弁理士の日々

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荒井裕樹「プロの論理力」

2007-04-01 20:45:53 | 趣味・読書
荒井裕樹著「プロの論理力」(祥伝社)
プロの論理力!―トップ弁護士に学ぶ、相手を納得させる技術
荒井 裕樹
祥伝社

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テレビ番組「情熱大陸」で荒井弁護士のことを知り、本屋でこの本を見つけたので買ってみました。発行は平成17年9月10日で、1年半も前の発行なのですね。本屋で平積みされていましたが、テレビ「情熱大陸」の影響でまた売れているのでしょう。

荒井弁護士が多くの困難な訴訟で勝訴を得ていることは間違いないので、その仕事のノウハウの一部でも理解することができれば、と、私のための業務ノウハウ吸収本として購入しました。

一言でいうと、プロ向けの本ではなく、一般向けの啓蒙書となっています。
著者があとがきで「これからを担う若い世代に、『個人の力』で勝負するという気概を共有してもらう必要がある。そのために、もし、私のキャリアに注目する同世代や、より若い世代の方々が、本書を手に取り、私の思いに少しでも共感してもらえる可能性があるならば、私は、その可能性に賭けたいと思ったのだ。」書いているように、若い世代を読者対象としているのですね。

そのためか、仕事として交渉ごとを経験されている方々には、「この仕事をしている人間なら普通に体得しているはずのノウハウばかりではないか」と感じられるかもしれません。ごく普通に経験を積んだプロフェッショナルと比較して、「確かにこの点で1億円プレーヤーたり得る」というほどの差を感じることはできませんでした。
しかし、当たり前の中に真実が隠されているということもあり、著者が数々の勝訴を勝ち取った結果として1億円プレーヤーであることは事実なのですから、素直に彼の言葉を吟味してみることにします。

ところで著者は、東大法学部在学中に司法試験に合格した人です。
「大学の同期生で、私と同じように大学在籍時に司法試験に合格したような短期合格者で弁護士になった者の多くにとっては、業界で名の通った大手法律事務所に就職するのが当然の選択肢だった。少なくとも、東京永和のような比較的小さな法律事務所を『第一志望』にする人間は滅多にいない。」
「200人規模の大手法律事務所の場合、同期入社組は20人程度。その上位に入っていれば、数年後には米国のハーバードやコロンビアなど一流大学のロースクールに留学させてもらえる。そのまま順調に出世街道を進めば、10年後にはいわゆる『パートナー弁護士』の座が待っているわけだ。それが、大手法律事務所に就職した弁護士の典型的な『出世すごろく』である。」

荒井氏は、就職活動で訪問した東京永和で、升永弁護士が扱っていた裁判の準備書面に惹かれます。説得的な論理を構築して、従来の最高裁判決を覆して見せたのです。個人が持つ「論理力」と「野心」の相乗効果で、「個人の力」で勝負してやろうとかき立てられたのでした。

職務発明の相当の対価として高額判決が出ることに対し、「サラリーマンはリスクを取っていないことを考えると、発明の対価は高すぎる」という批判があります。これに対し荒井氏は、「上場企業の取締役がリスクを取ることで高額の報酬を得ているかというと、決してそんなことはない。完全な業績連動型の報酬にはなっていないからだ。」「したがって、リスクを取っていないことを根拠に発明対価を低く見積もるのは間違っている。」と主張します。
なるほど、このような主張は納得的ですね。

荒井氏は自分が手がけた事件から「50万円が相場の痴漢事件で、300万円を勝ち取った」事例を紹介しています。確かに交渉ごとのノウハウを含んでいますが、1億円プレーヤーが紹介するにはちょっとこすいやり口の事件でした。
若い一般の読者向けに話題を選択したと言うことでしょうか。

パチスロ機メーカーであるアルゼに課せられた税金についての訴訟では、アルゼの行為が「仮装隠蔽」であると認定された点に関し、そのような仮装隠蔽を行う「経済的動機がない」というロジックを展開したそうです。国はそのロジックに反論できず、アルゼの全面勝訴となりました。「経済的動機がない」という論理で、裁判官の納得が得られたということです。普通の人が考えつかない論理を創出し、その論理を聞いたらだれも反論できない、という仕事ですね。

荒井氏は、日頃からあらゆる分野について情報収集を怠らないそうです。

旺文社は、オランダの会社を経由して国内の関連会社にテレビ朝日株を保有させ、これを孫氏とマードック・グループに売却し、結果として日本の課税がゼロとなります。これが税金逃れとみなされ、130億円超の課税処分を受けました。
そこでこの関連会社が、単に税金逃れを目的にして設立されていたのではないと証明してイメージ悪化を避ける作戦を立てます。
荒井氏は、この会社をメディアミックス事業の中心に据えようとしたのではないか、と思いつきます。依頼者にいろいろ質問していくと、確かにそのような動きがあることがわかり、決して最初から税金目的でその会社を設立したわけではないことを示すことができました。
このようなアイデアが思いついたのは、荒井氏がメディア業界のことを勉強していたからです。

この本を執筆が今から1年半前、情熱大陸出演がつい先日です。
これから荒井弁護士がどのようなキャリアを積み上げていくのか、楽しみにしています。
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