バックシャンなどと言う言葉はもう死語で知っている人は相当なお歳だろう。私は兄が使っているのを聞きかじり、意味は知っている。シャンというのは美人ということで、バックシャンというのは後姿が美人という訳で、言われた女性が聞いたらそれほど嬉しくない言葉だったろうと思う。
今朝、駅で前を行く女性の後姿が中々美しかったので追い抜いた時それとなく振り返ったらマスクをしていて顔がよく分からなかった。残念だったかそれで良かったのかは五分五分だ。
人間の顔というのは微妙で、やはり全体が見られないと判別がつかない。マスクというのは埃を防ぐだけでなく、色々覆い隠す効果もある。
今の時期、医院に来る患者さんにはマスクをされている方も多い。初診の場合、患者さんが外さなければマスクをしたまま問診をして、診察の時に外してもらう。勿論、診察室に入るとマスクを外される常識のある患者さんも居られる。ほとんどが年配の患者さんだ。四十五年前の大学病院だとマスクをしたまま診察室に入ると、これこれと看護婦やお付きの医師に叱られた。尤もマスクしたまま話をしようとする患者さんは殆どいなかった。どうしても必要があればいったんマスクを外して断ったものだ。
マスクで隠れるのは顔の三分の一ほどなのだが、此れだけで顔の特定が困難になる。コンビニ強盗が必ずと言ってよいほどマスクをしているわけだ。人間の脳は知らないうちに見えない部分をある程度補うというか想像しているようで、マスクを外されてえっと意外な顔に感じることが時々ある。稀にはぎょっと驚くこともある。勿論、おーっという美人だったりして、思わず秘かに嬉しくなることもある。