ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

なぜ新生児蘇生法を習得する必要があるのか?

2012年01月29日 | 周産期医学

順調な分娩経過で問題のないケースだと思って分娩に立ち会っていたのに、産まれてみたらなかなか児の呼吸が始まらず、予想外に本格的な新生児蘇生法が必要となる事態も決してまれではありません。

しかし、実際に新生児蘇生を必要とする児が産まれた時には、分娩介助者達があせってパニックに陥ってしまい、正しい手順で蘇生処置が実施されない場合も起こり得ます。

従って、分娩に関わる職種(産科医、小児科医、助産師、NICU看護師、救命救急士など)の医療従事者は、いざという時、あせらずに正しい手順で新生児蘇生を開始できるように、最新の新生児蘇生法ガイドラインに習熟しておく必要があります。

新生児蘇生法のスキル習得は、楽器演奏やスポーツなどのスキル習得と同じで、異常事態が発生した時に間髪入れず反射的に正しい動きができるようになるまで、常日頃から反復トレーニングを繰り返しておくことが大切だと思います。

日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく
新生児蘇生法テキスト

新生児蘇生法普及事業

新生児の蘇生(NCPR)

NCPR 基本手技の実習

NCPR ケースシナリオによる実習

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新生児の約10%は、出生時に呼吸を開始するために何らかの助け(呼吸刺激や吸引など)を必要とする。

新生児の約1%は、救命のために本格的な蘇生手段(人工呼吸、胸骨圧迫、薬物治療、気管挿管など)を必要とし、適切な処置を受けなければ、死亡するか、重篤な障害を残す。

すべてのハイリスク児の出生予知は不可能で、全く順調な妊娠を経過した場合でも、子宮外生活への適応障害が突然出現することがまれではない。

新生児仮死は、バッグとマスクを用いた人工呼吸だけで90%以上が蘇生できる。さらに胸骨圧迫と気管挿管まで加えれば99%まで蘇生できる。

現在、日本ではほとんど(99.8%)の分娩が医療機関内で行われ、分娩に関与するスタッフは非常に限られているので、新生児を取り扱うすべての医療従事者(小児科医、産科医、助産師、NICU看護師など)が新生児蘇生法に習熟すれば、その意義は非常に大きいと考えられる。

日本では、日本周産期・新生児医学会を実施主体として、新生児蘇生法普及事業が展開されている。新生児蘇生法の講習会として、「一次」コース(B コース)、「専門」コース(A コース)、「専門」コースインストラクター養成講習会(I コース)が開催され、コース修了者を学会が認定している。「すべての周産期医療関係者が標準的な新生児救急蘇生法を体得して、すべての分娩に新生児の蘇生を開始することのできる要員が専任で立ち会うことができる体制を実現する」ことが新生児蘇生法普及事業の最終目標である。