元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハーレム・バレンタインデイ」

2018-06-15 06:22:32 | 映画の感想(は行)
 82年作品。この頃、日本映画界は若手監督の台頭により活況を呈していた。そんな中、長谷川和彦監督が中心となって気鋭の演出家が集結し“日本映画の殻を打ち破る!”という名目で結成された映画会社がディレクターズ・カンパニーである。本作はその第一弾として企画された、ピンク映画三本立てのひとつだ。もっとも、ピンクとはいっても上映は成人映画館ではなく、キャパシティの大きな一般劇場で敢行されたあたり、この会社の気合が感じられる。

 中国とソ連との間で戦争が勃発し、日本も巻き込まれてしまった架空の近未来。戦後復員したイシは、かつての恋人である麗子を捜すため、歓楽街を歩き回っていた。しかし、ようやく見つけた麗子は麗花と名を改め、謎の男アルファが仕切る娼館“チャイナストール”の高級娼婦となっていた。何とかして麗子を連れ出そうとするイシだが、アルファの一味が立ちふさがる。そして“チャイナストール”は大々的なバトルの舞台となり、血の雨が降るのであった。



 監督と脚本を担当しているのは泉谷しげるだ。ミュージシャンとして有名な彼だが、実は映画にも造詣が深く、この他にもいくつかの作品に関わっている。

 正直言って、本作は同じディレクターズ・カンパニーのメンバーであった石井聰亙(現:石井岳龍)監督の演出タッチとよく似ている。ならばかつての石井監督の二番煎じなのかといえば、そうではない。ノイズと幻覚とバイオレンスに溢れた画面こそ共通しているが、泉谷の作風は重量感がない代わりにライトでスタイリッシュだ。もちろん音楽も泉谷自身が担当しており、サイケデリックな色遣いも併せて、軽いトリップ感覚を味わえる(長田勇市によるカメラワークが光る)。

 麗子役の伊藤幸子は決してグラマラスな身体つきではないのだが、絶妙な映像ギミックにより、とてもエロティックに見える。主演の館山イサムの存在感も、なかなかのものだ。石井監督をはじめ、緒方明や阪本順治といった後に有名になる面子がスタッフに加わっているのも面白い。

 なお、ディレクターズ・カンパニーは一定の実績は残したが、しっかりとしたプロデューサーが存在しなかったためか、92年に消滅してしまった。残念なことである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする