弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を事前に知っていたか

2008-10-04 09:53:27 | 歴史・社会
前回まで、私の真珠湾訪問記を中心に綴ってきました。

真珠湾攻撃について、アメリカでは「宣戦布告のない騙し討ち」ということになっており、「リメンバー・パールハーバー」とは「卑怯な日本を徹底的に叩きのめせ」の意味で使われていると思います。一方で、「ルーズベルト大統領は日本のハワイ攻撃を事前に知っていた」という説も常にささやかれています。

ときのルーズベルト大統領は、そしてハワイの米国海軍は、果たしてどこまでを知っており、どの点については知らなかったのでしょうか。

この点に関し、私が繰り返し読んでいる本はトーランド著の以下の本です。
真珠湾攻撃 (1982年)
ジョン・トーランド
文芸春秋

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すでに古本でしか手に入らないのですね。

真珠湾攻撃当時、米国は日本の外交暗号解読に成功していました。作成した暗号解読器はパープルと呼ばれ、解読した暗号文はマジックと呼ばれていました。

日本政府は、アメリカに対する最後通牒を真珠湾攻撃開始の30分前に米国政府に手交する段取りとしていました。そしてその通告文(第1部から第14部まで)が、外交暗号に組まれて在米日本大使館に送信されます。
まず第13部までが送信されます。米国は直ちにこれを解読し、アメリカ東部時間で12月6日の夜遅くにはルーズベルト大統領に届けます。これを読んだ大統領は「これは戦争だ」とつぶやいたことが知られています。
アメリカ東部時間で7日の午前9時には、最後の第14部も到着し米国に解読されます。「これ以上、外交交渉により合意に到達することは不可能と認む」「全14部の通告を貴地時間7日午後1時にハルに手交せよ」とあります。東部時間午後1時は、ハワイ時間午前7時半です。

もちろん、米海軍作戦部長のスタークもこの情報を知らされます。部下から「いますぐキンメル大将(ハワイ太平洋艦隊司令長官)に警告されてはいかがでしょうか」と進言され、スタークは受話器を取り上げます。午前10時45分です。スタークはキンメルに電話をせず、代わりにホワイトハウスを呼び出しましたが、大統領は話し中でした。スタークはそのまま受話器を置き、あとは何もしませんでした。
米陸軍については、マーシャル参謀総長がつかまりません。自宅から乗馬に出かけたことになっています。やっと家に戻ったのは11時25分でした。マーシャルはスタークと電話連絡し、スタークはハワイへの連絡に海軍の電信網を使ってはどうかと提案しますが、マーシャルはそれを利用しません。そしてその緊急命令は、なぜか商業通信RCAによって打電され、実際にハワイのショート陸軍司令官に届いたのは真珠湾攻撃が終わった後でした。

結局、米国政府首脳は、「日本が東部時間午後1時の直後に、どこかの地点で米国に攻撃を仕掛けてくる」ということを知っていながら、ハワイにはその情報を伝えていなかったのです。

そのとき米国海軍は、日本の空母部隊の所在を見失っていました。南雲機動部隊は、無線封止をして北太平洋を航海していたのです。
12月2日、ハワイ海軍のキンメル長官は、部下の情報参謀レイトンと対話します。
「ではきみは本当に第一航空戦隊と第二航空戦隊がどこにいるのか知らんのか」
「やつらがダイヤモンドヘッドを回ってやってくるかもしれんというのに、わからんというのだな」

今まで私は、トーランドの著書において、「アメリカ大統領は、東部時間12月7日午後1時過ぎに日本が米国を攻撃するだろうことは知っていたが、攻撃目標がハワイであることは知らなかった」というスタンスだと思い込んでいました。
ところが今回、再読してみると、実はそうではないのですね。

12月1日、アメリカの客船ラーライン号がハワイに近づきつつあります。この船の通信士グローガンは、無線機に低周波帯の不思議な電波を捉えます。日本の暗号文であり、方向は西北西であることが明らかです。日本からの通信を復唱している電波のようです。12月2日、電波の方向は北西となります。ラーライン号がハワイに到着し、グローガンはこの情報を海軍に通報しました。

同じ頃、サンフランシスコにある第12海軍区情報部も、電波を捉えます。ホスナー中尉の補佐役であるZ一等水兵は、通信会社からの情報を総合して日本機動部隊を発見しようとしています。12月2日、通信会社から「予想もしない周波数に妙なシグナルが入ってくる」と報告が入ります。Zが海図の上に怪シグナルの方向を書き入れ、ホスナーに行方不明の日本の機動部隊のものかもしれないと報告します。ホスナーは海軍区ジョウホウブチョウノマッカラウ大佐に伝達し、ホワイトハウスに情報が届いたと思いました。

ジャワ島のバンドンでは、オランダ陸軍が、東京からバンコクの日本大使に宛てたメッセージを傍受します。領事館暗号に組んでありましたが、これはオランダ軍が解読に成功していました。そのメッセージは「ハワイ、フィリピン、マレー、タイに対して同時作戦をとり、その開始は東京からのラジオで天気予報に艤装して発信する」というものでした。オランダ軍司令官はこの情報を米陸軍のソープ准将に知らせます。ソープは海軍暗号に組み、海軍通信局経由陸軍省行きの有線でアメリカに送信しました。

12月2日、在ワシントンのオランダ大使館武官のラネフト大佐は米海軍情報部を訪れます。「海軍情報部を訪れたラネフト大佐は、米海軍士官の一人が壁の地図を指し、『日本の機動部隊は、ここを東進中です』と言うのを聞いて、仰天した。その場所は、日本とハワイの中間だったからである。」

以上4つの情報から、12月2日には、米海軍(ワシントン)は、日本の海軍艦艇がハワイに向けて進んでいることを知っていたということになります。トーランドは、これらの情報を信憑性があると認めていました。

12月6日、サンフランシスコの第12海軍区では、ホスナー中尉とZ一等水兵が、日本機動部隊の位置を、オアフ島北北西400カイリと判定します。「もはや疑問の余地はない。あす朝には、真珠湾に攻撃をかけてくるだろう。この判定結果をマッカラウ大佐に報告した後、二人はひそかに祝杯をあげた。あすこそ、日本軍はびっくり仰天するに違いない。」

トーランドは、著書の巻末でこのように述べました。

その後、この情報をさらに追いかけた男がいました。ロバート・スティネットです。この件についてはまた次回に。
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6 コメント

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  (  )
2008-10-05 09:49:33
トーランドとスティネット、両方ともとっくの昔に論破されています。
トーランドに至っては著書の中の矛盾を指摘されて卒倒してしまってますし。


「検証・真珠湾の謎と真実 秦郁彦」
「真珠湾奇襲論争 須藤眞司」
「真珠湾奇襲 ルーズベルトは知っていたか  今野勉」
「真珠湾は眠っていたか, ゴードン・W・プランゲ」
返信する
真相 (ボンゴレ)
2008-10-05 10:20:45
  さん、コメントありがとうございます。

私も、トーランドとスティネット以降の新たな論証の経緯については気になっているところです。
スティネットについては次回記事をアップします。

ところで、
A.ある事実を掘り当てた。
B.その事実に基づいて推論を行った。
という記述があったとして、
(a)事実を掘り当てたというが、それは真っ赤な嘘である。
(b)掘り当てた事実は嘘ではないが、推論が誤っている。
の2つを区別して議論したいと思っています。

取り敢えず、私が取り上げているのはトーランドとスティネットが掘り当てたという事実です。
これら事実の中で、どの部分が嘘であると実証されているのか、その点について教えていただけないでしょうか。
返信する
Unknown (  )
2008-10-05 16:33:25
スティネットが掘り当てたと言っている
「艦隊は129回、無線封止を破った」
という「事実」ですが、まず常識で考えて
奇襲部隊にとって「沈黙」は命がけで
守らなければならないこと。
国の命運がかかっているのなら尚更です。


100歩譲って無線を発信していたとしても、
アメリカがそれらを傍受したという記録は
ありません。スティネットは「公文書館で見た」
といっていますが、彼以外、誰もそんなもの
確認していません。

更に100歩譲って傍受していたとしても、
傍受=解読ということにはなりません。
アメリカが解読に成功していたのは
外務省の暗号であって、海軍の暗号は
開戦時の時点では解読に成功していません。


他にもまだまだありますが、上に挙げた
秦郁彦氏の書籍がスティネットを完全に
論破した代表作だと思います。絶版に
なっていますが、amazonなら手に入るので、
そちらを一読されたら全て納得いくかと思います。

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内容 (ボンゴレ)
2008-10-05 19:49:23
  さん、ありがとうございます。
「129件の傍受記録はスティネット以外確認していない」という点について確認させてください。
その中には、ラーライン号の傍受記録、サンフランシスコ第12海軍区情報部の解析記録も入っているのでしょうか。
ラーライン号については、同船の無線日誌を海軍が押収し、サンブルノ連邦政府記録センターに移管されていたものが、何者かによって持ち出された記録をスティネットが発見したことになっています。
第12海軍区情報部の件については、ダッチハーバーのKINGと呼ばれる海軍無線方位測定局の記録をスティネットが国立公文書館で発見しています。
これらについても、誤報であることが確認されているのでしょうか。
なお、これら傍受情報は、暗号解読したものではありません。暗号で発信された電波の無線発信方位から、ハワイに接近する未確認船舶を発見したというものです。
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Unknown (  )
2008-10-06 19:55:46
特定するには2箇所以上で同時に行わなければなりませんので、一隻の船だけで「ハワイの北西」などと
いう特定は不可能です。
それにラーライン号が拾い上げたものはいずれも商船用の無線です。
今野勉氏によれば、アメリカから日本へ帰航中
だった竜田丸ではないかとのこと。


第12海軍区情報部が受信したのは機動艦隊のものではなく、東京通信隊の船橋送信所のものです。
返信する
新しい記事 (ボンゴレ)
2008-10-06 21:09:07
  さん、コメントありがとうございます。
新しい記事をアップしましたので、そちらをご覧いただければありがたいです。
http://blog.goo.ne.jp/bongore789/e/480f7b37d3468ed44be1b7b63d37db87
返信する

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