ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

危機の地域医療

2009年08月01日 | 地域医療

****** 東京新聞、埼玉、2009年7月31日

医師の不足 『命軽視した政治の結果』 

休診 中核病院まで

 「常勤医師不在となるため、耳鼻咽喉科診療を一時休診とさせていただきます」。六月末、深谷市の深谷赤十字病院は、七月から同科の外来を休止する通知をホームページに掲載した。

 十月には心臓血管外科の担当医二人が退職予定で、後任確保は難航している。見つからなければ、同科も休診だ。「急性心筋梗塞(こうそく)などの患者を受け入れられなくなる。ここまできてしまった」。諏訪敏一院長はため息をついた。

 同病院は、県北部で唯一、救命救急センターと地域周産期母子医療センターの指定を受ける地域医療の核。しかし、勤務医の退職が相次ぎ、補充できないまま対応できる診療内容が減る悪循環が続いている。

 常勤医師総数は四年前の七十六人から六十五人に。特に内科は十八人が十二人に減り、日中の外来を五人から三人態勢に縮小した。

 小児科医も五人から三人に。未熟児や、病気を持って生まれた赤ちゃんを治療する新生児集中治療室(NICU)を完備しているのに人員配置がままならず、開店休業状態だ。全科で五百六床あるベッドも四十七床を閉鎖中だ。

 一九八〇年代からの政府による医療費・医師数抑制を背景に、「地域医療に穴を開けられない」と頑張った結果、残った勤務医の労働環境は悪化の一途。「日中勤務して当直に入り、翌日もそのまま診察や手術をする。三十六時間勤務も当たり前」なのが現実だ。

 燃え尽きるように医師は疲れ果て、退職が相次いだ。さらに二〇〇四年の研修医制度改定で大学病院医局から医師の派遣を受けにくくなり、医師不足はさらに深刻に。綱渡りの綱は切れた。

 諏訪院長は「救急医療なんてなおのこと、とっくに崩壊している。命を軽視した政治がこの状況を生んだ」と憤りを隠さない。

 地元の深谷市・大里郡医師会の地域医療担当・金子勝理事は「深谷赤十字が受け入れてきたこの地域の重篤な患者を、遠くの病院へ送るようになった。患者の負担が増している」。五月には行政も巻き込んで初めて意見交換会を開いたが、解決策は見えない。

 疲弊した現場で、政治は何をしてくれるのか。諏訪院長は「勤務医がきちんと勉強しながら、現場で気分的にも時間的にも余裕を持って働ける財政的裏付けが必要だ」と強調する。それを実現できる政権を選ぶことが、医療を立て直すカギになる。「どの地域でも医療崩壊はひとごとではない。選挙に行って声を上げてほしい」 【柏崎智子】

(東京新聞、埼玉、2009年7月31日)

****** 秋田魁新報、2009年8月1日

危機の地域医療 

「お年寄り 行き場失う」 

医師不足、過疎地を直撃

 「病院がなくなるのではないかと不安。自宅で面倒を見てもらえないお年寄りは、行き場がなくなってしまう」

 北秋田市米内沢の北林栄紀さん(64)が、表情を曇らせた。北林さんの義母(77)は4年前から自宅近くの公立米内沢総合病院に入院しており、寝たきりとなっているからだ。

 北林さんは5人暮らし。家族を中心に地元で約70年続く食堂を切り盛りしており、仕事は午前9時ごろから午後8時ごろまで。北林さんは昼の出前を担当するほか運転代行業も行っており、自宅に帰るのは連日深夜になる。在宅で義母を十分に介護するだけの時間的余裕は家族になく、「過疎化で売り上げも年々減っている。暮らしは楽ではない」と北林さん。一家にとって、義母を安心して預けられる公立米内沢は心強い存在だ。

 ◇    ◇

 全国的な医師不足で、同市内の公立病院は苦境に立たされている。常勤医2人(歯科医を除く)の市立阿仁病院は10月から無床診療所に改組、同月開業予定の北秋田市民病院(指定管理者・県厚生連、320床)は常勤医を計画の約半数の15人しか確保できず、稼働病床も約半数にとどまる見通し。公立米内沢は、市民病院と連携し病状の安定した患者を受け入れる計画だったが、同病院の医師不足のあおりを受け、同月以降の運営規模は不透明なままだ。

 「市民病院に加え、赤字体質が深刻な公立米内沢を計画通りに存続させることは財政的に困難」と市幹部。市は今後、市民病院の運営にも公費負担(赤字補てん)を余儀なくされる見通しとなっており、公立米内沢の大幅な規模縮小は不可避との見方を示す。

 その一方で、縮小に伴い入院患者が退院を迫られた場合、受け皿となるはずの市内の施設、病院に余裕はない。市高齢福祉課によると、市内の特別養護老人ホームは入所待機者が200人以上おり、利用者負担が重い介護老人保健施設でさえ満床状態。市民病院も、医師不足のため対応できる入院患者数は限られる。北林さんは「在宅介護をしようにも、日々の暮らしがそれを許さない。どうすればいいのか」と戸惑っている。

 ◇    ◇

 国は、医師不足を招いたとされる新人医師の臨床研修制度を来年度から見直すことを決定。また、追加経済対策として、自治体の医師確保や病院再編などを支援する地域医療再生基金(3100億円)を創設した。しかし、この地域が対象になるかや、政策の効果がすぐ表れるかなどは未知数だ。

 衆院選を控え、多くの政党が医学部の定員増など医師不足対策を掲げ、崩壊の危機に直面する地域医療の立て直しを訴えている。北林さんは「『暮らしの安心』を守ってくれる政策を提示しているところ(政党)に、一票を投じたい」と力を込めた。

臨床研修制度

 新人医師に病院での研修を義務付ける制度で、2004年度に導入。研修先を自由に選べるため、新人医師が都市部に集中し、人手不足に陥った大学病院が地方の自治体病院などに派遣していた医師を引き揚げたことで、医師不足が加速したとされる。来年度から、都道府県や病院ごとの募集定員の制限、必修診療科目数の削減を柱とした見直しが行われる。

(秋田魁新報、2009年8月1日)

****** 毎日新聞、京都、2009年7月31日

偏在と膨張の構造見直せ 

原則公営化含め、早急に議論を

泉 孝英さん(73) 中央診療所理事長・京都大名誉教授。1965年京都大医学博士。89~99年、京都大教授として胸部疾患研究所、付属病院呼吸器内科などに勤務。99年から現職。06~08年に滋賀文化短大学長。

医師の不足や偏在を含め、医療崩壊が指摘される現状をどう見る?

 日本と同じく国民皆保険の英国、スウェーデンの両国と比較して整理したい。05年のデータでは、日本は両国に比べ、人口当たりの医師数は83%、59%と少ない。それ以上に問題なのは国民1人当たりの受診回数が2・7倍、4・9倍と多いことで、医師1人当たりの診療回数は3・2倍と8・2倍だ。医師が多忙すぎて、いい医療を望めなくなっている。

 また、両国では医療機関が原則的に公営か半公営で、医師・看護師は準公務員であるのに対し、日本は大半が私営だ。医師の養成課程も、両国がすべて国公立なのに、日本は授業料が極めて高額の私立大が3分の1を占める。施設も人材も採算のいい地域・部門に集まるのは当然の帰結で、そもそも偏在のない適正な配置は不可能な構造になっている。

医療費の増加については?

 両国では、外来は診療所、病院は入院・救急と、役割が明確に分担されている。スウェーデンでは65歳以上の患者は医師ではなく、看護ステーションで看護師に最初に診てもらう。そして前述のように公営・半公営だから一定の予算配分がなされ、その中で医療を提供している。

 だが、日本は「フリーアクセスと出来高払い」が基本だ。どの病院でも何回でも受診できる。医療機関にとっても出来高払いのため、数が増えれば稼ぎになる。薬と検査が多いのも特徴で、人口当たりのCT台数は両国の7~12倍、MRI台数は4~7倍、投薬量は3~4倍だ。06年データをみると、医療機関の支出では人件費が60%なのに、収入では医師の技術料は34%。足りない分を投薬・注射と検査で補い、機器メーカーや製薬会社にもカネが流れる。医療費が膨らむのは当然だ。

政治家に何を望む?

 これらの現状、構造的な問題を直視し、根本から議論してほしい。そもそも医療は採算が取れるものではなく、利権の対象にすべきではない。誰もが標準的な医療を受けられるようにするには、両国のように原則公営にし、医師・看護師は公務員にすべきだと思う。警察・消防と同じく計画的に配置でき、偏在などなくなる。そして税金でまかなうのだから、無駄は省く。両国とも公営化の議論から実施までに半世紀くらいかかっている。すぐに議論を始めるべきだ。 【聞き手・太田裕之】

(毎日新聞、京都、2009年7月31日)


静岡県・志太榛原地域の深刻な医師不足の状況

2009年06月21日 | 地域医療

****** 静岡新聞、2009年6月20日

知事選 託す一票 県政の課題 地域医療 医師偏在の調整緊要

 焼津市の男性(79)は3月下旬、自宅から静岡市内の病院に救急車で運ばれ、病院到着後、間もなく息を引き取った。急性心筋梗塞(こうそく)だった。東名高速道路を使った搬送時間は約1時間。以前に心筋梗塞を起こした時は、地元の焼津市立総合病院で診てもらえたが、今回は素通りした。長女(55)は「近くの病院に循環器の先生がいたら助かったかもしれない」と無念さをにじませた。

 焼津市立総合病院は、5人いた循環器科の医師が昨年春までに全員辞めた。今年5月、ようやく常勤医1人が着任したが、十分に患者を受け入れる状況にはない。

 循環器を含めた内科医は3年ほど前まで30人を超えていた。今は半数以下の15人。激務によってさらに退職者が出る悪循環。内科医の1人は「どこまで頑張れば展望が開けるのか」と暗い表情で語った。

 頼りになるはずの地域の基幹病院に医師がいない―。深刻な医師不足は焼津市に限った話ではない。県内各地の公立・公的病院で続いている。県内の人口10万人当たりの病院勤務医数は112・9人で全国43位(2007年10月)。県内の地域格差も大きいままだ。

 県は勤務医の研修費用や救急勤務医手当の助成など医師確保対策は打ってきた。本年度予算の対策費は前年度の3倍近い5億6000万円。特に医学生向け奨学金は採用枠を100人に拡充し、約150人の応募があった。

 ただ、県中部の病院幹部は「医療崩壊のスピードに再生の速度が追い付いていない。その間にどんどん病院自体の体力が落ちている」と指摘する。

 病院勤務医1人がもたらす年間診療収入は平均およそ1億円。医師の流出は患者離れを招き、病院経営を圧迫する。県内市町と一部事務組合が運営する公立22病院は、07年度決算で16病院が赤字だった。繰入金として市町が235億円を投入しながら、最終的な赤字額は総額70億円に上った。

 「地域や診療科ごとの医師偏在を解消する調整が必要」。有識者でつくる県医療対策協議会は2月、知事に提言した。病院によっては医師の流出が止まらず、産科や救急医療などで新たな空白域が生まれていた。

 限られた数の医師を有効活用するには、近隣の病院間で診療機能を分担したり、ネットワーク化を進めたりするしかない。「医師配置の見直しは、病院の再編や集約化にもつながる」。そう指摘する県中部の産科医は「関係病院の合意形成は一筋縄ではいかない」と説明する。急場をしのぐため総論では賛成だが、個別具体的には自分の病院に有利に誘導したい―。設置主体の市町や、医師を派遣する大学医局の思惑も絡み、各病院とも存亡を懸けた思いが交錯する。

 県は5月、志太榛原地域の4病院をそれぞれ管理する4市にネットワーク化の素案を提示したが、全市の合意にはこぎ着けなかった。ある病院の副院長は「難しい行司役は、やはり県にやってもらうしかない。病院単独でもがいていたら、そのうち圏域の病院が総倒れになってしまう」と危機感を募らせる。

 住民が等しく一定水準の医療サービスを享受できる仕組みを県はどう描くのか。地域医療の立て直しが迫られる中、県の強いリーダーシップが問われている。

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(静岡新聞、2009年6月20日)


今年度の研修医は計20人 諏訪中央病院 新規採用は8人

2009年04月18日 | 地域医療

コメント(私見):

諏訪中央病院は地方の中規模病院ですが、研修施設として非常に人気があり、毎年、研修医マッチングで全国から多くの志願者を集めてフルマッチング(定員4人)を達成してます。現在、初期研修医と後期研修医とを合わせて20人が在籍しているそうです。研修医の教育には相当力を入れて実績を挙げているようです。

名誉院長の鎌田實先生は作家として超有名です。著書「がんばらない」は、2001年に西田敏行主演でテレビドラマとしても放映されました。

緩和ケア病棟、東洋医学科など、他の病院にはない特色があります。以前、この病院の緩和ケア病棟に患者さんをお願いしたことがあり、その時、何度かこの病院の緩和ケア病棟まで患者さんに会いに行きました。その患者さんの部屋は、角部屋の個室で壁の2面が全面大きな窓になっていて、美しい花が咲き乱れる緑豊かな大きな庭に囲まれ、患者さんのベッドから八ヶ岳の山々を一日中眺められるとても素晴らしい環境でした。

私は、新米医者の頃から長年にわたって漢方薬をいろいろ処方してきましたが、いつまでたっても素人漢方の域を脱することができません。当科の常勤医数がもう少し増えて勤務体制にも余裕ができたら、諏訪中央病院の東洋医学科に通って漢方のちゃんとした研修を受けたいと以前から思ってます。でも、常勤医数は一進一退で、毎年毎年、一喜一憂しているような状況ですから、定年退職になるまで無理かもしれません。

また、諏訪中央病院の産婦人科は、一時期、常勤医がゼロとなってしばらく休止してましたが、昨年4月に常勤医2人で再スタートし、現在は常勤医3人体制となり、分娩や手術もだんだん増えてきているようです。その3人の常勤の先生方とは、県内外のいろんな学会の会場でよくお会いします。今月の京都の日産婦総会の会場でも、部長のK先生、新任のA先生(医長)と偶然お会いして、いろいろと情報交換しました。『研修医の確保は毎年が勝負!今年も互いに負けずに頑張ろう!』と互いの健闘を誓い合いました。

諏訪中央病院、産婦人科再開へ

**** 医療タイムス、長野、2009年4月15日

今年度の研修医は計20人 

諏訪中央病院 新規採用は8人

 諏訪中央病院(濱口実院長)は今年度、初期と後期合わせて計20人の研修医を確保した。同院はここ数年、「教育環境の充実」と「地域医療の実践」を軸に据えた独自の取り組みで研修医の獲得に実績を残しており、地方の中規模研修病院の医師獲得の「成功例」として注目されている。

 研修医の内訳は、初期研修医9人(1年目4人、2年目5人)、後期研修医11人(3年目5人、4年目5人、5年目1人)。初期研修医は1、2年目とも定員の4人を充足している。2年目は東海大との連携による「地域医療研修」プログラムのため、同大研修医が4ヵ月間同院で学ぶ。

 同院では、初期研修医、後期研修医、上級医に17人の指導医が重なるいわゆる「瓦屋根式」の指導体制が整う。

 具体的には、基本的な臨床能力を養うため、数日間かけて県外の医師を招き行う「教育回診」や総合診療など4つのコースを設定した後期研修プログラムの枠を超えた流動的な診療体制、初期・後期研修医が参加する毎朝の合同カンファランスなどがある。今年度の「教育回診」には、音羽病院総合診療科の植西憲達氏ら5氏を招く予定だ。

 2004年度に始まった新医師臨床研修医制度の1期生で、大学卒業後から同院で初期・後期と研修を続けていた斉藤穣、後期研修から残った伊藤誠の両医師が今年度から内科のスタッフに加わった。

(以下略)

(医療タイムス、長野、2009年4月15日)


地方における医師不足対策

2009年03月18日 | 地域医療

コメント(私見):

地方における医師不足の問題を改善していくためには、『地域の中で若い医師が育ち、やがて巣立っていく。そして大学病院などで更なる研鑽を積んで大きく成長し、やがて指導医としてまた古巣に戻って来て後進の指導をしてくれる。』というような好循環を安定的に創り出すことを目指して、この問題に長期戦で取り組んでいくしかないと思います。

他の県で活躍中の医師が自県に移住して来てくれることを期待し、各県がそれぞれ知恵を絞っています。しかし、これは各県が類似策で張り合うことになってしまうので、入って来る人もいれば出て行く人もいて独り勝ちは難しく、やはり大きな限界があると思われます。

人生いろいろで、例えば、山が大好きで、家族をひき連れて、湘南から信州に移り住みたいと思うような人もいるかもしれませんし、逆に、海にあこがれて、信州から湘南に移り住みたいと思うような人もいるかもしれません。私自身は後者の部類で、生まれも育ちも山国ばかりだったので、一度は海の近くのリゾート地で暮してみたいというあこがれもあります。

長野県の場合、県のドクターバンク事業などで他県から37人ものベテラン医師の招聘に成功し、その中に産婦人科医が7人も含まれていたとのことですから、他の県と比べると医師確保対策は比較的うまくいっている方と言えるかもしれません。

最近も地元紙で、県立須坂病院に産婦人科医2名招聘とか、佐久市立浅間総合病院に産婦人科医3名招聘とか、自治体独自の医師確保対策により産婦人科医の他県からの招聘に成功したいくつかの事例が報道されてました。東北信(長野、上田、佐久など)は、長野新幹線で東京都内からの交通の便が非常に良いので、都内から移り住んで来る人も比較的多いのかもしれません。その点では、南信(諏訪、伊那、飯田など)は東北信と比べて非常に不利な地理的環境にあります。

****** 医療タイムス、長野、2009年3月12日

医師確保 就業先は東北信に集中

 県医師確保対策室は、県のドクターバンク事業と研究資金貸与事業で、11日現在、県内での就業につながっている医師37人について、就業先地域と診療科別の内訳を公表した。37人中28人の就業先が東北信に集まっており、本郷委員と向山公人委員(創志会)は、成果を地域間格差のない医師配置につなげるよう求めた。

 ドクターバンクによる医師確保数は、北信が最も多い12人。次いで東信10人、中信4人、南信1人の合計27人。研究資金の貸与では、東信4人(ドクターバンクと重複する2人を除く)、南信3人(同1人を除く)、北信2人(同1人を除く)、中信1人の合計10人で就業につながっている。診療科別では内科が9人、産婦人科7人、小児科と麻酔科がともに6人、外科5人、皮膚科・眼科・放射線科・形成外科がそれぞれ1人ずつ。

(以下略)

(医療タイムス、長野、2009年3月12日)

****** 中日新聞、長野、2009年3月16日

長野県、山岳誌に医師募集広告 「休みに登山できます」

【要約】 長野県は15日発売の山岳雑誌「山と渓谷」4月号に、県内で就業してくれる医師の募集広告を掲載した。発行元も、「こんな広告は初めて」と驚く奇策で、山好きな医師が集まるのを期待する。広告は、長野県の山並みの写真を背景に、「あなたを必要としています」と医師に呼び掛けるデザイン。掲載費は十数万円という。「仕事をしながら、休みの日に3000メートル級の山に日帰りで登れます」とアピールしている。

(中日新聞、長野、2009年3月16日)


公立病院の経営改革

2008年10月05日 | 地域医療

全国に約1000ヵ所ある自治体病院の8割は赤字経営に陥っています。昨年12月に発表された公立病院改革ガイドライン(総務省)で、病院を経営する自治体は、経営合理化や経営形態の見直しにより、病院経営の黒字化を達成するよう要求されました。

しかし、全国の自治体病院の赤字額は年々膨らむ一方です。新聞記事を読むと、自治体病院の赤字が急拡大し、2006年度の「実質赤字額」(経常収支の赤字額+自治体から病院への繰入金)の合計が7000億円を突破した!とか、某市立病院の累積赤字が50億円!とか、某県立病院の累積赤字が75億円!とか、信じられないような数字が並んでいます。

毎年、何億円もの赤字を出し続けてきた自治体病院が、『今すぐ黒字経営を達成せよ!』と厳しく申し渡されても、現実的にはなかなか難しいのではないか?と思われます。銚子市立総合病院のように、財政難と医師不足により診療休止に追い込まれる地域の拠点病院が、今後は全国的に続出するかもしれません。

公立病院改革ガイドライン

****** 朝日新聞、2007年12月28日

公立病院 実質赤字7000億円 昨年度 自治体、繰入金重荷に

 公立病院の赤字が急拡大している。約1000の病院について総務省がまとめた06年度決算では、自治体からの繰入金がなければ計上されていた「実質赤字額」の合計が、初めて7000億円を突破した。勤務医不足や診療報酬引き下げによる収入の落ち込みに加え、財政難の自治体からの繰入金が減少傾向にある。同省が今月、発表した公立病院改革ガイドライン(指針)は「黒字の達成」を病院を経営する自治体に突きつけた。急激な「改革」は、地域医療に混乱を及ぼす恐れもある。【加戸靖史、若松聡、浜田陽太郎】

「交付税頼み」崩れる

 「実質赤字額」は、経常収支の赤字額に、自治体が病院の赤字穴埋めのために繰り入れた金額を加えることで、経営状況の実態を示す。06年度、全国973の公立病院の経常赤字は前年度比567億円増と急拡大し、過去最悪の1997億円に。自治体からの繰入金5100億円を加えた実質赤字額は7097億円に達した。

 「親方日の丸で何とかなった時代から、倒れる時には倒れる時代に入った」と、川崎市病院事業管理者の武弘道氏は言う。これまで赤字でも病院経営が成立したのは、自治体からの繰入金があり、それを国の交付税が支えていたからだ。

 民間企業なら建物や設備機器の更新に手持ち資金をあてることで、金利負担のある借金をできるだけ減らそうとする。

 だが、公立病院の建設や設備更新は、借金で賄うのが普通だ。返済に充てる元利償還金の半分が自治体から繰り入れられ、交付税が「上乗せ」されることもあり、自己資金で賄うより有利と考えられた。

 この「借金した方が、交付税が多くもらえる」という仕組みが、多くの自治体を「病院の名を借りた公共事業」(厚労省関係者)に走らせ、借金を膨れあがらせた。

 公立病院も会計上、民間企業と同様に毎年、減価償却費を計上する。だが実際には支出されないため、将来の設備更新に備える手持ち資金として残る。そのため、「赤字が出ても手持ち資金の範囲内なら問題ない」と自治体も病院もとらえがちだった。

 だが、三位一体改革のもとで交付税が削減され、自治体本体の財政が悪化。繰入金はピークの99年度から600億円近く減少。医師不足と診療報酬引き下げも重なって、手持ち資金も目減りした。借金返済に必要な資金の不足を示す「不良債務」を、104病院事業で計953億円抱える。前年度から約120億円の急増だ。

 自治体財政健全化法の成立で、08年度決算からは、病院など公営企業の不良債務が一般会計の赤字と連結され、自治体全体の財政が査定される。

 一般会計からの繰り入れがあれば、経常黒字が達成されるよう、経営改善を目指すべきだ――。総務省が21日に発表した指針は、自治体が08年度中に策定する改革プランに、こんなハードルを設けた。しかし、自治体からの繰入金が減る中で「黒字化」を目指せば、産科や小児科、救急、へき地など、不採算な医療から切り捨てられていく危険がある。

 全国自治体病院協議会の小山田(こやまだ)恵(けい)会長は指摘する。「不採算分野など政策的な医療の明細を確定して、それに見合う費用を自治体は一般会計から繰り入れる。この前提がなければ、経営を健全化しても地域住民を苦しめるばかりだ」

(以下略)

(朝日新聞、2007年12月28日)


昭和伊南総合病院の救命救急センター指定見直しの問題

2008年08月08日 | 地域医療

コメント(私見):

救命救急センターとは、急性心筋梗塞、脳卒中、頭部外傷など、2次救急で対応できない複数診療科領域の重篤な患者に対し高度な医療技術を提供する3次救急医療機関であり、人口100万人あたり最低1カ所、それ以下の県では各県1カ所設置されます。

24時間救急に対応するには常時1名以上の救急科の専門医が病院に待機している必要があり、そのためには最低でも5名程度の専任の専門医を確保する必要があると考えられますが、現実的には、救命救急センターが設置されていても、救急科の専門医が十分には確保されてない病院も多く、その結果、救急科医師の労働環境が悪化し、激務に耐えかねて辞める医師が増加し、それによって、救急科医師の労働環境がさらに悪化、というように悪循環に陥っています。

少ない医師数で救命救急センターの運営を維持するのは大きな限界があります。長野県の人口は約217万人ですから、人口規模から言えば、本来は県内に救命救急センターは2カ所程度設置されるのが適正数とも考えられます。ただ、救命救急センターまでのアクセスに時間がかかりすぎると救命率が下がるので、むやみに施設数を減らすわけにもいかない事情もあります。

既存の救命救急センターとの距離的問題などから3次救急医療を必要とする重篤な患者の診療を行うため新たにセンターの整備が必要と認められる圏域には10床程度の新型救命救急センターの設置が認められることになりました。

長野県・南信地区では、約30年前に昭和伊南総合病院が救命救急センター(30床)に指定されて、長い間その機能を果たしてきました。しかし、30年の間には事情もかなり変わってきましたので、南信地区に新型救命救急センターを3カ所設置することになり、2年前、昭和伊南総合病院の救命救急センターを30床から10床に縮小し、諏訪赤十字病院(10床)、飯田市立病院(10床)が新型救命救急センターとして新たに指定されました。昭和伊南総合病院と伊那中央病院とは同じ上伊那地方にあって、同地方の救急患者の多くは伊那中央病院に搬送されています。現在、上伊那地方のセンターをどの病院に指定するのかで問題となっています。

信州大付属病院は、救命救急センターのうちでも特に高度な診療機能を提供する高度救命救急センターとして認可されています。

(伊那毎日新聞、2008年8月1日)

****** 信濃毎日新聞、2008年8月6日

地域医療の要に波紋

医師減の影響深刻 公立3病院維持 重い課題

 県の救急医療機能評価委員会が7月末、昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)の救命救急センターに「機能不十分」との評価を下し、病院や地域に波紋を広げている。県は本年度内に、同病院がセンターにふさわしいかどうか見極める方針。仮にセンター指定を外れれば、同病院の経営難に拍車をかける可能性もある。指定の見直しは、公立病院が多くを担う上伊那地方の地域医療をどう維持していくか、根幹にかかわる課題も投げ掛けている。

◆救命救急センター 心筋梗塞、脳卒中、頭部損傷など重篤な救急患者に24時間態勢で高度な医療を提供する施設。県が病院に設置を要請し、国が認める。対象病院は実質的に県の判断で決まるが、指定を取り消す権限はないとされる。県内のセンターは東信が佐久総合(20床)、北信が長野赤十字(34床)、中信が信大付属(20床)と相沢(10床)、南信が昭和伊南(10床)、諏訪赤十字(10床)、飯田市立(10床)の計7ヵ所。

昭和伊南の救急「不十分」評価

 「厳しい判断が下るとは思っていた。医師不足はわれわれの努力だけでは何ともならないのが現状だ」

 評価委が昭和伊南を現地調査に訪れた7月31日。評価結果を聞いた長崎正明院長は淡々と語った。

 評価委はこの日、調査を終えると直ちに、「センターとしては不十分」(滝野昌也委員長)との見解を表明。8月中にも事実上の指定替えを求める報告を県に出す考えを明らかにした。

 「常勤医が50人はいないとセンターの運営が厳しいことは分かっていた」。ある男性医師は言う。同病院の常勤医は現在23人。2003年3月には36人いたが、信大の引き揚げや開業などを理由に次々と流出した。その厳しさは、誰よりも現場の医師たちが痛感している。

 1979年、昭和伊南は「24時間・365日の高度な救急医療」を掲げる救命救急センターに県内で初めて指定された。長い歴史を持つ救急医療に誇りを持つ関係者は少なくない。

 だが現在、救急部門の常勤医は2人。休日・夜間の多くを他の診療科の医師がカバーする。整形外科と産婦人科の常勤医は不在だ。

 医師不足は経営面にも深刻な影響を与えた。04年度に約9800万円だった単年度赤字は06年度、約4億6800万円に拡大。「医師が1人いなくなれば、年間1億円の減収につながる」(事務部)という。

 このままセンターの指定が外れれば、高度医療を提供するとの理由で高く設定された診療報酬が適用されなくなり、経営へのさらなる打撃は避けられない。運営する伊南行政組合の杉本幸治組合長(駒ヶ根市)は「今後も守り抜く」と力を込めるが、「悪循環」を抜け出す特効薬は見つかっていない。

 昭和伊南がセンターでなくなった場合、指定が有力視されるのは伊那中央(伊那市)だ。常勤医師は現在62人。心肺停止状態で救急部門に運ばれたケースは07年1年間に105件あり、昭和伊南の45件を大きく上回る。

 南信のセンターをめぐっては、前県政時代に県が昭和伊南に「自主返上」を促したものの、地元の反対を受けて存続方針に転換。指定を見込んでいた伊那中央側は、運営する伊那中央行政組合の小坂樫男・伊那市長が「はしごを外された」と猛反発し、両病院や地域間のしこりも生んだ。

 こうした経緯もあり、伊那中央側は「センターになれば今と同じ態勢で1億1千万円の収入増になる」と期待感を示す。

 ただ、指定替えによる影響は未知数な部分もある。伊那中央でも、かつて7人いた救急部門の常勤医師は現在3人に減り、休日や夜間は他の診療科もカバーする。昭和伊南の運営がより厳しくなれば、伊那中央にさらに患者が集まり、医師の負担が過重になる事態も招きかねない。

 今年1月、小坂市長は昭和伊南、伊那中央と辰野総合(上伊那郡辰野町)の公立3病院の経営統合にも言及したが、その後議論は進んでいない。「上伊那の公立3病院全体をどう維持していけばいいか、難しい課題だ」。市長は重く受け止める。

 センター見直しをめぐり、地域にとって最善の「着地点」は見いだせるか。医師不足で昭和伊南がお産の扱い休止を決めたことを受け、昨年10月に駒ヶ根市の母親らがつくった「安心して安全な出産ができる環境を考える会」の須田秀枝代表は「まずは病院同士、行政同士が率直に話し合ってほしい」と求めた。【東条勝洋、大杉健二】

南信地区の救命救急センターをめぐる主な経緯

1979年4月 昭和伊南総合病院のセンター(30床)が運営
       開始
2005年3月 県の救急医療機能評価委員会が昭和伊南を
       「マンパワー不足で将来的に厳しい」と評価
     8月 県が昭和伊南にセンター指定の「自主返上」
       を要請、地元側は反発
     9月 県が南信のセンターを伊那中央、諏訪赤十
       字、飯田市立に10床ずつ再配置する案を示す
2006年5月 田中知事(当時)が方針を転換、昭和伊南の
       センターを10床に縮小して存続、残り20床を
       諏訪赤十字と飯田市立に配置する考えを表明
     9月 機能評価委が昭和伊南、諏訪赤十字、飯田
              市立への再配置方針を「妥当」と判断
    10月 新体制に移行
2008年7月 機能評価委が昭和伊南を現地調査、「機能が
       不十分」との評価で一致

(信濃毎日新聞、2008年8月6日)

****** 伊那毎日新聞、2008年8月1日

昭和伊南総合病院 「緊急医療に不適切な状態」と認識示す 県緊急医療機能評価委員会、7月31日の現地視察で

 長野県緊急医療機能評価委員会が31日、駒ヶ根市の昭和伊南総合病院を現地調査し、「救急医療を行なうには不十分」という認識を示した。

 委員会は、県内の救命救急センターに指定されている病院を視察し、センターとしての機能が発揮されているかを調査している。今年度視察するのは、県内の指定病院7カ所のうち2カ所で、今日は、長野赤十字病院と昭和伊南病院が対象。視察後に病院側と意見交換もした。

 委員からは、夜間の救急センターの運営や、他の医療機関と連携について質問が出され、救命救急センター長の村岡伸介医師は、「休日・夜間に勤務した次の日に、休めないこともあり、厳しい状況だ」と答えていた。

 連携については、現在昭和伊南病院には、整形外科や産婦人科の常任医師がいないので、伊那中央病院などに依頼している状況であると報告していた。

 視察を終えて、瀧野昌也委員長(長野救命医療専門学校救急救命士学科学科長)は、「委員全員一致で、救急医療を行なうには不十分だと感じた。今後の改善の取り組みを見守りたい」と話した。また、委員から、「伊那中央病院のセンター指定を視野に入れて視察をしてはどうか」との意見も出たと話していた。

 昭和伊南病院の長崎正明院長は「無理して継続することにより悪影響が出るよりは返上もやむをえない」と話していた。

 長野県は今年度中に上伊那の救急医療体制について方針を出したいとしている。【伊那ケーブルテレビジョン】

(伊那毎日新聞、2008年8月1日)


研修医の動向、地域格差

2008年07月16日 | 地域医療

今年もまもなく研修医マッチングの選考手続きが始まります。また、2年目の初期研修医達も来年から専門研修(後期研修)をする病院をそろそろ決定しなければならない時期です。

研修医にとっては、勤務病院の待遇改善やQOL(生活の質)ももちろん大切な要素ですが、多くの症例を経験し、基本的な技術や考え方をしっかりと修得できる研修環境が必要です。一つの病院の特殊なやり方だけに染まらず、いくつかの病院で多くの先輩医師のろいろな手技や考え方を学んで、自分を鍛えていく必要があると思います。多くの仲間と一緒に切磋琢磨して、腕を磨いていけるような研修環境が理想的です。

いくら医師不足で地方が困っているからと言って、研修環境を全く無視して、研修医をいきなり医療過疎地域に強制配置するようなやり方ではまずいと思います。大学病院と地域基幹病院とが全面的に協力しあって、あせらず長い目で、若い医師たちをじっくりと育てていく必要があると思います。

****** 信濃毎日新聞、2008年7月15日

県内集まらぬ研修医 受け入れ指定28病院「充足率」53% 7施設はゼロ 全国平均下回る

 研修医を受け入れる指定を国から受けた県内の28病院で、募集数に対する受け入れ数を示す「充足率」が本年度、53・9%にとどまり、うち7病院は研修医が1人もいないことが14日、信濃毎日新聞社の調べで分かった。医師が少ないことなどから「自分が望む研修が受けられない」として、医学生が敬遠する例が多いとみられる。研修医不在の病院からは、今後の医師不足につながる恐れを心配する声が出ている。

 県内28病院が受け入れた研修医は、計204人の募集に対し、4月1日現在で計110人。4月の全国の平均充足率の69・4%を下回り、東京(86・7%)とは大きく差が開いている。

 研修医がいない7病院は中信3、南信2、東信1、北信1。1年目の研修医がいないのは10病院、2年目がいないのは9病院に上った。充足率100%は6病院だった。

 医学生は、研修先として複数の病院を希望。財団法人が仲立ちとなって病院との希望を結び付ける「マッチング」で研修先が決まる。ただ、病床数や入院患者などを基に算出される全体の募集数が、医学生の数を上回る「売り手市場」になっており、医学生の希望が大きく左右しているのが現状だ。

 研修医がいない県内の病院の担当者は「指導する医師や症例数が少ない地方病院は、学生にアピールするのに限界がある。研修医が選ばない病院は将来の職場として選択される可能性も低く、東京や県内の大規模病院との差はますます開く」と懸念している。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年7月15日)


2年半で22病院が35診療科を休廃止/長野

2007年10月30日 | 地域医療

コメント(私見):

最近、勤務医不足が急速に進行し、産婦人科など非常に多くの診療科が次々に休止もしくは廃止に追い込まれている実態が、長野県衛生部より公表されました。

状況が好転する要素はなかなかみつけられないので、現在の診療科休廃止の連鎖は、今後まだまだしばらくは続くことも十分に予想されます。

いったん休廃止に追い込まれてしまった診療科を、また一から立ち上げて軌道に乗せるのは並大抵の事ではありません。

診療科の休廃止を回避するためには、現時点における科の常勤医師数で、無理なく、余裕を持って業務を継続できる程度に、科全体の業務量を厳しく制限することが重要だと思います。

****** 毎日新聞、2007年10月28日

2年半で22病院が35診療科を休廃止/長野

医師不足、急速に進行

 県内22の病院が05年4月から2年半の間に、産婦人科など35の診療科を休止もしくは廃止していたことが、県衛生部の調べで明らかになった。大半の病院が常勤医の退職など医師不足を理由に挙げている。入院の受け入れや夜間のみの休止など診療体制の縮小も合わせると、影響は27病院にも上る。休廃止の時期は今年4月からの半年間が最も多く、県内で医師不足が急速に進行していることが浮き彫りになっている。【神崎修一】

 県衛生部が保健所を通じ、今年9月時点の状況をまとめた。対象は病院だけで診療所は含まない。休廃止の内訳は、産婦人科・産科が11で最多。小児科・小児外科が4、整形外科が3と続く。麻酔科、眼科、循環器科もそれぞれ二つ休廃止された。休廃止の時期は4月からの半年間が最も多く、8病院11診療科にも及んだ。

 休廃止の理由は「2人いた常勤医師の1人が退職した」(下伊那赤十字)など医師不足を理由に挙げる病院が多い。医師不足は04年度からの新しい研修制度の影響で、医師が減った大学医局が医師を引き揚げたことが原因とされる。勤務がきつく、リスクを伴うことが多い産婦人科などが敬遠されていることも要因だ。

 休廃止や縮小した27の病院を地域別にみると、中信が最多の8。東信7、北信と南信の6と続き、県内全域に影響が及んでいる。このほか、県内では須坂市の県立須坂病院と駒ケ根市の昭和伊南総合病院が、来年4月から分娩(ぶんべん)の休止を予定。大町市の市立大町総合病院も、医師退職の影響で来年4月からの内科縮小を明らかにしている。

 県は特に深刻な小児科医、産科医不足を受け、「産科・小児科医療対策検討会」を設置。同委は今年3月に「医療資源の集約化、重点化が必要」との提言をまとめた。各医療圏の中心病院を「連携強化病院」とし、産科9病院、小児科10病院を指定。医師不足が生じた場合には連携強化病院に優先的に医師を配置することにしている。

 3人いた常勤医師が1人に減ったため、06年4月から産婦人科で分娩の扱いを休止している安曇野赤十字病院(安曇野市)。外来診療は継続されているものの、分娩再開のメドは立っていない。同病院の青山守事務部長は「深夜の対応などを考えると、最低でも3人の産科医が必要。1人の医師でお産を扱うのは難しい」と話す。

 同病院では医師を紹介する民間企業などを通じて、医師を探しているが、現状は厳しい。青山事務部長は「人材は大都市、大病院へ向いている」と漏らす。また、今年4月から分娩を休止中の別の病院関係者も「何とか医師を確保したいが、大学にすら医者がいない」と嘆く。

 厳しい現状の中で、医師確保に成功した病院もある。佐久市立浅間総合病院は、新たに常勤の産婦人科医1人を確保できた。これまで月28人としていた分娩の受け入れ制限を11月から解除する。来年5月までの分娩予約が既にいっぱいになるなど、反響は大きい。佐々木茂夫事務長は「少しでも市民の要望に応えたかった。医師に私たちの熱い思いが伝わったのでは」と振り返った。

 一方、26日の定例会見で県内の医師不足について言及した村井仁知事。「あの手この手と一生懸命やっている。何とか成果を出したいし、非常に焦燥感も持っている」と危機感を募らせている。

(以下略)

(毎日新聞、2007年10月28日)


勤務医の大量離職、診療科の休廃止

2007年10月20日 | 地域医療

コメント(私見):

どんな仕事であれ、業務量を増やすためには、スタッフを増員することが必須条件となります。スタッフが増員されないのに、業務量だけが際限なくどんどん増え続けていけば、いずれどこかで破綻してしまうのは当然です。

最近、勤務医不足による診療科の休廃止が急増しています。診療科の休廃止を回避するためには、現在の科の常勤医数で、無理なく、余裕を持って業務を継続できる程度に、科全体の業務量を厳しく制限することが重要だと思います。

勝算も無いのにギリギリまで頑張り続けるのは、破綻した時の被害が甚大となり、得策とは言えません。万策尽き果て勝算が無いと悟った時点で、早めに白旗を掲げて降参を表明することも大事なことだと思います。

****** 朝日新聞、長野、2007年10月20日

27病院の43科が休廃止か縮小

 県内の27病院が05年4月以降、医師数の不足などを理由に、43の診療科を廃止や休止、縮小したことが、県医療政策課による各保健所に対する聞き取りでわかった。43科の内訳は、産婦人科が最も多い14科で、小児科の6科が続く。時期的には今年に入ってからが17科を占めており、産科医や小児科医を中心に、勤務医不足の影響が急激に出てきていることが改めて明らかになった。

 調査対象は病院のみで、診療所は含まない。産婦人科や小児科に続く内訳は、整形外科4、麻酔科3、眼科2、循環器科2、精神科2などの順だった。休廃止や縮小を迫られた27病院の地域別は、北信6、東信7、中信8、南信6で県内全域に及んでいる。

 産婦人科については、ほとんどが分娩(ぶん・べん)に関する休廃止・縮小。縮小は、県外からの電話による申し込みは断るなどして里帰り分娩を制限(佐久総合)したり、予約制にしたりするなどの方法が取られている。

 すでに休廃止・縮小した以外にも、県立須坂病院(須坂市)と昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が今年度いっぱいで分娩の扱いを休止する方針をすでに決めている。

(以下略)

(朝日新聞、長野、2007年10月20日)


臨床研修の経費を補助へ/長野県

2007年09月25日 | 地域医療

地域中核病院の研修体制を整備し、多くの若い医師達に臨床研修の場として選んでもらえるような良質の研修環境を作り上げていくことが大切です。

将来的には、地域中核病院から地域の病院に医師を定期的に派遣できるくらいにまでなれば、地域の医師不足の解消にもかなり貢献できる筈です。

しかしながら、若い医師の育成には非常に長い年月を要しますし、若手のうちはいろいろな病院で修業を積み重ねていく必要があって、一つの地域中核病院だけの研修では不十分です。

医師養成大学と地域中核病院とが緊密に連携・協力して、地域における臨床研修体制を整備し、医師の病院間の流動性も活発化して、地域医療の流れをいい方向に変えていく必要があります。

**** キャリアブレイン・ニュース、2007年9月21日

臨床研修の経費を補助へ/長野県

 地域医療に従事する医師の確保を図るため、長野県は 9月21日までに、臨床研修病院の研修医の確保などにかかる経費を補助する制度「臨床研修病院緊急支援事業補助金」を新設することを明らかにした。補正予算は2,785万円。今年度から3年間実施する。

 同制度の対象となるのは国立・県立を除く22の臨床研修病院。1病院に対して支給されるのは、広報宣伝や研修医の学会参加、備品や図書の購入などにかかる経費100万円と、上限を10人までとして、後期臨床研修1年目の研修医1人当たり15万円となる。

(以下略)

(キャリアブレイン・ニュース、2007年9月21日)


全都道府県で医学部定員増 年に最大計245人

2007年08月25日 | 地域医療

****** 産経新聞、2007年8月24日

全都道府県で医学部定員増 年に最大計245人

 深刻化する医師不足に歯止めをかけるため、政府は、来年4月から大学医学部の入学定員を各都府県で最大5人、北海道で最大15人増やすことを認める方針を固めた。増員分の学生の入学金や授業料は自治体が全額肩代わりし、卒業後は僻地(へきち)などの病院や診療科を指定して9年間の勤務を義務付ける。

 期間は10年間で、1年に最大計245人の増員となる。政府・与党が5月に発表した緊急医師確保対策の一環で、国は都道府県に地方交付税を増額する形で財政援助する方針。

 医師不足が深刻な山間部や離島などの医療圏や、産科、小児科などでの医師確保が狙い。ただ卒業までに最低6年間かかるため、効果が表れるのはしばらく先になりそうだ。

 計画によると、増員対象とする大学の選定や人数、卒業後の勤務先については、自治体の担当者や大学、医療関係者でつくる都道府県ごとの協議会が決める。学生には入学金と授業料の全額に加え、生活費の一部を奨学金として支給。卒業後に指定した医療機関で勤務できなくなった場合は、全額を返還させる。

 北海道の増員枠が多いのは医師が不足している医療圏を数多く抱えているため。

 政府は、自治体別の増員計画とは別に小規模な大学の増員枠も設定。入学定員が80人に満たない大学について、20人まで増員を認める。現時点で対象となるのは、横浜市立大と和歌山県立医大の2校。

 同様の取り組みは自治医大(栃木県)が既に実施。毎年2、3人が都道府県から奨学金を得て入学し、卒業後に指定された病院に赴任しており、今回の新たな増員について、厚生労働省は「都道府県版の自治医大構想」(医政局)と位置付けている。

 医学部の入学定員をめぐり、政府は既に今回の計画とは別に来春以降の10年間で、10県の大学と自治医大の計11大学について年間で最大10人ずつの増員を認めている。自治医大以外はいずれも医師不足が深刻な地域にある大学で、卒業後は県内などでの勤務を条件に奨学金を支給するが、勤務先まで指定できないため、県庁所在地などの都市部に卒業生が集中してしまうとの懸念があった。

                                    ◇

 医学部の定員 国は1970年代に大学医学部の新設や定員増を進め、83年に「最小限必要な医師数」とする人口10万人当たり150人の目標を達成。その後は医療費拡大を抑えるため定員削減に方針転換した。しかし近年、過疎地や産科、小児科など特定の診療科で医師不足が深刻化。政府・与党は今年5月に6項目の緊急医師確保対策を発表し、奨学金による医師養成の推進などを重点項目に盛り込んだ。

(産経新聞、2007年8月24日)


卒後臨床研修(初期および後期)説明会、松本

2007年08月17日 | 地域医療

コメント:

明日、松本で開催される卒後臨床研修(初期および後期)説明会のお知らせです。

当院からも、院長、副院長以下、各診療科の指導医たちが多数参加する予定です。また、当院所属の研修医たちも、「久しぶりに大学の同窓生たちと会えるかもしれない」ということで、多数参加してくれる予定です。

私自身も、この卒後臨床研修説明会には毎年参加してますが、例年の説明会では学生や研修医たちの参加がほとんどなくて、会場には例年同じ顔ぶれの県内各地の臨床研修病院の指導医たちだけが多数集まり、まるで指導医たちの同窓会みたいな雰囲気でした。

今回の説明会は例年と違って、信州医療ワールド・夏季セミナーというイベントの一環として開催されるということで、今年こそは学生・研修医の参加がいつもより多くなるといいな!と大いに期待してます。

追記(8月18日):本日の卒後臨床研修説明会は、例年の説明会と比べて、学生や研修医の参加者が格段に多く大盛況でした。地域医療人育成センターや卒後臨床研修センターなどの担当の先生方の御努力の賜物だと思います。当院のブースにも多数の学生や研修医が訪れてくれました。来訪者の中には、産婦人科を志望する学生や研修医も何人かいました。

******

全国の研修医・医学生に向けた信州大学と長野県内すべての臨床研修病院による「卒後臨床研修(初期および後期)説明会」

ブース形式で長野県内各臨床研修病院および本院の各診療科(部)の指導医と懇談いただけます。

日時 平成19年8月18日(土)
         午前10:00~午後3:00

場所   信州大学 旭総合研究棟 9階A・B講義室

お申込み・お問合わせ:

〒390-8621 松本市旭3-1-1
信州大学医学部附属病院総務課
 卒後臨床研修係

TEL: 0263-37-3050
FAX:0263-37-3024
sotsugo@hsp.md.shinshu-u.ac.jp


将来の地域医療の担い手の確保

2007年08月11日 | 地域医療

コメント(私見):

平成16年度に『新臨床研修制度』が導入され、医学部を卒業した後の研修先は、大学病院以外に一般病院も広く選べるようになりました。研修希望者と研修先病院の組み合わせの決定には、『研修医マッチング』というシステムが新たに導入されましたが、そのシステムでは基本的に研修医自身の希望が最優先されます。

その結果として、研修医は大都市の大学病院や有名病院などに集中するようになり、地方では研修医の確保に非常に苦労しています。

今や、研修希望者が研修先病院を自由に選ぶ時代となった以上、地域中核病院は、研修希望者(医学生、初期研修医)にとって魅力のある研修先病院(マグネットホスピタル)に変身していく必要があります。地方の医師不足を解消するためには、まず、(初期および後期)研修医を十分に確保することが不可欠です。研修医が集まって来ない病院には、指導医も集まって来ません。とにかく、『研修医に選ばれる病院』に変身していかない限り、病院の未来は決してあり得ません。

また、一つの研修先病院だけであらゆる疾患や技術の研修をカバーするのは難しいので、若手医師たちは数年ごとに研修先を変えて成長していきます。従来は、若手医師が次の研修先に転勤した後は大学の医局人事で後任医師が補充されてきました。しかし、病院独自で採用した若手医師が次の研修先に転勤する場合には、自力で後任者を補充し続けなければなりません。

今後、研修医たちの意見を取り入れて、研修内容や待遇を毎年少しずつ改善し、研修先としての魅力を高め続けていく必要があると思います。

参考:

地方病院での医師の確保と育成 

医師の配置機能

****** 信濃毎日新聞、2007年8月10日

県内外の医学部生、信大で夏季研修 県内定着を狙う

 信大医学部(松本市)は16日から3日間、主に県外の大学医学部で学ぶ県出身者を対象とした「信州医療ワールド夏季セミナー」を、松本市の信大松本キャンパスで初めて開く。県内出身の医学部生とつながりを保つことで、将来県内で働いてもらう狙いがある。地域の勤務医不足が深刻化する中、「全国の医学部に先駆けた取り組み」(信大)としている。

 信大は昨年10月、県内での医師育成を目的に「地域医療人育成センター」を開設。不足が著しい産科・小児科医を増やそうと、学生が子どもと接する場を設けるなど、やりがいを体験する研修を始めた。医師のUターン支援なども行っている。

 今回のセミナーは、センター開設当初からの計画。センター長の福嶋義光教授は「県外に出た学生が県に関する情報を得るのは大変。セミナーを通じ接触を持ち続けることで、情報交換ができる」とする。

 セミナーには、信大を含む27大学の医学部から3-6年生61人が参加予定。このうち県内出身者は19人で、想定よりも県外者の参加が目立つという。大橋俊夫医学部長の講演や各診療科に分かれた見学会、グループ討論、先輩研修医との交流会を予定。県内約40の医療機関が参加し、卒業後の臨床研修の説明会も行う。

 福嶋教授は「信州でも先端の医療に従事できる喜びを伝え、結果的に県内で働く医師が増えればうれしい」と期待する。

(信濃毎日新聞、2007年8月10日)

****** 北日本放送/富山、2007年8月10日

医学生に研修先の魅力アピール

 近年、県内の病院で医師が不足している背景には、研修医の不足があると指摘されています。

 県は10日、大学の医学部の学生を対象に、県内の病院の見学会を開き、研修先としての魅力をアピールしました。

 この見学会は、これまで自治医科大学の学生のみを対象に行っていましたが、今年は対象を拡大して募集し、地元富山大学をはじめ金沢大学、鹿児島大学の医学生あわせて21人が参加、グループに分かれて県内8つの病院を見学しました。

 このうち黒部市民病院では大学を卒業した後の研修先に選んでもらおうと、研修の内容や指導体制の特徴をアピールしていました。

 県が今回、見学会の門戸を広げた背景には、研修医の激しい争奪戦があります。

 平成16年度に新しい臨床研修制度が導入され、研修先は大学病院以外に一般病院も広く選べるようになり、研修医は大都市に集中し、地方は研修医の確保に苦労しています。

 学生は「全国の病院をいろいろ比べて自分の行きたいところを見つけていこうかなという気でいる。症例数とか研究数とか先生方も世界的な研究をしていらっしゃる方どうしても都会に多いので、そういうところに魅力を感じる方は都会のほうにいきますし」

 県内でも、今年度14の病院が112人の研修医を募集しましたが、54人しか決まりませんでした。

 充足率は48.2%と全国45位に低迷しています。

 県医務課「県内に定着していただくためには、県内の臨床研修病院で医師としての第一歩を踏み出していただくというのが非常に重要だと思うので、学生さんに声をかけて県内の公的病院を実際に目で見ていただいて、こんなに頑張っている病院たくさんあると実感していただけたらなと思う。」

 医師不足を解消するにはまず研修医の確保が不可欠、黒部市民病院では、研修医の指摘を取り入れて研修内容や待遇を少しずつ改善しています。

 黒部市民病院は「今はもう、学生が病院を選ぶ時代で、学生さんにとって研修するに当たって魅力のある病院にしていかないと、もう研修医が集まらない病院は、上級の医者も集まらなくなる。まず研修医が選んだ病院になっていくのが、第一の目標。」

 研修医の争奪戦に勝ち残るため病院の現場は県内でも変わりはじめています。

(北日本放送/富山、2007年8月10日)

****** 東奥日報(青森)、2007年8月10日

県の地域医療体験実習が好評

 県内外の医学生が本県で地域医療を体験する県の事業「へき地における卒前教育モデル事業」が好評だ。本年度すでに県外医学生枠十人いっぱいの申し込みがあり、関東、関西の“医師の卵”がむつ、深浦、三戸などで研修を積み、地域医療の大切さを肌で感じている。県事業のほかに各病院・診療所が独自に医学生を受け入れるケースも増えており、本県は“地域医療のメッカ”として、医学生に浸透しつつある。

 県の事業は二〇〇六年度からスタート。医学部五、六年生が一週間程度、地域で医療の基礎を学ぶ「心のふれあいコース」、四週間程度滞在する「いきいき交流コース」のほか、本年度から新たに医学生一~四年生が三日程度見学するコースも設けた。

 交通費は県が負担し、宿泊場所は医療機関側が用意する。県外医学生の定員は十人で、既に本年度の枠はほぼ埋まっている。

 東通村の東通診療所には、六日から十日までの日程で、大阪大五年生の久保絵美さん(兵庫県出身)が実習に参加。川原田恒所長の指導の下、外来診療、訪問診療、各種ミーティングなど内容が濃いプログラムを体験。医療・保健・福祉が一体となって住民にサービスを提供する村の「包括ケア」の取り組みなども熱心に学んでいる。

 プログラムの中には、医学生と子どもたちとの交流会やホームステイ体験も組み込まれており、医学生が地元の人情に触れるとともに、地元の子どもたちが将来、医師を目指す動機づくりの場ともなっている。

 県のホームページを見て実習に参加した久保さんは「(川原田所長が)外科、内科、小児科…と、いろいろな患者さんを診ているのはすごい。幅広い知識と経験が必要だと思う」と驚きの表情を浮かべ、「青森県は医師不足のイメージがあるが、医師育成に熱心な県だと感じる」と語った。川原田所長は「地域医療に親近感を持ってほしい。楽しさを感じてほしい」と語る。

 ほかに深浦町の関診療所では今春、大阪市立大の医学生二人が地域医療を体験。むつ総合病院では杏林大(東京都)の六年生が、三戸中央病院では山梨大五年生が県の実習事業に参加した。

 関診療所で基礎医学や医師のあるべき姿をみっちりと学んだ医学生からは「一日がとても充実していた」などの声が寄せられている。

(東奥日報、2007年8月10日


医師の配置機能

2007年08月09日 | 地域医療

今の日本にある病院の多くは、従来、どこかしらの大学の医局から医師が派遣されて、病院機能が維持されてきました。当院の場合でも、院長以下、各診療科の所属医師たちは、元をただせば、大学の医局人事で就職してきた者がほとんどです。私自身も、二十年ほど前に、当時の教授の『天の声』に従って、新天地(現在の任地)に一人医長としてやって参りました。

『どこかの大学医局に在籍して、教授の命令に素直に従っていれば、どこかしらの就職先を最終的に割り当ててもらえるだろうし、将来についての不安を感じる必要性はないし、そのうち学位も取得できる筈だし...』というような理由で、以前はほとんどの医師が医学部卒業と同時にどこかしらの大学医局に所属しました。

大学医局に所属すると、各自の希望や都合などとは全く関係なく、いつでも、命令が下され次第、否応なく指定された任地に赴く覚悟が必要でした。こうして、長い間、大学が地域の医師配置機能を果たしてきました。

しかし、最近、若手医師たちの研修先や就職先は、各自の自由意思で選択することも可能になってきて、大学医局に所属する者の割合が以前と比べて減少傾向にあり、大学の医師配置機能が低下しつつあります。

どこかに余った医師がプールされているわけでもありませんし、医師不足で困窮している地域に必要な医師を配置する機能は、今や、国にも、県にも、大学にも、どこにもありません。そのために、医師不足の地域では、ますます医師数が減っていく傾向にあります。


医学部定員にへき地勤務枠を新設へ 都道府県に最大5人 (朝日新聞)

2007年08月07日 | 地域医療

コメント(私見):

へき地勤務枠の医学部卒業生たちの卒後臨床研修はどうなるのでしょうか? このへき地勤務枠という新しい制度で、将来、どのような医師を養成しようとしているのでしょうか?

2年間の初期臨床研修が終了したばかりの若手医師たちをへき地に単独で配属しても、せいぜい、とりあえずの応急処置くらいしかできません。へき地に単独で配属する前に、初期臨床研修に加えて、研修環境が整備されている地域拠点病院で最低でも3年間程度の後期臨床研修を済ませておかないと、現場では全く使い物にならないと思われます。

しかし、現実には、今、地方の地域拠点病院の多くは、大学病院への医師引き揚げにより常勤医数が大幅に減少し、辞めた医師達の補充もできないので、医師不足で非常に困窮している病院が増えています。少ない常勤医達が日常の診療に忙殺され、研修医の指導どころではない病院が少なくないと思われます。

指導体制が不十分な病院に、研修医が多く配属されたとしても、まともな研修ができる筈がありません。もしも、今後、地域拠点病院に多くの研修医を誘導するのであれば、先行して、まず地域拠点病院の常勤医数を大幅に増やし、指導医が研修医の指導に専念できるような研修環境を実現しておく必要があります。

また、診療科によっては、チーム医療が中心となり、医師1人の体制では医療が成立しなくなっている分野も少なくありません。例えば、周産期医療に関して言えば、多数の産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師などからなる周産期医療チームを結成する必要があり、現在、多くの地域で、拠点病院に産婦人科医や小児科医を集約化して、周産期医療の継続に必要な人員を確保しようとしています。もしも、産婦人科専門医をめざして育成中の若手医師までも、一律に、拠点病院からへき地に派遣するのを義務化したら、今後、多くの地域で周産期医療の継続が困難となってしまうかもしれません。診療科ごとの柔軟な対応が必要になると思われます。

****** 朝日新聞、2007年8月6日

医学部定員にへき地勤務枠を新設へ 都道府県に最大5人

 政府は医師不足対策として、都道府県ごとに、大学医学部の入学定員を最大5人程度増やすことを認める方針を固めた。定員増加枠の学生には都道府県が奨学金を支給し、代わりに学生は、卒業後最低9年間、都道府県が指示するへき地の病院などでの勤務を約束する。早い都道府県では来春の入試から増加枠を設ける可能性がある。

 政府は昨年8月、人口や面積あたりの医師数が少ない10県と自治医科大学(栃木県)について、08年度から10人までの定員増を認めた。現在、11大学が計110人の定員増を文部科学省に申請している。地元への定着が条件だが、卒業後の勤務先までは拘束しないため地方の中核都市に医師が集中し、へき地の医師不足は解消されないとの指摘が出ていた。

 今回新設する増加枠で入学する学生については、卒業後2年間の臨床研修期間を含む9年間、都道府県が指示する医療機関で勤務してもらう。医師不足が深刻な産婦人科や小児科など、都道府県が求める診療科の医師になれば、勤務先までは指定しない措置の導入も検討している。

 増加枠を何人にするかは各都道府県が決め、一般の定員枠とは別に入試を行う。推薦、筆記など入試方法は各都道府県に委ねるが、将来にわたって地域医療を担う意欲をみるため面接試験は必須とする考えだ。

 増加枠の学生には入学金と授業料分の奨学金を支給する。学業に必要な生活費分も上乗せする方向だ。卒業後、約束通りに勤務すれば返済を免除し、従わない場合は奨学金の全額返済を求める。

 自治医大は、各都道府県から毎年2~3人ずつ学生を受け入れている。学生は、都道府県から奨学金を受ける代わりに、卒業後9年間は勤務先が拘束される。今回の取り組みは「各県自治医大構想」(厚生労働省幹部)ともいえる。

 今回の増員枠と自治医大の卒業生を合わせると、各都道府県は毎年最大で7~8人程度、へき地などに医師を計画的に派遣できるようになる。ただ、来春以降に入学する学生が卒業するまでに6年かかるため、今の医師不足がすぐに改善されるわけではない。

 07年入学の全国の医学部総定員は約7600人。総定員は70年代の医大新設で急増し、80年代前半は8000人を超えていたが、その後は医師数が過剰になるとの判断から抑えられてきた。政府は昨年に続く定員増を「臨時的な措置」としているが、医師不足の深刻化を踏まえ、定員抑制策の転換を求める声も出ている。

(朝日新聞、2007年8月6日)