元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「バルフィ!人生に唄えば」

2014-09-06 06:46:08 | 映画の感想(は行)

 (原題:Barfee! )過去の有名映画からの引用こそ多いが、それが単なる“拝借”ではなく、作劇のモチーフとして上手く機能させていることに感心した。インド映画の洗練度を確かめる上でも、見逃せない作品である。

 70年代後半、ダージリン地方で生まれ育った青年バルフィは生まれつき耳が不自由、しかも母親を早くに亡くしているという恵まれない境遇にあるが、その前向きで明るいキャラクターによって皆から親しまれていた。そんな彼が、ひょんなことからこの地に婚礼のために訪れたシュルティと出会い、一目惚れしてしまう。彼女もバルフィを憎からず思うようになるが、周囲の圧力に屈してあまり好きではない資産家との結婚を選ぶ。

 失意のバルフィに、父親が難病に罹ってしまうという不幸が追い打ちを掛け、切羽詰まった彼は治療費欲しさに当地の資産家の娘ジルミルを誘拐しようとする。だが、なぜか別の一味もジルミルを掠おうとしていて、その“争奪戦”に巻き込まれた末に、バルフィは彼女を保護する立場になってしまう。ジルミルは強度の自閉症であり、家族にも心を開かない。ただ、甲斐甲斐しく世話をするバルフィに、彼女はいつしか好意を抱くようになる。

 聾唖の青年にメンタル障害を持つヒロイン、当然この二人が画面の真ん中にいる時間は長い。しかし本作の巧妙なところは、真の主人公をバルフィとジルミル以外に設定していることだ。それは一度はバルフィと別れてしまうシュルティである。そもそもこの映画は、老いたシュルティがバルフィとジルミルに会いに行く現代のシーンから始まり、彼女の回想を中心として話は進むのだ。

 ハンディがありながらも、それを乗り越えて人生を謳歌した二人に対し、自ら生き方を切り開くタイミングを逸して、孤独のうちに年を重ねてしまったシュルティ。この設定は秀逸だ。バルフィとジルミルのファンタスティックな行状を追うだけでは、確かに楽しい映画にはなっただろうが、深みには欠ける。アウトサイダーの視点を挿入することによって、観客との大きな接点を見出していこうという構図は、作者の聡明さを示すものだ。

 チャップリンやキートンの無声映画、「雨に唄えば」や「プロジェクトA」等へのオマージュは、あくまでスクリーンのセンターにいる二人が経験する夢のような日々の“小道具”として機能させているため、ワザとらしさ微塵も無い。この監督(アヌラーグ・バス)の手腕はなかなかのものだ。

 バルフィに扮するランビール・カプールの演技は素晴らしい。セリフが無い分、身振り手振りで意志を伝えようとするが、その一挙手一投足は洗練を感じさせる。表情が実に豊かで、彼をいつまでも見ていたい気になるのだ。ジルミル役のプリヤンカ・チョープラーは間違いなく世界屈指の美人女優なのだが、今回はその美貌を完全に封印して恵まれないヒロイン像を賢明に演じており、その気合いには圧倒される。

 そしてシュルティを演じるイリアナ・デクルーズは初めて見るが、凄い美人だ。まさに目の保養になる。キレイだけではなく演技もしっかりしていて、今後の活躍も期待出来よう。ダージリン地方の美しい風景。音楽の使い方も(今回はミュージカル形式ではないが ^^;)かなり垢抜けている。とにかく上質な一品であり、鑑賞後の印象は良好だ。

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