弁理士の日々

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NHKスペシャル「メルトダウン~福島第一原発 あのとき何が」

2011-12-25 11:41:03 | サイエンス・パソコン
12月18日のNHKスペシャル「シリーズ原発危機 メルトダウン~福島第一原発 あのとき何が~」を見ました。
たまたまこの放送の直前、ブログで「1号機非常用復水器の構造を幹部は知らなかった」を記事にしたばかりでした。この日の朝日朝刊には負けましたが、NHKの放送には何とか先んじて記事にできた、というところです。

朝日新聞の記事も私のブログ記事も、そしてこのNHKスペシャルも、福島第一原発のうちでも対象は1号機です。1号機で、3月11日~12日にいったい何が起きていたのか、ということがテーマです。
私がブログ記事のネタとした知識に、さらにNHK番組で付け加わった知識をメモしておきます。

1号機の操作室を、NHK番組では「中央制御室」と呼んでいます。私の記事では「中央操作室」としました。略称で「ちゅうそう」と呼ばれていたことからです。
番組は、中央制御室をセットとして再現していました。これによって随分と視覚イメージを強くすることができました。
壁際に並ぶ制御卓には、一番手前の腰の高さに手すりが設置されています。地震発生と同時に、それまではデスクワークをしていたオペレータたちが、立ち上がって持ち場の制御卓前に行き、この手すりをつかんで待機の姿勢を取りました。このような動作が地震マニュアルで定められているのでしょうか。

来襲した津波がどのように建屋内に侵入したのかもCGで再現されていました。まずは建屋のシャッターが津波の圧力に耐えられずに変形し、ここから水が建屋内に浸入しました。そして、地下に設置されたバッテリー室を水が襲う様子も、CGで再現されています。

番組では、津波到来以降の1号機圧力容器内部の状況をシミュレーションで検討しています。時間経過とともに進行する圧力容器内の水位低下状況、メルトダウンやメルトスルーの発生状況については、5月23日に東電が報告書で開示している解析結果とさほど変わりません(5月23日東電報告書(2)1号機参照)。ただし、圧力容器損傷発生時期が、東電報告書では15時間後であるのに対してNHK解析では10時間半後であり、また損傷の状況も、5月段階で東電は大部分の核燃料が圧力容器内に留まっていたと推定しているのに対し、NHK解析では大部分が格納容器に漏れ出たことになっています。

非常用復水器(Isolation Condenser:IC)を、現場では「イソコン」と呼んでいたのですね。オペレータ談話として、「過去にイソコンが動いているところを見たことがない」という発言がありました。
アメリカの原子力発電所(ICを装備)では、ICは非常に重要視されています。ICを機能させるためのバルブは手動でも動くようになっており、手動操作の訓練が行われています。
ところで、福島第一の1号機のICは、圧力容器との循環経路にバルブが4つあります。A系であれば、1Aから4Aまでです。このうち、1Aと4Aのバルブは圧力容器内に配置されています。従って、1Aと4Aは手動操作できないはずです。アメリカの原発ではどのような構造になっているのでしょうか。

さて、3月11日当日、17時19分にイソコンの動作状況を現場確認するチャンスがありました。このときに現場でバルブ(2Aと3A)が「閉」となっていることが確認できれば、その後の経過が大きく好転していた可能性があります。しかし、このときは平服で現場に出かけていました。現場の扉を開けた途端、放射線量が跳ね上がり、この服装では中に入れないということで引き返しました。残念なことです。

それまでイソコンのバルブ開閉状況を示すランプが非点灯でしたが、18時18分、そのランプが点灯し、「閉」であることが判明しました。この場面で、もちろんスタジオセットですが、イソコンバルブ操作のためのハンドルや動作状況を示すランプがどのようなものであるかを視認することができました。
オペレータがバルブ開のためのハンドル操作をすると、ランプは「開」に変化しました。当直長の指示で操作員が部屋から出て行きました。イソコンからの蒸気発生を確認するためです。「蒸気発生」との報告がありました。

ところがその直後の18時25分、「蒸気発生が停止した」との報告です。このとき、イソコンが破損して放射能が漏れ出ることを懸念し、イソコンを停止する操作を行ったことが知られています。
このときの中央制御室でのやりとりが番組で再現されていました。
この部屋で一番偉いのが「当直長」、その下の人をここでは「次席」と呼びましょう。
次席が当直長に「どうします」と判断を促します。当直長は「止めよう」と答え、次席が大声で「イソコン停止」と命じました。
このときの当直長と次席の方が現在どのような心境でおられるのか、お察し申し上げます。
このときは、圧力容器の水位計が「正常水位」を指し示していたので、やはりこの計測結果に惑わされてしまったのです。水位計が正しく働いていなかったことについても、番組で解説されていました。
この水位計ですが、津波後は動作を停止していました。イソコン操作前ですが、作業員が一抱えほどあるバッテリーをどこからか調達してきました。「このバッテリーをどこに繋ぎましょうか」との問いかけに当直長は「水位計」と指示します。操作卓の手前バネルを取り外し、バッテリーを接続する様子が映し出されました。こうして、ウソを表示する水位計が動作を開始したのです。

当直長は、イソコン停止を命じた直後、電話の受話器を取って「イソコン停止」と報告していました。これは免震重要棟への連絡と思われます。しかし免震重要棟にいた幹部たちは、1号機のイソコン停止を認識していませんでした。どこで連絡が途切れたのか、その点は不明のままです。
それと、現在のわれわれは、当時の1号機にとって非常用復水器は唯一の冷却手段であり、これの機能が失われるということはメルトダウンへ向かって一直線であることを知っています。ですから、このときなぜ当直長が免震重要棟に「大変です。このままではメルトダウンです!!」という電話連絡をせず、一言「イソコン停止」で済ませてしまったのか、そこが何とも不可解です。1号機の当直長も次席も、“非常用復水器を止めたら数時間後にはメルトダウンに至る”という認識を持っていなかったとしか思えません。
最近になって、3号機についても『福島第1原発3号機の原子炉を冷やす高圧注水系(HPCI)を運転員が停止させた理由について、振動が大きくなり損傷が懸念されたためと発表した。HPCIを停止し代替注水に切り替えられると判断したという。所長には停止後に報告された。だが実際には注水のために原子炉圧力を低下させる弁が、電源喪失で開けず、代替注水ができず、炉心溶融を招いた。HPCIをめぐっては、政府の事故調査・検証委員会の調べで、現場が独断で止めたことが分かっている。』と報告されています(毎日新聞 12月22日)。
1号機は“非常冷却装置が止まったらすぐにメルトダウンがはじまる”という意識が現場に希薄であり、3号機は“炉内圧力を下げる手立てがまだ準備できていない”ことを認識できていなかったということでしょうか。

今回のNHKスペシャル、今まで報道で得られていた情報の集積に対して新たな知見が増えたわけではありませんが、少なくとも1号機で起きた事象をまとめ上げ、視覚に訴える形で世の中に明らかにしたことは重要な意味を持つだろうと思います。
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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あきれました・・・・ (xls-hashimoto)
2011-12-28 00:10:44
東京電力はホームページの「福島第一原子力発電所の状況について」に、下記報告を掲載しました。

1.地震及び津波の発生と事故の概要(795KB)[2011年12月27日]
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/images/f12np-gaiyou_1.pdf

その17ページに
「福島第一 事故対応(中央操作室)」
現場の証言:
「電源を失って何も出来なくなったと感じた」
「操作もできず、手も足も出ないのに、我々がみみにいる意味があるのかと紛糾した。」
「ここに残ってくれと頭を下げ、了解を得た。」
と写真付きで記載しています。

12月18日のNHKスペシャルがあっての、この内容ですから、NHKスペシャルは本当なんですね・・・・・

これを平気で公表するということは、
「何とかして冷却しようと考えた人は、中央操作室には一人もいなかった」と、
東京電力自ら公言したようなものじゃないですか
・・・・・

あきれました・・・・・
返信する
12/17ページでした (xls-hashimoto)
2011-12-28 00:24:10
すみません。
あきれすぎてページ指定を間違えました。
12/17ページです。

全交流電源喪失時に、このような証言しか出てこない人達に原子力発電所の運転をまかせておく会社なんですね。
返信する
政府・事故調査・検証委員会 (snaito)
2011-12-28 10:16:06
現在、政府の事故調査・検証委員会・中間報告(12月26日)を読んでいます。
http://icanps.go.jp/post-1.html

xls-hashimotoさんが紹介された
1.地震及び津波の発生と事故の概要(795KB)[2011年12月27日]
は政府の中間報告の後に公表されているわけですが、どのように整合性を取っているのでしょうかね。
中間報告はまだ読み途中ですが、東電の今までの報告書がきわめてわかりづらい日本語文章であったのに対し、中間報告はわかりやすい日本語になっています。
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