元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ALWAYS 三丁目の夕日」

2006-12-07 06:44:35 | 映画の感想(英数)

 確かに、時代背景となる昭和30年代前半を見事に再現した映像の見事さに圧倒される。集団就職やSL、オート三輪など当時の風俗・事物の扱いには抜かりはないが、それよりCGの使い方には舌を巻いた。これ見よがしの特撮を極力抑えた、あくまで実写のサポート的な位置づけ、そしてその分スクリーンの背景に象徴的にそびえる建設中の東京タワーを精緻に描出するというメリハリを付けた処理は、さすがSFXの扱いには定評のある山崎貴監督だ。

 しかし、そういう映画のエクステリアが醸し出すノスタルジアだけで感動してしまうのは、団塊世代より上の人たちだろう。では他に何があるかというと、実は何もないに等しいのだ。

 肝心のストーリーそのものは単なる人情話、それもこの時代背景があるからこそ、かろうじて成立しているような、手垢にまみれたものでしかない。もちろん、現在に通じるものも感じられない。この点、ノスタルジックな世界を題材にしつつ見事に現代に向けたメッセージを発信した「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」とは大きな差がある。

 吉岡秀隆をはじめ堤真一、薬師丸ひろ子といった出演陣が好調なだけに、もっと脚本を工夫して欲しかった。

 それにしても、この時代は日本映画の全盛時だったはずだが、それに触れていないのはどういうわけだろうか。製作元がテレビ局だからか?(爆) そういえば映画館で観たときは劇中に不自然なフェイドアウト処理が目立ったが、あれはテレビ放映時のCM挿入を想定している・・・・という見方は下司の勘ぐりかな?(笑)

 さらに、この映画が団塊世代より上の層以外の、幅広い支持を集めてしまったこと自体が、今の日本映画を取り巻く状況を象徴していると言える。現実には目の前に問題が山積し、庶民ベースでは確実に不遇を強いられる状況が昂進しているにもかかわらず、こういった今の時代に通じるものが希薄な“閉じた世界”に作り手も受け手も安住してしまっている。まるで他人の貧乏に対し高みの見物を決め込んでいるような、しかも自らのシビアな生活を棚に上げて“下には下がいる”という感じの、刹那的で自慰的なスタンスを感じてしまう。

 もちろん、映画鑑賞そのものも刹那的で自慰的な娯楽である。“お涙頂戴の人情劇、それのどこが悪い!”と開き直られると、何も言えない(笑)。しかし、いくらその場限りの娯楽でも、何かしらリアルなテイストを挿入しないと退屈極まりないシロモノに堕すると思っているのは私のようなヒネた映画ファンだけなのか。いずれにしろ、このぬるま湯に浸かったようなノスタルジア劇でしかない本作は、とても評価する気になれない。

(注:この映画の感想は2005年の11/17に一度アップしましたが、この書き込みはそれを加筆訂正したものです。なお、前回のアーティクルは削除しています)

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