弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

大学発の技術移転

2007-01-28 17:26:56 | 知的財産権
パテント誌12月号に掲載されたパネルディスカッション「大学発の技術移転が抱える課題と解決策」は面白い内容でした。

モデレーター 東大新領域創成科学客員教授 清水初志氏
パネリスト  東大TLO社長       山本貴史氏
       MPO株式会社 社長    大竹秀彦氏
      ヒュービットジェノミクス社長 一圓 剛氏
      日本アジア投資㈱名古屋支店長 辻野誠司氏

山本氏はリクルート社の企画課長から転じて東大TLOの社長を引き受けたのですね。ディスカッションの様子では、東大TLOは実績を挙げているようです。清水氏の紹介では、リクルーティング、人材マネジメント、マーケティングを押さえている山本氏が社長で入ったことが、東大TLOの今の成功を支えているとのことです。
山本氏の話では、米国の大学のTLOは昔は3つのタイプがありました。第1は「特許出願してあとは何もしない」モデル、第2は「大手の特許事務所に全部アウトソースをして任せる」というパターン、第3はマーケティングモデルといわれ、従来はほとんどなかったものです。第3のモデルはスタンフォードのTLOをつくったニールス・ライマースさんが始め、現在はこのモデルが圧倒的にマジョリティーになっています。マーケティングオリエンテッドで、どんどん大学の技術を企業に案内していく。
東大TLOもライマースさんに学び、フットワークの良さが特徴で、失敗している数も日本一とのことです。失敗している中で学んでいます。

今回のパネルディスカッションは東大新領域創成科学のメディカルゲノム専攻が行ったということで、バイオ、ゲノム、薬の話が中心です。
一圓さんはエーザイ勤務の後、今の会社(ベンチャー)に移られた方です。エーザイ社長による古典的教育の話、タリビットという抗菌剤の特許でわずかな時間差で負けた話、アリセプト(アルツハイマー関連薬)を合成して大成功をおさめた杉本さんですら、ある時期、研究所から離れて人事部の採用部署にいたという話が出ています。その杉山氏が採用を担当していたときに良い人材が入り、その後杉本ジュニアとして育っている、という話もありました。

パネリストの各氏が、実際の経験を踏まえて大学発の技術移転が現在かかえている問題、ここ数年間で改善してきた状況などを話されており、数年前とはだいぶ様子が変わっていることを認識しました。
数年前ですと、大学の先生は特許のことを全く知らず、弁理士との付き合い方も知らず、トラブルが多かったようです。私はできるだけそのような領域に近づかないようにしていたのですが、認識を改めなければいけません。

もっとも、目に見えて改善しているのは、東大TLOをはじめとするわずかな機関のみかもしれません。
例えば、産業構造審議会弁理士制度小委員会で、以下のような発言もあります。
東京医科歯科大学技術移転センター長(農工大TLO(株)取締役副社長) 前田委員
「大学というところはお金がありません。半分ボランティア的に料金の安い先生にお願いしなければいけないという状況があります。内容が、ナノサイズで導電性高分子を電気化学重合するというちょっと変わったものだったものですから、技術がわからなかったせいか、「てにをは」しか直していただけなく、とても悲しい思いをした経験があります。」「弁理士の方が単に量だけ増えますと、安かろう悪かろうの一番被害を受けるのがお金のない大学になるのではないかなと思っています。」

今回のパネルディスカッションでの発言から・・・
山本氏:アメリカでは産学連携をやれば利益相反というのは起こるのが当たり前で、ハウ・トゥー・アボイドではなく、ハウ・トゥー・マネージなんです。
一圓氏:(薬の分野で)ほとんどの大学の知財が売れない理由は何かというと、自分たちの研究だけですべて解決するようなことをいうからです。
辻野氏:(ベンチャーキャピタルの立場で)良い社長っていうのはよくわからないが、ダメな社長っていうのはだいたいわかる。だめな社長さえ除けば、まあ、大体、そんな大きな失敗はない。
大竹氏:(大学教授にとって)最近は補助金を取るのが大変になっている。それに比べて、ベンチャーキャピタルのお金が一番取りやすいと思っている先生がけっこういる。共同研究でやればよいものまであえて会社をつくろうとするんです。
大竹氏:ベンチャーをつくるのに向いているのは、リスクが高いものと市場が小さいもの。
一圓氏:化合物というのは共同研究でやった方がいい。実は、薬屋がやっている努力って尋常じゃないんですよね。抗体治療とかワクチン治療というのはベンチャーに向いていると思います。もっとおもしろいのは、若い人にしか考えられない新たな医療のビジネスじゃないかと思います。
辻野氏:僕は、大手との共同研究と聞いた瞬間うがった見方をしてしまうんです。たいがい自分の都合の良い契約書を持ってくるのが大手企業です。ベンチャーの社長は契約書なんて細かく見ませんからそれでオーケーとやってね。ベンチャー企業というのは弁護士さんとあまりつきあないんですね。大手企業が「一緒にやりましょう」ってこと自体疑問に思って欲しい。
コメント
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