弁理士の日々

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笹子トンネル事故の調査状況(3)

2013-04-11 22:58:57 | 歴史・社会
笹子トンネル事故の調査状況については、笹子トンネル事故の調査状況笹子トンネル事故の調査状況(2)で、第4回トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会の配布資料を中心に中身を見てきました。
これら資料を基に3月27日の第4回トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会で討議がされているわけですが、議事要旨には以下のように記されています。
『○天井板落下の原因について
<事故原因の着目箇所について>
・ 覆工コンクリート、ボルト鋼材、地山変位は問題ないと考える。
・ 事故原因の着目箇所は、ボルト孔の設計・施工も含めた接着部まわりに絞り込んで良い。
・ CT鋼が介在することによる設計・構造も含めた影響(ボルトに作用する荷重への影響など)について、さらに検討すべき。
<ボルト接着部まわりについて>
・ ボルト孔の設計・施工も含めた接着部まわりの課題については、製品カタログの内容、特記仕様書や設計報告書など、複数要因を総合的に捉えて整理すべきではないのか。
・ まず、マクロとして設計・施工段階から、事故に繋がる要因が内在していた可能性がある。
<接着部まわりの経年影響について>
・ 不飽和ポリエステル樹脂に加水分解(≒劣化)は確認されており、付着力低下に一定の影響を及ぼしたと考えられる。
・ 疲労という観点からは、空気力の変動(換気施設の稼働や大型車通行による影響)による繰り返し荷重が影響を及ぼした可能性がある。
<中日本高速道路株式会社の点検体制について>
・ 点検計画を変更した経緯など、個々に見れば理由はあったが、結果として補修履歴の保存体制の不備や、近接点検をL断面天頂部ボルトに対し、12年間未実施であったという事実は、不十分と言わざるを得ない。
○再発防止策について
<既存の吊り天井板>
・ 常時引張り力を受ける接着系ボルトで固定された既存の吊り天井板については、換気方式の変更の可否、周辺交通への影響等を考慮し、可能ならば、撤去することが望ましい。
・ 存置する場合は、第三者被害を防止するための措置として、バックアップ構造・部材を設置すべき。
・ 上記2点の対策が完了するまでは、点検頻度を増やすなどのモニタリングを強化すべき。
・ 点検にあたっては、全ての常時引張り力を受ける接着系ボルトに対して近接点検(近接目視、打音及び触診)を行うとともに、少なくともいくつかのサンプルで適切な荷重レベルでの引張載荷試験を実施すべき。
<その他の吊り構造物>
・ 常時引張り力を受ける接着系ボルトで固定されたその他の吊り重量構造物については、第三者被害を防止するための措置として、暴露環境を考慮し点検頻度を増すなどのモニタリングの強化について検討するとともに、バックアップ構造・部材の設置などを検討すべき。』
--------以上--------

落下事故の直接原因をボルト接着部周りに絞り込むまではなされていますが、さらにその先については検討課題として認識されているようです。しかし、具体的な検討方向は見えてきません。上記議事要旨を読む限り、接着剤の専門家の発言はなさそうです。委員の中に接着剤の専門家はいないということでしょう。今後の検討も、あくまで「製品カタログの内容、特記仕様書や設計報告書など」とされているのみであり、専門家的検討は計画されていません。

前報笹子トンネル事故の調査状況(2)で述べたように、ボルト引き抜きテストによって引き抜き抵抗力が極めて低いボルト多発が明らかになり、そのような引き抜き抵抗力が極めて低いボルトが、落下事故現場付近に集中していることも明らかになりました。
しかし、引き抜き抵抗力低下は、接着剤の単位面積付着力の低下によるのか、それとも施工不良によって付着面積が少なかったのか、その両方なのか、という点については明らかにされていません。この部分は、ケミカルアンカーボルトの専門家を委員に加え、専門的にアプローチすることが不可欠と思われます。
また、低抵抗力ボルトが事故現場付近に集中していた件に関しては、施工実績について丹念にたどる必要があります。議事要旨の「まず、マクロとして設計・施工段階から、事故に繋がる要因が内在していた可能性がある。」から、今後の調査方向がどのように示されたのか、その点は不明のままです。

本件については、山梨県警が2月14日、ワゴン車に乗っていて死亡した5人の遺族10人が提出した中日本高速道路会社の金子剛一社長ら4人に対する業務上過失致死容疑での告訴状を受理しているし、県警は昨年12月2日の事故後、業務上過失致死傷容疑で同社本社などを捜索。関係者らから任意で事情を聴くなどし、既に捜査を進めているようです。今後、刑事裁判がどのように進展するのかはわかりませんが、結局は、刑事裁判でしか事故の真相追求が進展しない可能性もあります。
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