弁理士の日々

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イージス艦衝突事故(3)

2008-03-22 23:04:15 | 歴史・社会
3月21日夕刊によると、イージス艦衝突事故に関し、防衛省は中間報告を発表しました。まずは、新聞に載ったその報告内容を記録しておきます。

午前3時半頃(衝突37分前)前の当直員Aが、右30度の水平線上に白灯を確認し、当直士官に報告。その左右15度にも光を確認。
3時40分前後(衝突23分前)Aは3個の白灯だと確認、再度当直士官に報告。
3時48分(衝突20分前)前の当直員Bが艦橋に上る。目視で右30~50度に赤灯を3、4個確認(距離は9千~1万1千メートル)。漂泊か低速の目標と判断。当直士官にも報告せず
3時50分頃~59分 当直体制交代。
3時56分(衝突11分前、距離5.5km)当直員Cが艦橋に。前の当直から「右20~50度に赤灯を数隻視認、方位が明確に落ちており(相手の角度が右に変化し、衝突の恐れがないという意味)危険はない」と申し継ぎ
3時58分(衝突9分前、距離4.5km)当直員Dは前の当直から「右の白灯群」との申し継ぎ。右30~40度、距離5千メートルと5千メートル以遠に三つの赤灯を確認。右5度の水平線にも白灯二つを視認、4時2分に「白灯二つ」を当直士官に報告。その後、右30度に左に動く白灯を視認
4時4分(衝突3分前、距離1.5km)DがCICから「右5度、5千ヤード(約4.5km)に何か視認できないか」と聞かれ、右30度の目標から目を離す
4時5分(衝突2分前、距離1km)Dは当直士官に「白灯1、右5度、3千メートル、左へ進む」と報告。この時点であたごは進路北北西、速力10.4ノット(時速19.3km)。
4時6分頃(衝突1分前、距離0.5km)Cが右20度、500m付近に左に進む2隻を視認。当直士官と当直員Eが目標の動静を話しあう。当直士官が「この漁船近いなあ」と発言。Eが「近い近い」と右舷ウィングに出ようとする。
Cが右70度、100メートル付近に赤灯をかかげた清徳丸と思われる目標を視認。Dも右70~80度、距離100~70mに白灯と赤灯を掲げた漁船をはじめて視認。
当直士官が「両舷停止、自動操舵やめ」、続いて「両舷後進いっぱい」と下命。当直員Fは「この間5秒から10秒」。Cが当直士官を追って右ウィングに向かうところで衝突音を聞く。
4時7分頃 衝突
(上記で、(衝突○分前、距離△km)は私が付記しました。)
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2隻の船が、お互いに航路が交差する方向で進んでいるとき、将来衝突するか否かを簡単に予測することができます。
昼間であって、遙か彼方の背景が見える場合であれば、
①相手の船が背景に対して前進しているように見えれば、相手の船が先に行きすぎる。
②相手の船が背景に対して後進しているように見えれば、相手の船が後に行きすぎる。
③相手の船が背景に対して停止しているように見えれば、2隻は衝突する可能性が高い。

夜であったり、あるいは背景が存在しない場合には上記表現は使えません。その代わり、自船Aの進行方向を基準とした相手船Bの方位θで表現できます。
相手船が右舷側に見える場合、
①相手船Bの方位θが左に移動していれば(θ2<θ1)、相手の船が先に行きすぎる。
②相手船Bの方位θが右に移動していれば(θ2>θ1)、相手の船が後に行きすぎる。
③相手船Bの方位θが変化しなければ(θ2=θ1)、2隻は衝突する可能性が高い。


上記3時56分に行われた当直員Cに対する申し継ぎは、上記②であるとの申し継ぎです。
一方、3時58分の「(4時2分)の後、右30度に左に動く白灯を視認」、4時5分Dの「白灯1、右5度、3千メートル、左へ進む」については、上記①状態であるように思えます。そうであれば、衝突の危険はありません。

ただし、あたごは全長が165mありますから、衝突直前の時点では、上記①であっても「艦橋より前方で交差」であり、船首付近に衝突する可能性があります。4時6分頃の「Cが右20度、500m付近に左に進む2隻を視認。」については、その可能性があります。同時期の「当直士官が「この漁船近いなあ」と発言。Eが「近い近い」と右舷ウィングに出ようとする。」がそれを裏付けます。

一方、同時期の「Cが右70度、100メートル付近に赤灯をかかげた清徳丸と思われる目標を視認。Dも右70~80度、距離100~70mに白灯と赤灯を掲げた漁船をはじめて視認。」については、とても清徳丸のものとは思えません。清徳丸は、あたごの右前方からあたごの航路と交差するように進んでいたはずですから、右70度~80度に見えているのであれば、衝突の危険から回避されたと考えるべきでしょう。衝突の危険がある相手船は、やはり右0度から右45度の間に見えるはずです。

あたごの艦橋における見張りでは、衝突1分前に至るまで、清徳丸を完全に見落としていたのかもしれません。

なお、3時58分の「右30~40度、距離5千メートルと5千メートル以遠に三つの赤灯を確認。」については、方位の変化がわからないので①~③のいずれであるか判別できません。距離は清徳丸の予想位置にぴったりです。


防衛省は、今回の中間報告で幕引きを図る魂胆かもしれませんが、これでは何もわかりません。後続情報に注視する必要があります。


今回報告ではこれ以外にも、本来艦橋の外で見張るべき見張り員が実は艦橋の中にいたとか、CICの当直人数が本来の7人から3~4人に減らされていたとか、ずさんな管理体制が明らかにされています。このような統率の乱れは一体どこにその原因があったのか、以前報告した海上自衛隊の指揮命令系統
防衛大臣 石破茂
 └自衛艦隊 司令官 香田洋二 海将
   └護衛艦隊 司令官 高嶋博視 海将
     └第3護衛隊群(舞鶴基地) 群司令 鍜治雅和 海将補
       └第63護衛隊(舞鶴基地)
         └あたご 艦長 舩渡健 一等海佐
に基づいて明確にしていくべきです。
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