弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

3月20日前後の圧力容器海水注入量推移

2011-08-15 23:26:49 | サイエンス・パソコン
8月8日の朝日新聞によると、原発の専門家が、「3月21日過ぎに3号機の海水注入量が激減し、その時点で3号機は再度再溶融した可能性がある」という報告をした旨の報道がありました。
震災10日後、2度目の溶融か 福島3号機、専門家指摘
アサヒ・コム 2011年8月8日3時2分
『東電の公表データによると、3号機炉内への1日あたりの注水量はその後(14日以降)、20日までは300トン以上を保っていた。燃料は冷えて固まったとみられる。
ところが、注入できた量は21~23日に約24トン、24日は約69トンに激減した。圧力容器の圧力が高まり、水が入りにくくなった可能性がある。
旧日本原子力研究所で米スリーマイル島原発事故などの解析を手がけた元研究主幹の田辺文也さんによると、この量は炉内の核燃料の発熱(崩壊熱)を除去するのに必要な水量の11~32%しかない。1日もあれば全体が再び溶ける高温に達する計算になるという。
田辺さんは、大規模な「再溶融」によって高温になった核燃料から大量の放射性物質が放出され、大半が圧力容器の底から格納容器まで落ちたと推測する。』

圧力容器への海水注入量が日々どのように推移したのかというデータについては、私はまとまったデータを見たことがありません。しかし上の記事によると、少なくとも3月20~24日について、日々の海水注入量実績が東電から公表されていることになります。どこかに公表されていないか、探してみました。

その結果、日々のデータを一覧できる一覧データを見つけることはできませんでしたが、日別のデータがそれぞれ記載されたデータを、経産省のサイトで見つけることができました。経産省の東京電力株式会社福島第一原子力発電所について-原子力発電所事故の状況について-のサイトには日々の報告があがっています。例えば2011年3月22日(火)の地震被害情報(第41報)(3月22日7時30分現在)及び現地モニタリング情報にあるプラントパラメータ(PDF形式:71KB)を閲覧すると、3月22日朝方の海水注入量実績が記載されています。

そこで、地震発生以降のデータを一つ一つ調べてみました。
海水注入量のデータは、どういうわけか日によって「リットル/分」と「立方メートル/時間」が使い分けられています。そこでこれらを、上記朝日新聞記事に合わせて「トン/日」に換算しました。
抽出したファイルをこちらのエクセルファイルに収納しています。リットル/分と立方メートル/時の両方が記述されている場合は、両方の合計をトン/日の欄に記述しています。

1~3号機とも、3月11~15日まではデータを見つけることができず、3月16日の分からはじめて海水注入状況のデータを見ることができます。それも、16日については「注入中」とあるのみで流量が記載されていません。流量が記載され始めるのは17日からです。
それでは、号機別に見ていきます。

《3号機》
3月17、18日は300トン/日前後を注入し、20日などは800トン/日を超える量です。そころが、3月22日6時に24トン/日と急減し、その後22、23日は「ハンチング」、24日は「流量計不良」との表示で流量が分かりません。ここの部分について、朝日新聞記事では「21~23日に約24トン、24日は約69トン」と記述されています。朝日新聞は、どのような情報からこれら流量を確認したのでしょうか。
唯一、3月22日6時の24トン/日との数値が、朝日新聞の情報と合致しています。
今回の経産省情報からは、朝日新聞の情報が正しいのかどうかが検証できませんでしたが、朝日新聞の数値が正しいのであれば、3月22~24日に3号機圧力容器への海水注入量が少なかったことになります。
次に、もし海水注入量推移が朝日新聞の記事通りだとしたら、3号機の圧力容器温度は、3月20日までは低い温度であり、21日以降に温度が急上昇しているはずです。そこで3号機圧力容器温度を確認してみました。
東日本大震災後の福島第一・第二原子力発電所の状況から、3号機圧力容器温度データ(pdf)を確認してみると、例えば圧力容器下部温度については、3月19~20日が250~350℃程度であり、21日以降はむしろ温度が下がって150~250℃程度となっています。温度データとの整合性が取れていませんね。
朝日新聞の記事にある専門家は、この点をどのように解釈しているのでしょうか。

《1号機》
朝日新聞では、3号機のみに注目しており、1号機については何もコメントしていません。しかし、今回私が収集した海水注入量推移のデータでも、また圧力容器温度データでも、実は3号機よりも1号機の方が危機的状況にあるのです。
1号機の海水注入量データについてみると、3月17、18日は「流量計なし」、3月20日にはじめて出現した水量が48トン/日と極めて少量であり、その状況は22日まで続くのです。23日になってやっと海水注入量が増大します。
3号機圧力容器温度データ(pdf)もこの点を裏付けています。3月20日に最初の温度データが得られた時点で、圧力容器下部温度は388℃であり、その後23日まで温度は上昇し続け、とうとう400℃に達します。その後温度は低下に転じ、24日には200℃以下まで低下します。
そして、温度と水量のこのような推移は、3月24日の私の記事「1号機はどうなっている?」と合致しています。「圧力容器の温度が分かったみたら、1号機は400℃に達していたので、あわてて海水注入量を増大して冷却強化を図った」と報道されていたのです。
このときは、「しかるべき海水注入量を確保していたのに温度が高く、注入量をより一層増大した」と解釈していたのですが、今回海水注入量実績を追いかけてみたらそうではありまんせでした。3月20日に注入量が測れるようになったときに、すでに注入量が極めて少ないことが分かっていたのですね。なぜこの時点で注入量を増やさなかったのか、その点が解せません。

ps 8/16 1~3号機の3月中の温度実績をエクセルデータに落としました(エクセルファイル)。出典は東電サイトのプラント関連パラメーのcsvデータです。
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3 コメント

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9月10日朝日新聞記事 (snaito)
2011-09-10 12:45:33
3月21日以降の3号機の海水冷却について、9月10日の朝日新聞朝刊に東電の発表記事が載りました。
『東電が8月以降に調査したところ、3月21日から25日にかけ計器を一時切り換えていたことが判明。むしろポンプを増やして注水量を増加させており、ポンプの給油をしていた作業員が実態に近い流量を記録していたこともわかったという。』
そして、「再溶融は起きておらず、冷却は維持できていた」ということです。
上記の見解は、私が上の記事で述べた圧力容器温度実績との対応から頷けます。

ところで、世間では以上のように3号機のみに注目が集まっていますが、1号機はどうなのでしょうね。
海水注入量実績と圧力容器温度実績から推定すると、1号機こそ再溶融が起きていたものと考えられます。
返信する
9月9日新しい報告書が出ました。 (xls-hashimoto)
2011-09-11 01:09:09
福島第一原子力発電所における東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響に係る経済産業省原子力安全・保安院への報告について 平成23年9月9日
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11090910-j.html

添付資料
・福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について(PDF 24.4MB)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110909m.pdf

が報告されています。
565ページあります。

352/565ページ 添付資料-10-6
「3号機から4号機へのPCVベント劉の流入の可能性について」
には、以前私がコメントしたことと同様な事が記載されています。
「水素ガスが4号機から3号機に逆流した事を示す資料が発表されました。」http://blog.goo.ne.jp/bongore789/e/56d8078e21d00343f9e584db50cb8425

しかし、167・168/565ページ・253・234ページ・305・306/565ページに示された1・2・3号機のベント図には、ベントしたガスは赤線で排気筒に流れていくように描かれています。
耐圧ベント配管を流れ出た物が、合流点で分岐せずそのまま全量、排気筒に流れていくように描かれています。

熱力学上は、そんなことはありえません。
耐圧ベント配管とその名前が示す通り、耐圧配管を流れてきた物が、合流点で全量同じ口径の耐圧ベント配管を流れて排気筒に流れて行くことはありません。
もし、試験でその様な回答を書いたら、ペケです。

原子炉建屋で水素爆発に至った経緯を探しましたが、ラフに見たので見つけられませんでした。

見つけたら教えて下さい。
返信する
東電報告書 (snaito)
2011-09-11 10:47:36
xls-hashimotoさん、東電報告書の件、教えていただいてありがとうございます。

東電が報告書を公表したことについては、後から検索してもなかなか見つけることができず、「重要な情報を知らずにいるのではないか」という懸念が常にありました。
xls-hashimotoさんに教えて戴くことにより、そのような見落としの危険が減るのでありがたいです。

それでは、565ページの大作にじっくり取り組むことにしましょう。
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