虹色仮面 通信

神出鬼没なオッサンが毎日感じたことを取り留めなく書き連ねます

人口減少実験室

2024-04-15 05:03:15 | 社会
クーリエ・ジャポンより。

ちょうど50年前、日本は世界で最初に出生率が人口置換水準を下回った。
それ以来、頑なに移民の受け入れを拒否し続けた結果、この国はいま、世界にとって「混じりけがない人口減少」のサンプルになっている。

「この区画分けした芝生が、集合住宅のようなものだと想像してみてください」
そう話す井上治代(いのうえ・はるよ)は、死後の住宅の管理人だ。

井上が代表を務めるNPO法人「エンディングセンター」は、孤独な日本人の生前と死後の支援をしている。
このセンターの墓地は一ヵ所ごとに数百人を受け入れていて、亡くなった会員はそこで死後、再会することになる。いわば目に見えない小さな分譲地を割り当てられているのである。

桜の木が茂る美しい墓地を前にして、井上は「死の助産師のようなものが必要なのかもしれません」と哲学的なことを言う。

日本の人口減少がどのようなものか、その必然的な結果として、生ける者がどれほど孤独に取り巻かれているのか。
多少なりとも、この言葉からそれを察することができる。

<消滅した星>
なんと悲しい50周年だろう。
日本人の出生率が、人口置換水準である女性一人当たり「2.07」人という数字を下回ったのは、1974年のことだった。
その年以来、一歩また一歩と人口減少の歩みを続けている。
人口統計学者たちが見守るなか、かつては土台が安定した形だった人口ピラミッドが、砂時計のようにひっくり返りつつある。

日本国際交流センターの毛受敏浩(めんじゅ・としひろ)が挙げる数字によると、「毎年平均して470校以上の公立学校が閉校し、1000km以上のバス路線が廃止になっている」という。
さらに、日本では2020年代末までに550万人が亡くなり、その次の10年間ではさらに730万人が亡くなるだろうと予言する。

新潟では、フランス人現代芸術家クリスチャン・ボルタンスキーとジャン・カルマンが、この新時代の先鞭をつける作品「最後の教室」を作った。廃校になった小学校に「生まれなかった子供」が集まり、そこで蠟燭のように電球が瞬くというものだ。

政府が発表した速報の推計値によると、2023年の日本の出生数は75万8631人だった。
これはフランスの2022年の数字とほぼ同じだが、日本の人口はフランスの2倍だ。

まだ日本から人がいなくなったわけではなく、事実はそれと程遠い。1億2300万人という人口は世界第12位。
だが、目に見えて高齢化が進んでいる。本来若者が担うはずの身体を使う仕事も、ここでは従事者の年齢がますます上がってきている。

農業従事者の平均年齢は67歳で、自衛隊員は平均36歳だ。
医療業界では、介護士の年齢が患者の年齢と数年しか違わないということがよくある。
引っ越し業者もマンションの警備員も年老いていて、レストランのウェイトレスの手は節くれ立っているが、これはまだ始まりでしかない。

2024年に残業規制が厳しくなって就業機会がさらに減るために、経済学者たちはこの年が「衝撃の年」になると考えている。
配達員、労働者、医師もさらに少なくなるだろう。どの業界も人手不足に直面しているのである。

日本の大都市がこの変化の波に覆い尽くされたかといえば、まだそうではない。
消滅した星はしばらく光を放ち続けるものだが、それと同様に、いまもまだ人々は新聞配達のバイクの音で目を覚まし、あちこちにあるコンビニエンスストアは24時間営業を続けられている。
まだ従業員が確保できているガソリンスタンドも多くある。

いつまで現状を維持できるだろうか。「もうとても手が回りません」と東京の中心地にある高級ホテルの支配人は嘆く。
料金に見合うレベルのサービスを維持するために、ホテル業務を大幅に縮小することを強いられた。

そのすぐ側にある複合商業施設に行くと、昼食時に店を開けていないレストランがあることに気づく。
ホールスタッフが足りないのか、食材の配達が間に合わなくなったのか、あるいは客が来なくなったのか……。
郵便局はもう土曜日の配達をやめてしまった。

最新技術で何とかなるのではないか、ロボットが使えるのではないかと思うかもしれないが、そもそもサービスを享受できる人が少ない。
ロボットの使用はかなり限定的だ。

そして、日本のような国は例外ではないのだ。
ここは、世界的な出生数減少の最前線。
サハラ以南のアフリカ以外の世界は、人口置換水準を下回ろうとしているのだから。

<日本が他の国とは違う点>
国連によると、歴史上最大の出生数はおそらく2013年にピークを迎えたらしい(「ピークチャイルド」と呼ばれる)。これが世界人口減少の第一段階になるだろう。
そればかりか、世界人口の「指数関数的下落」の前触れだろうと統計学者のスティーヴェン・ショーは予言する。
ショーは、この現象により近くで立ち会うために東京に居を定めた。

彼が作ったドキュメンタリー『バースギャップ』は、子供が少なくなった世界を一周するものだが、その出発地点が日本だ。
「女性一人当たりの出生率が1.4を下回ると、日本、ドイツ、イタリアのような国は、3世代で出生数が70%減少する」とショーは言う。

このなかで日本は一点において他の国と違っている。
それは、移民を執拗に拒否し続けているという点。一時的な移民も、労働力としての移民も拒んでいるというところだ。

「日本がこんなにも興味深いケースであるのはそのためです。外国人を拒み続けていることから、混じりけがない人口減少が見られます」とショーは分析する。

この人口減少は、予期せぬ結果を生んでいる。<了>

人口を維持するには「移民」政策も有用だろう。
しかしながら、問題点も生じさせるのも事実。
それらを勘案して、ベターな判断が求められるのだが、日本はすべて先送りにしてきた。
その結果が現在である。

おかげでビジョンなど無く、なんとなく時間が過ぎ去るのを待っているに過ぎない。

この30年間の停滞が、このような閉塞感と先細り感を生み出したと言える。
この間の政治家たちの責任であり、彼らを選んできた国民の責任でもある。

諸外国から見た日本はとても歪で異質な存在に映るらしい。
それを正す時期はとうに過ぎたのだが、今からでも何かしないとダメじゃないか。
率直にそう思いますね。