acc-j茨城 山岳会日記

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山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

谷川岳・一ノ沢左稜

2006年03月10日 17時25分01秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2006/3月上旬 谷川岳・一ノ沢左稜

労働

谷川にロープウェイありき、だ。 
平日は駐車場タダ。あったかい建物の中で仮眠タダ。清潔なトイレタダ。何ならビ-ルも自販機でどうぞ(有料)。

登山届を投函し一の倉出合までのボトボト歩き約一時間。 
出合にて、上部は濃いガス。 
一の沢は適度にしまった雪でグイグイと高度を上げていく。 
いかんのは視界が悪く単調なため面白くない。ただ黙々と歩を進める。 
こうなると、労働ですな。

 
稜上

一の倉出合から一時間も歩いただろうか。「労働」などと露程も思えば、途端に嫌気がさして 小休止。手近にある支尾根を登るコトとした。 
本来、左稜を行くにはもっと末端から登るのだ。

見上げれば、結構急な支尾根を木登り、ルンゼ状でロ-プを出し、2ピッチで稜に上がった。 
そこからは硬軟取り混ぜたヤブ尾根で高度を稼ぐ。 
やがて稜は左右ともに切れ落ち、リッジの様相となって来た。 先はガスで見通せないが、どうやらこの先、やせたリッジの登下降が続くらしい。 
視界不良であっても感じる高度感、念のためザイルを出す。

シンセン岩峰

やがて稜は鋭さに磨きがかかる。各ピッチごとに「怖ぇ-」を連発しながら涙目でさかぼうリ-ド。 
その実、顔は笑っているのだから、もはや常軌を逸しているとも想われかねない。

ナイフリッジを跨いだり、リッジを手がかりにカニ歩きをしたり、セッピに戦々恐々としたり。 
途中の支点はあまり取れないので落っこちないよう慎重に。 
リッジを越えるとガスに霞む岩塔が連なる。 ここがいわゆる、シンセン岩峰である。 
実質の登攀となるのは、最後の三峰通過。 
その先には東尾根の第二岩峰が見える。 

 

三峰

1ピッチ 
か細い潅木とピッケル頼りで足を蹴り込み一峰塔頂に至る。 
岩に残置のスリングとビナが掛かってはいるものの、いかにも古いため手持ちで補強を要する。

2ピッチ 
後ろ向きになって一峰をクライムダウン。 
二峰は締まった雪で雪壁の様相。二峰塔頂の支点でビレイ。 
ただ、塔頂の向こう側は切れており、馬乗り状態でのビレイとなった。

3ピッチ 
躊躇したが、垂壁脇の雪を利してクライムダウンとした。モチロン雪の状況では懸垂下降も検討したい所である。 
三峰はピッケルと潅木を掴んで最後は少しカブリ気味の雪を切り崩して塔頂。

最後はシンセンのコルへと懸垂下降20m。 
この頃にようやくガスは薄らぎ、東尾根の前半が見通せた。ここまで充分な満足感で一の沢を下る。 
労働も、それが楽しければ充分な娯楽になるということか。これまた新しい発見では有る。

好ル-ト

不思議と山に遊べば遊ぶほど自然と仕事にも身が入るのはそういうこと。 
生業ですら娯楽にするのは自分次第。気楽に考えてもいいのではなかろうか。

一の沢は結構な斜度で、東尾根に来るためにここを登るのはかなり骨が折れるであろう。 
雪質は硬く締まっており一同後ろ向きになってサクサクと下る。 
適度に傾斜がおちたらシリセ-ド。コレが密かな楽しみだ。 
取り付きに戻った頃になって視界は晴れ、衝立が目前にドドンと見えた。雪の一ノ倉を同定しながら 振り返ればシンセン岩峰が鋭い。 
人気は東尾根に譲るとして、この一ノ沢左稜。なかなかの好ル-トである。

そして、下山後のひとっ風呂と冷えた一杯。これは労働だろうが娯楽だろうが関係なく止められない。 
 

sak


八ヶ岳・阿弥陀岳北西稜

2006年03月05日 17時22分40秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2006/3月上旬 八ヶ岳・阿弥陀岳北西稜

ラッセル

明け切らない闇に明かりを投げるのはコレで何度目になるだろうか。 
美濃戸口からの林道はいつ来ても、やっぱりいつもと同じダルダルさがある。 
とはいえ、自分はいつまでこの道を辿れるか、はたしてあなたはどうなのか。 
そんなこと考えながら闇の中。 つまりはこの林道歩きみたいなものなのかと思い当たるのだ。

北西稜へは数日前のトレ-スが急な樹林帯の途中まで付けられていた。 
露岩を過ぎ視界が開けるとラッセルも本格的となり、腰ラッセルを稜上まで。 
小ピ-クからリッジを行く。 前日の降雪で心成しかこれから先も雪が多い。 
 

リッジ

1ピッチ:リ-ド 
リッジの右斜面を行く。「あと5」になって、適当な対物が見つからない。 しかたなく斜面をいくらか下って潅木に支点を取った。

2ピッチ:フォロ- 
同じく、リッジ。か細い潅木でランナ-をとって、雪に埋もれた岩のフェ-ストラバ-スがいやらしい。

3ピッチ:リ-ド 
小岩峰は右から巻かず、正面から行く。 どうにか第一岩壁まで伸ばしたかったが、10m手前でロ-プが伸びない。 一杯なのだろうとピッチを切る。

4ピッチ:フォロ- 
リッジの残りを約10m。第一岩峰基部。しっかりした支点と安定したテラス。 
 

見せ場

5ピッチ:リ-ド 
基部からはいったん右にトラバ-ス。あとは草付フェ-スを直上らしいが、雪に埋もれ困難を予感。 ピッケルとバイルで戦闘態勢をとる。 
雪の掃除をしながら登攀。支点は極端に少なく、捜索に困難を極める。 やがてフェ-スから凹角を越え、リッジにたどり着く。 ザイルが残り数m。第二岩壁まで15mほどであったが、リッジにハ-ケンを打ちピッチを切る。 
このピッチで左手のグロ-ブは酷使され穴だらけとなる。「悪い」そんな印象が強く残った。

6ピッチ:フォロ- 
15mほどだが、雪の付いた岩のリッジはやはり掃除に時間を要した。 切れたリッジは風が強ければとても緊張する場面となろう。天候の安定は我々の強い味方であった。

7ピッチ:リ-ド 
第二岩壁の基部から左にトラバ-ス。バンドは雪に埋まっており、壁は一気に谷へと200mほど落ちている。 
雪は締りが悪く、一歩毎にサラサラと足元から奈落へ消えていく。確実にステップを安定させながらカニ歩き。 ここが行者小屋から良く見える見せ場ピッチといえよう。 

 

核心部

8ピッチ:フォロ- 
実質の最終ピッチで、核心部。残置を使ってのA0だが、支点の多くが雪に埋もれている上、 スタンスが外傾。困難さは登攀時間に比例する。

生憎の日陰で震えながらトップを見守る。最後はアブミを使いリッジの向こうに 姿が消え、まもなくビレイ解除。 
フォロ-の気軽さでA0しまくりロ-プ張り張り。最後のガバで 体を引き上げると遠く木曾駒の向こうに夕日が空を真っ赤に染めていた。

賞牌

スッカリ暗くなった頃、阿弥陀岳。あとは美濃戸口までボトボト歩き。

登攀の充実は、それを成し遂げた者のみが与えられる賞牌である。 
何にも代え難いそれは、それを知る者しか語れない。 ならば互いの信頼が報奨といえよう。 
その光栄に感謝をしながら、暗い森をヘッデンで切り裂きながら行けばボトボト歩きも悪く無い。

時は巡り、たとえ道が変わったとしてもこの日は決して変わらない。 
北西稜は記憶に残る一本となった。 

sak