元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「風音」

2017-10-13 06:43:13 | 映画の感想(か行)
 2004年作品。沖縄の過去と現在を描いた目取真俊のオリジナル脚本を東陽一監督が映画化。沖縄のとある小さな島は、強い海風が吹くと不思議な音が聞こえる。地元の者はそれを“風音”と呼ぶが、浜辺の切り立った崖の中腹にある風葬場に置かれている頭蓋骨に銃弾が貫通したこめかみの穴が空いており、風が通り抜けるとき、音が鳴るのだ。

 ある夏の日、少年たちが風葬場で小さないたずらをすると、その日から“風音”が止んでしまう。それと同時に、静かだった島の日常に、さざ波が立ちはじめる。



 戦争中に死んだ特攻隊員の遺骨をめぐって数々のエピソードが展開するが、それぞれのドラマは互いに交わることはなく別々の結末を迎える。このことをもって“まとまりに欠ける。いっそのことオムニバス形式にした方が良かった”との評価を下す向きもあろうが、過去の悲しい出来事の延長線上に現在があるという作者の重層的な視点を強調する意味では納得できる作劇である。

 ただしエピソードの中では出来不出来があり、沖縄戦で死んだ初恋の人の面影を求めて本土からやって来た女性(加藤治子)の話は感動的だが、暴力亭主に愛想を尽かし故郷の島に逃げてきた若い母親(つみきみほ)の扱い方はつまらない。違うアプローチが必要な複数のパートをすべて同じ演出タッチで仕上げているために若干チグハグな面が生じたのであろう。

 蔦井孝洋のカメラがとらえた沖縄の風景、そしてタラフ・ドゥ・ハイドゥークス、平安隆、園田高弘らによる音楽は魅力的。なお、私は本作を2004年のアジアフォーカス福岡映画祭で観ている。上映後の監督を交えたシンポジウムでは年配の観客のトボケた質問が相次ぎ、大いに盛り上がった(笑)。
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