元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハワーズ・エンド」

2017-10-22 06:21:55 | 映画の感想(は行)

 (原題:HOWARDS END )92年イギリス作品。ジェイムズ・アイヴォリィ監督の絶頂期の一本で、この格調の高さには唸るばかりだ。重厚で端正だが、無駄は省かれ作劇は筋肉質で緩みが無い。また時代の雰囲気を存分に出しながら、凝ったエクステリアの創出に溺れることもなく、正攻法でドラマが組み立てられている。まさに横綱相撲と言うべきだろう。

 20世紀初頭のイギリス。姉マーガレットと妹ヘレン、そして弟ティビーの三人からなるシュレーゲル家は、向かいに住む金持ちのウィルコックス家とはソリが合わない。というのも、以前ヘレンがウィルコックス家の次男ポールと無茶なアバンチュールを展開してから、互いに気まずい関係になっていたのだ。それでもマーガレットはウィルコックス家で唯一芸術を理解するルース夫人と仲良くなる。

 やがてルースは世を去るが、その際に“別荘ハワーズ・エンドはマーガレットに譲る”と言い残す。ウィルコックス家の当主ヘンリーはマーガレットに惹かれ、彼女を後添えに迎えることになったが、ヘレンとヘンリーとの間には確執があり、事は上手くいかない。しかもヘンリーは思いがけず“昔の女”と出くわすハメになり、マーガレットとの仲は危うくなる。E・M・フォースターの同名小説の映画化だ。

 決して豊かではないが知的で進歩的なシュレーゲル家と、ドライな功利主義で財産のあるウィルコックス家。明らかに別々の世界に属する両家だが、その奥底では融和を熱っぽく模索してやまない。その複雑な人間関係と人情の機微を、アイヴォリィの演出は巧みにすくい上げる。

 冒頭、ヴァネッサ・レッドグレイヴ扮するルースの存在感が素晴らしい。露に濡れた木立の間を、白い衣装で歩く彼女の描写から、一気に作品世界に引き込まれる。マーガレットを演じるエマ・トンプソンをはじめ、アンソニー・ホプキンス、ヘレナ・ボナム=カーター、ジェームズ・ウィルビィと当時の英国の名優をずらりと並べ、それぞれに見せ場を用意するという贅沢さ。美術担当のルチアーナ・アリジによる見事な調度品の数々。トニー・ピアース=ロバーツのカメラによる痺れるほどに美しい映像。リチャード・ロビンズの音楽も申し分ない。
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