(原題:9 )見事なキャラクター造型と上出来の活劇シーンにより、とりあえずは見応えのある作品に仕上がっている。しかし、世界観の構築に詰めの甘さが感じられるのが残念だ。2006年の米アカデミー賞短編アニメーション部門の候補になったシェーン・アッカー監督の「9」を、ティム・バートンの製作により長編としてリメイクしたもの。人類が滅亡した後に地上に生み出された、小さな人形たち(身長は推定10数センチ)の戦いを描く。
主人公の「9」をはじめとして9体の人形には固有名詞が無く、すべて番号で呼ばれる。全員ガラクタとボロ布を組み合わせたような出で立ちだが、それぞれ明確に描き分けられていて、性格付けもしっかりとしている。しかも「9」の声はイライジャ・ウッドが担当し、他にもクリストファー・プラマーやマーティン・ランドー、ジョン・C・ライリー、ジェニファー・コネリーなどの有名どころが吹き替えに参加。キャラクター設定に厚みを与えている。
彼らの相手になるのが“ビースト”と呼ばれる巨大なメカモンスター群で、次から次へと多様な形態を伴って襲ってくる。アクションの段取りとスピード感は素晴らしく、アイデア満載の展開は観ていて息つく暇もない。また、沈んだ画調や“ビースト”の外見などにヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイなどの影響が見られるのも興味深い。
ただし、冒頭に書いたようにシチュエーションの作り込みには随分と難がある。だいたい、機械が反乱を起こして人類を滅亡に追いやったという設定そのものが古い。こんなのは「ターミネーター」シリーズをはじめとして大昔からさんざん取り上げられてきたネタで、手垢にまみれていると言っても良い。さらに、この機械を最初悪用しようとしたのは、絵に描いたような独裁者。あまりにもマンガチックで失笑してしまった。
実は人形達を作ったのは“ビースト”の考案者と一緒なのだが、心を持たない“ビースト”に対抗するためにどうして9体の人形を作り上げたのか、分かったようで全然分からない。
結局、人類のいないこの世界でどうやって彼らが“生きて”いくのか、あるいは何を目的にして“生きて”いこうとするのか、それらも何ら説明されておらず、極めて居心地の悪いラストに向き合うことになった。この作り込みの不十分さが“オタクの限界”を示しているのかと思った次第である。