津川雅彦が“マキノ雅彦”名義で初演出に臨んだ喜劇で、葬式をネタにしたお笑い篇という点から言っても伊丹十三の「お葬式」を意識していることは間違いない。だが、出来そのものは遠く及ばず(暗然)。
ギャグの切れ味が極めて悪く、予想できるオチを必要以上に引っ張ったシークエンスばかりが目立つ。まったく落語家に見えない中井貴一をはじめ、いつも通りの岸部一徳、魅力のかけらもない木村佳乃、思わせぶりなエロエロ演技に終始する高岡早紀、老いばかりが目立った堺正章など、俳優の動かし方も大したことはない。長い上映時間も苦痛だ。
しかし、ならば存在価値はないかといえば、全くそうではない。観客席の大部分を占めたシニア層は実に良く楽しんでいることが分かるのだ。高齢の観客を置いてゆくようなテンポの早さや、マニアックな仕掛けは皆無。すべてがノンビリした展開速度で、ターゲットとする客層のバイオリズム(?)にしっかり合致する。これは、高年齢のセグメントという、今後の邦画界のマーケティングの超有望な対象を囲い込んでゆくにふさわしい試みであると思う。しかも、テレビでは絶対やれない“放送禁止用語ネタ”も満載で、映画ならではの商品性をアピールするのも忘れていない。
こういう方法論を“年寄り臭い!”と片付けてはならない。移り気な若年層を狙ったテレビ局がらみの企画やアニメーションなんかよりも、興行上の“安全パイ”としては数段確実な番組展開であると思う。その可能性を垣間見せてくれる点で、この映画は観る価値があるのではないかな。