしは こうして今日
約束をしにきました
あなたのために

それでは

ええ あなたのかわりに
わたしが
女性の守護星となるつもりです

ああ それは
うれしい

そうでしょうとも

わたしは べクルックスの
すばすがしい 緑のような
美しい姿を見上げた
あたたかい ほほえみは
わたしのために 灯してくれているようだ
それほど 今のわたしは
深くきずついているのだろう
何でも わたしのために
してあげたいと
彼の瞳が言っているのがわかった
わたしの ために
べクルックスは
おんなのこを みちびいてくれるのだ

べクルックスは 約束をしてくれると
わたしに やわらかなほほえみを残し
少し プロキオンに挨拶してから
小窓から出て行った
ああ 心があたたかい
愛している あのひとを
ああ 愛している

おんなのこよ つらいことがあるときは
べクルックスに 心を飛ばしなさい
あなたを やさしく
導いてくれるだろう

べクルックス
あたたかき 風の天使



コメント (1)
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