弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

知財高裁と弁理士会との座談会

2006-05-30 00:04:11 | 知的財産権
パテント誌5月号に知財高裁と弁理士会との座談会が掲載されています。添付資料と合わせ、28ページにもなる大作です。事前準備も当日の座談会も大変だったろうと推察します。パテント編集委員会の皆様、ご苦労様でした。編集後記を見ると、従来なら絶対に不可能な企画だったようですね。

知財高裁が受任する事件の8割が審決取消訴訟であり、弁理士が単独代理できるのが審決取消訴訟ということで、座談会の話題の中心も審決取消訴訟と弁理士との関わりです。
「裁判所から見た審決取消訴訟代理人弁理士」の話になるといつも出るのですが、「訴訟代理人弁理士の中には、うまく訴訟活動ができていない人がいる」という話が今回も出ています。弁護士の能力も千差万別だとは思うのですが、やはり弁理士の方が低レベル層の比率が高いのかどうか、わからないところです。

知財高裁との座談会であれば、私が聞きたかった点は以下の2点です。
1.進歩性の判断基準(ハードルの高さ)
以前の私の発言(進歩性判断のハードル高さパネル討議「発明の進歩性」)でも述べたように、進歩性有無判断のハードルの高さ設定は、発明の保護と利用のバランスをとって産業の発達を図る上で最も重要な基準の一つであると思っています。それに対し、最近の知財高裁は進歩性のハードルがものすごく高くなっており、これでは産業の発達が損なわれるのではないか、と心配しています。
この点に関し、知財高裁の内部ではどのような認識がされているのか、進歩性のハードルの高さを適切、一定に保持するために、何らかの議論がなされているのかどうか、という点についてはぜひ質問して欲しかったです。

2.技術事項に関する裁判官の事実認定の適切
裁判の審理過程で、裁判官は自分が技術事項をどのように認識したかを発言しません。ひょっとしたら裁判官が技術を間違って認識している可能性があるのに、それは判決を見るまでわからない、という実情があります。特に相手方が争点にしていない部分について誤認識された場合には、当方も十分には準備書面で論じていません。判決を見てびっくり、いわゆる「不意打ち判決」ですね。「当業者の技術常識に照らして、技術をこのように誤認識するなど思いもしなかった。こんな誤解が生じ得るのなら、追加証拠を出し、準備書面で十分に説明するんだった。」と反省することになりますが後の祭りです。
最高裁は門が狭く、事実上知財高裁判決が最終審で、いわば「一審制」に近い制度になっているのですから、知財高裁における事実誤認の影響は甚大です。
特に、準備書面のやりとりは原則1往復半、弁論準備手続期日は1回限り、という最近の運用では、上記のような不都合が発生する可能性が高くなっていると思います。
生海苔異物除去装置審決取消事件で特許が無効とされた判決が、やはり技術の誤認識に基づく不意打ち判決だったのではないか、と危惧しています。
上記のような不都合の発生を防止するためにはどうしたらいいのか、その点についてぜひ座談会で議論して欲しかったです。

座談会の発言では、準備書面のやりとりで、相手が主張したから反論する、という繰り返しで論点から外れた議論にどんどん拡大していくことが話題になっています。「論点から外れたら反論しない」方向で主張して欲しい、との要望だと思いますが、上記のように「裁判官に誤解されたら大変」という意識に立ったら、相手方のあらゆる主張に対して丁寧に反論しておかないと危険、ということになってしまいます。
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2 コメント

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むはさより面白い (代弁者)
2006-05-30 20:48:41
>「訴訟代理人弁理士の中には、うまく訴訟活動ができていない人がいる」という話が今回も出ています。弁護士の能力も千差万別だとは思うのですが、やはり弁理士の方が低レベル層の比率が高いのかどうか、わからないところです。



給料付きでたっぷり2年間の司法修習(今は1年半)を受けた弁護士と比較されても困ります。

付記弁理士なんて、たった45時間の研修ですね。





>上記のように「裁判官に誤解されたら大変」という意識に立ったら、相手方のあらゆる主張に対して丁寧に反論しておかないと危険、ということになってしまいます。



これはその通りですね。

くだらない主張だと思ったら、裁判官が当事者に一喝して欲しいと思います。



ちなみに、昨年秋に傍聴した某無効審判の口頭審理では、請求人のねちねちした主張に対して審判官(何故か審判長ではなく右陪席のベテラン審判官)が

「そんなことをいちいち主張する必要はないでしょう。」

と一喝して黙らせました。



無効審判の口頭審理のほうが

準備書面のやりとりに堕している今の裁判よりはるかに面白いですよ。



無効審判は裁判より面白い

弁理士の能力 (ボンゴレ)
2006-05-30 22:17:55
代弁者さん、コメントありがとうございます。



特許権者側の訴訟代理人弁理士は、原審が査定不服審判(査定系)であろうと無効審判であろうと、出願代理人弁理士がクライアントから「先生、訴訟もお願いしますよ」と頼まれ、全くの知識不足で訴訟活動を行う場合が多いのでしょうね。

特に当事者系の訴訟で代理人弁理士のレベルが低いと聞いたことがあります。



審決取消訴訟は、付記を受けていない弁理士でも代理人になれるわけですが、やはり審決取消訴訟でも付記研修を受けてから代理人になった方が無難でしょうね。

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