元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「婚約者の友人」

2017-11-04 06:30:22 | 映画の感想(か行)

 (原題:FRANTZ)近代史を題材に反戦と平和への希求という正攻法のテーマを扱っていながら、一方ではこの監督らしい屈折ぶりと捻った展開の玄妙さが存分に堪能できる。洗練されたエクステリアも併せて、観た後の満足感が実に高い映画である。

 1919年のドイツの小さな町。第一次大戦で婚約者のフランツが戦死して悲しみに暮れるアンナは身寄りも無く、フランツの両親の家に厚意で住まわせてもらっている。毎日欠かさずフランツの墓に花を添えるアンナだが、ある日墓の前で涙を流す若い男を見かける。彼はフランス人でアドリアンと名乗り、戦前のパリでフランツと仲良くしていたと言う。

 息子をフランス軍との戦闘で亡くしたフランツの父親は彼を邪険に扱うが、やがてアドリアンの誠実な人柄に両親は次第に心を開いていく。次第にアンナも彼のことを憎からず思うようになるが、アドリアンはある重大な秘密を抱えていた。彼はアンナにそのことを打ち明けるが、あまりにもショッキングな内容に彼女は絶句するしかなかった。

 フランツの父親の周囲には、同じように戦争で息子を失った者達が少なくない。悲しみに暮れる彼らだが、子供達を戦争に送ったのは、この父親をはじめとする大人達なのだ。まさに「西部戦線異状なし」(1930年)で描かれたような図式である。善良な市民であるはずの彼らを、容易に国粋主義者に仕立て上げてしまう戦争という名の不条理が重くのし掛かる。

 だが、本作の主題はそこだけではない。帰国したフランツを追ってパリに出向いたアンナを待っている、残酷な現実。そして、それを取り繕うために思わずついた嘘が彼女自身の、そしてフランツの両親の運命をも翻弄していく。アンナは決して悲劇のヒロインとして描かれず、後半は自分の都合の良いように現状を認識するしたたかな女として容赦なく扱われる。さすがフランソワ・オゾン監督。いつもながら女の描き方には相当な悪意が込められている(注:これはホメているのだ)。

 ストーリーは二転三転し、終盤には開き直ったような態度を隠そうともしないアンナの姿が映し出されるに及び、この作者の暴露趣味には舌を巻くしかない。また、こんな事態に至ったのも、やはり戦争の悲惨さ故であることも強く印象付けられるのである。

 清澄なモノクロ映像と、時折挿入されるカラーの場面が、強く印象付けられる。アドリアン役のピエール・ニネの繊細な演技、アンナに扮するパウラ・ベーアの硬質なパフォーマンスは素晴らしい。特にベーアはドイツ人の女優にしては珍しくルックスが良く(失礼 ^^;)、しかもまだ若いので今後の活躍が期待できる(本作で第73回ヴェネツィア国際映画祭において新人俳優賞を獲得)。フィリップ・ロンビの音楽は効果的だが、挿入されるショパンのノクターン第20番(ヴァイオリン版)が美しさの限りだ。
コメント (2)
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