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講談社 |
この本がおもしろいとの評判を聞き、読み終わったところです。
著者の由良秀之氏について調べたら、なんと本名は郷原信郎氏だというではないですか。読み終わってからびっくりです。
郷原信郎著「検察が危ない
[司法記者]由良秀之 1977年東京大学卒業、民間会社勤務を経て、1983年検事任官。東京地検特捜部、法務省法務総合研究所等に勤務。2006年に退官、弁理士登録、東京都内で法律事務所開設。大学教授として研究・教育にも従事。
[検察が危ない]郷原信郎 1955年島根県生まれ。東京大学理学部卒業。1983年検事任官の後、公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究員、長崎地検検事などを経て、2006年弁護士登録。現在、名城大学教授・コンプライアンス研究センター長、総務省顧問・コンプライアンス室長。
小説「司法記者」を読んでいると、“これは最近聞いた記憶がある”という場面が次々と出てきます。
自宅マンションで女性記者の死体が見つかり、殺人容疑で逮捕される岡野泰之。地方紙の記者から3年前に全国紙記者に中途入社した経歴で、主人公の特捜検事である織田俊哉の共感を得て情報を入手する展開となります。
ここまできたら、朝日新聞・板橋洋佳記者その人です。大阪特捜の村木厚子さん冤罪事件で、フロッピー改ざんをキャッチして大スクープした記者です。
『一連の問題の端緒となる話を検察関係者から聞いたのは、7月のある夜だった。
上村元係長の自宅から押収されたフロッピーディスク(FD)のデータを、捜査の主任である前田恒彦検事(当時、11日付けで懲戒免職)が改ざんし、偽の証明書の最終更新日時を捜査の見立てに合うように変えた-。疑惑は検察内の一部で今年1月に把握されたが、公表が抑えられていた疑いもあった。』
『「立場が違っても『不正の構造』を暴く到達点は同じ」と意気投合した検事たちがいる。記事にすれば、彼らを追い込むことにならないか。検察組織の反発も予想した。』
『取材で得た証言を検察側にぶつけても、証拠がなければ否定される可能性もある。司法担当キャップの村上英樹記者と話し合い、FDの入手を最優先とし、改ざんの痕跡を見つけるため専門機関に鑑定を依頼する方向で動くことにした。』
小説において、東京特捜が捜査する建設汚職事件で、建設会社部長の谷山静雄が、元建設大臣に1千万円の賄賂を渡したと自供します。その後の展開を読むと、これは小沢一郎事件で水谷建設がヤミ献金した話と重なります(陸山会事件判決)。陸山会事件公判で水谷建設元社長は「秘書に5千万円を渡した」と証言しましたが、実は元社長が猫ばばしたのではないかとの噂があったからです。
調べてみたら、もっと小説とうり二つの事件がありました。
『18年前のゼネコン汚職で特捜部は自民党の梶山静六・元幹事長を逮捕しようとしたことがある。ゼネコン幹部が「1千万円を渡した」と供述したからだ。だが強制捜査は直前になって中止された。ゼネコン幹部がそのカネを自分の懐に入れていたことが判明したためだ。』
特捜の検事が参考人や被疑者を取り調べる様子は、今までに特捜の取り調べについて見聞した内容そのままでした。村木厚子さん事件、佐藤栄佐久元知事事件、などなど。
主人公である特捜検事・織田俊哉のモデルは誰だろうか。著者の由良秀之氏なのかな、と想像していたのですが、ペンネーム由良秀之が実名郷原信郎氏だと判明した現在、ちょっと違うようです。郷原氏の「検察が危ない
『特捜部ほど人間をスポイルしてしまう組織はない。
そこには人間が本来持っている“世の中に対しての鋭敏な感受性”を失わせてしまう思考停止の構図そのものがある。』
しかし郷原氏が経験した勤務形態は、小説中の織田検事とはやや異なります。特捜部に配属になり、共同捜査に組み込まれた時点で休日はなくなります。土日祭日すべて出勤で、さらに主任検事または副部長から指示があるまで帰宅は許されません。仕事があろうとなかろうとです。捜査の状況によっては、ほとんど何もやることがないので、昼間はゲーム「上海」で時間を潰し、夜は終電帰りです。
『このような劣悪な職務環境で事実上自由を奪われた形での勤務が続くと、人間の健全な思考力と感性は失われる。』
郷原さんは、九電の第三者委員会で忙しかっただけではなく、作家として小説執筆にも忙しかったのですね。
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