元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミックス。」

2017-11-06 06:33:47 | 映画の感想(ま行)

 正直言ってあまり出来は良くないのだが、最後まで退屈せずに観ていられたのは、やっぱり第一に主演の新垣結衣の存在感ゆえであろう(笑)。同世代の他の女優達と比べると、明らかに演技力では後れを取っている。だが、彼女には独特の“素”の魅力があり、観る者を惹き付けてしまう。パフォーマンス能力だけが俳優の真価ではない。新垣みたいにキャラクターだけでポジションを得てしまうケースだってあるのだ。

 幼い頃に天才卓球少女と呼ばれていた多満子は、スパルタ指導していた母が世を去った後、卓球を離れて普通のOLとして平凡な日々を送っていた。そんな彼女が会社の卓球部のエースである江島と付き合い始めるものの、新たに入部した愛莉に江島を取られてしまう。

 傷心の多満子は会社を辞めて故郷に帰るが、亡き母が残した卓球クラブは閉鎖寸前。残った部員も冴えない面々ばかり。しかし江島と愛莉の活躍を知った彼女は、彼らを倒すために全日本卓球選手権の男女混合(ミックス)ダブルス部門への出場を決意する。そんな多満子のパートナーは、妻子に見捨てられてこの地に落ち延びてきた元プロボクサーの萩原久。相性最悪の2人の猛特訓が始まった。

 子供の頃は天才だったというヒロインだが、残念ながら大人になった彼女にはその片鱗も無い。リアリズムで描けないのならば、マンガチックな必殺技の一つでもあって然るべきだが、それも紹介されない。相手方の久にも、ボクサーという経歴を活かした身のこなしや意表を突くプレイは見られない。対する江島と愛莉も、強豪らしい凄みを垣間見せることは無い。

 試合のシーンは頑張ってはいるが、キャストの素人ぶりをカバーするような煮え切らない描写に終始。少なくとも曽利文彦監督の「ピンポン」(2002年)には遠く及ばない。

 ならば全然面白くない映画なのかというと、そうでもないのだ。前述の新垣の可愛らしさ以外にも、取り柄はある。それは登場人物のほとんどが、嬉々として卓球に打ち込む様子が丹念に描かれていることだ。皆それぞれ事情を抱えてはいるが、ボールを追っている時だけは水を得た魚のように生き生きと振る舞う。作者はよほどこの素材が好きなのだろうと思わせる。

 久を演じる瑛太をはじめ、広末涼子や瀬戸康史、永野芽郁、遠藤憲一、田中美佐子、小日向文世、吉田鋼太郎など、キャスティングは場違いなほど豪華。生瀬勝久や蒼井優はトンでもない役で出てくるし、子役の鈴木福に谷花音、芸人の斎藤司、さらには水谷隼や石川佳純、伊藤美誠といった“本職”の連中も顔を見せる。これらを眺めているだけで、何やらリッチな気分になってくるのだ(苦笑)。

 石川淳一の演出は特筆すべきものは無いが、漫画やライトノベルの安易な映画化ではなくオリジナルの脚本を仕上げた古沢良太の姿勢は認めて良いと思う。SHISHAMOによるエンディング・テーマも悪くない。
コメント
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