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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2017-07-25 09:07:39 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

~ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団演奏会~

 ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 
ブルックナー:交響曲第7番

指揮:ベルナルト・ハイティンク         

管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

収録:オランダ・アムステルダム コンセルトヘボウ、2017年2月19日

提供:オランダ公共放送

放送:2017年6月22日(木)  午後7:30~午後9:10

 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるドビュッシー:牧神の午後への前奏曲とブルックナー:交響曲第7番である。指揮のベルナルト・ハイティンク(1929年生れ)は、オランダ・アムステルダム出身。最初地元のオーケストラでヴァイオリンを弾いていたが、その後、フェルディナント・ライトナー(1912年―1996年)に指揮を師事し、1957年オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者に就任。指揮としてのこれまでの経歴を列記すると、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団首席指揮者、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、グラインドボーン音楽祭音楽監督、ロイヤル・オペラ・ハウス音楽監督、EUユース管弦楽団音楽監督、シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、ボストン交響楽団名誉指揮者、シカゴ交響楽団首席指揮者などで、欧米楽壇おけるハイティンクの重鎮ぶりが窺える。1991年にはヨーロッパの文化、社会、社会科学への貢献を評価して授与される「エラスムス賞」を受賞。これまでベートーヴェン、シューマン、ブラームス、ブルックナー、チャイコフスキー、エルガー、マーラー、ショスタコーヴィチ、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲全集の録音を完成させていることからも、そのレパートリーは広い。1962年に初来日を果たし、以後しばしば日本を訪れている。

 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、オランダ・アムステルダムに本拠を置くオーケストラ(旧称:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団)。アムステルダムにコンセルトヘボウがオープンした1888年にコンセルトヘボウの専属オーケストラとしてアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団が創設された。一躍世界的オーケストラへと発展したのは、24歳の若さでコンセルトヘボウの第2代常任指揮者に就任、その後半世紀に渡って活躍したしたウィレム・メンゲルベルクの功績と言われている。リヒャルト・シュトラウスは自作の交響詩「英雄の生涯」を、このコンビに献呈している。また、マーラーもしばしばコンセルトヘボウの指揮台に立ち、死後弟子のオットー・クレンペラーらは1920年に世界で初めて「マーラー音楽祭」を開催するなどなどし、コンセルトヘボウの名声は盤石のものとなっていった。1988年創立100周年を迎えたコンセルトヘボウは、ベアトリクス女王より「ロイヤル」(王立)の称号を下賜され、現在の名称「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」に改称された。これまでの首席指揮者は、ウィレム・ケス、ウィレム・メンゲルベルク、エドゥアルト・ファン・ベイヌム、オイゲン・ヨッフム、ベルナルト・ハイティンク、リッカルド・シャイー、マリス・ヤンソンス、そして現在ダニエレ・ガッティが務めている。

 今夜の最初の曲であるドビュッシー:牧神の午後への前奏曲は、1892年から1894年にかけて作曲された管弦楽作品であり、同時にこれが出世作にもなった。ドビュッシーが敬愛していた詩人のマラルメの「牧神の午後」に感銘を受けて書かれた作品である。「夏の昼下がり、好色な牧神が昼寝のまどろみの中で官能的な夢想に耽る」という内容で、牧神の象徴である「パンの笛」をイメージする楽器としてフルートが重要な役割を担っている。初演は1894年パリの国民音楽協会において行われたが、初演から好評であったという。1912年バレエ版が上演されたほか、管弦楽以外の編曲としては、作曲者による2台ピアノ用編曲、ラヴェルによる連弾用編曲、レナード・ボーウィックによるピアノ独奏用編曲、シェーンベルクによる10人編成用編曲などがある。今夜のベルナルト・ハイティンクの指揮ぶりは、精緻を極めたもので、その上、ハイティンクの指揮特有の万人を説得できる明快なものに仕上がっていた。聴衆に対し押しつけがましいところは微塵もなく、かといって聴衆に対して迎合することも全くしない。滔々と流れるドビュッシーの音楽に自然体で身を任せ、そのままのピュアな音楽をリスナーに送り届ける、といった感じが非常に強い指揮だ。このことは、簡単なようで非常に難しいことであろうとも思う。聴いていて、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団との信頼関係も並々ならぬものが感じられた。

 次は、2番目の曲で、今夜最後の曲でもあるブルックナー:交響曲第7番。ブルックナーの交響曲は全部で9曲あるが、その中でもっともポピュラーな曲が第4番とこの第7番である。当時、ブルックナーの交響曲は、演奏技法的に難しい上、内容が難解なことが多く、オーケストラから“演奏不可能”という烙印を押されることもしばしば生じた。これに対し、この第7番は、例外的に1884年の初演の時から好評を持って迎えられたという。好評であったためか初演の翌年の1885年にバイエルン国王ルートヴィヒ2世に献呈されている。この曲は、ブルックナー自身による大改訂が行われたわけではないが、残された自筆稿・資料の解釈の相違から、初版、ハース版、ノヴァーク版の間で相違を見せる箇所がいくつかある。全4楽章からなるが、第2楽章の執筆中にブルックナーが最も敬愛していたワーグナーが危篤という情報が飛び込んできた。このため、ブルックナーは「ワーグナーの死を予感しながら」書き進め、1883年2月13日にワーグナーが死去すると、その悲しみの中でコーダを付加し、第184小節以下をワーグナーのための「葬送音楽」と呼んだ。ここでのハイティンクは、巨匠とういう名がぴたりとあてはまるような、悠揚迫らざる堂々とした指揮ぶりを披露する。テンポはゆっくりとしたものだが、全体に緊張感がぴんと漲り、とても88歳の指揮者の演奏とは思えない。ハイティンクの指揮の根底に流れているものは、厭世観ではなく、肯定的な世界観であると私は思うのであるが、今夜の演奏もそのことを裏付けるように、颯爽としたものに仕上がっていた。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の団員達も、一人一人が輝くような音色でこれに応え、ハイティンクに寄り添うように演奏していたことが聴き取れ、聴いていてほのぼのとした想いにさせられた。(蔵 志津久)

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