acc-j茨城 山岳会日記

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山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

奥秩父・鶏冠谷右俣、ヌク沢

2002年06月15日 14時41分23秒 | 山行速報(沢)

2002/6中旬 奥秩父・鶏冠谷右俣、ヌク沢

鶏冠谷 
そう、出合は突然にして明確であった 
これでは間違いようがない 
ここが鶏冠谷出合である

はたして出逢いも突然ではあった 
この世界に身を置いて、いつかはと考えていた 
Heaven Site 安藤さんとの出逢いである

2週間ほど前だったか、この山行に私はエントリ-をした 
興奮はサッカ-日本代表の活躍のためだけではない 
山行前日は久方ぶりになかなか寝つけなかった 
小さな淵の物語

ゴルジュを抜けると、適度に楽しめる小滝が続き 魚止めの滝(10m)は右から巻いた 
快適、快調な沢登り

と、小さな淵に挑むさかぼう 
側壁をヘつり気味に行こうとするものの、水中の岩角を見誤った 
「スタンスがない!」 
そこには胸まで浸かる淵が待っていた 
さかぼうの大きな嬌声と胸に提げていたカメラの小さな悲鳴がこだました 
淵からの脱出 スタンスを探す

物体と化したカメラをザックに仕舞い込み 「しゃあメェ、これが青春の代価だ」 などと、妻への言い訳を考えていると、 明るく美しい供え餅のような五段ナメ滝が現れた 

 

危機一髪


さかぼうは行き詰まっていた 
正直言ってオ-バ-ワ-ク、マズイなと感じ始めていた


5段ナメ滝の1段目を左から上がり右の落ち口にトラバ-スする 
滑らかな岩肌にわずかな左足のスタンスとフリクションを利かせた右足、 2本の爪先でバランスを保っていた 
次の一手が見つからない


山岳会で学んだ事が走馬灯のように浮かんだ 
ここは思い切らないといけない場面 
引けていた腰を壁に寄せ上体を反らすと視界は広がる 
あと一歩あればテラスに届きそうであり、スタンスは遠く右下にある 
めぼしい情報はそんなところだった 
ここはランジ(飛びつき)かあのスタンスしかない

右足をすべらせ必死にスタンスへと伸ばす 
あれ、ダメか?とバランスを失いかけた瞬間、右足に手応えがあった

逆くの字 
興奮、そして反省も冷めやらず、核心の逆くの字滝(8X20m)が現れる

ここは、安藤さんがリ-ド 
危なげなくスルスルとザイルを伸ばすその姿は頼もしい限りである 
お互いコ-ルを瀑音にかき消され身振り手振りのやり取りながら上部の核心を 越えた所で小休止 
やっぱり、これが本道。 
安藤さんの「手前の5段の滝が我々の核心でしたね」との気遣いに頷きつつ、 自身が「核心にしてしまった」事を深く反省していた

宴モ-ド 
二俣は25m滝の高巻き道が沢に挟まれた尾根づたい になっており、快適な沢から離れ、苦しい所だ 
縦横無尽に踏まれた後があり道読みに難儀されつつ右俣へと下り返す

ナメと小滝が連続する楽しい流れは、本来後半のハイライトとも言うべき なのであろう。 
しかし、さかぼうはもはや宴モ-ド(笑) 
浮かれ半分、詰めでル-トロスト。 
刻々と時は過ぎ、不安感の中にもモチベ-ションは高まっていた


今宵の宿夜は更けて 
ロウソクに火を灯す頃、 K.U.OUTDOOR SITEの現場監督さんが合流 
ちょうど準備も整いつつあり、待ちきれずにまずは乾杯

それぞれが持ち寄ったご馳走の中にはHPで紹介していた山のメニュ-や 聞きしに勝る、純度の高い蒸留酒などが所狭しと並べらた 
それは食べきれない、呑みきれないほどのボリュ-ムであった

お互い初めて出会った方々とは思えない気がして 改めて不思議な気持ちと嬉しい気持ちでいつもは無口(?)な さかぼうも饒舌になってしまう

生憎の激しい雨にも東屋でのビバ-クは快適そのものだった


ヌク沢橋 
土砂降りであった雨もすっかり上がっていた 
本日の予定はヌク沢・左俣 
上部の三段260m大滝が核心である

一同、昨夜の笑顔も今は引き締まった凛々しい面構え 
これからの遡行に大いに期待も膨らむ


入渓準備

パ-ティ-は現場監督さん、さかぼう、安藤さんの隊列を作った 
ヌク沢橋から川原を歩きゴルジュにあたったところでそれぞれ入渓準備を 始める 
それぞれの装備、身につけ方。ここはさかぼうの興味津々なところ 
マニュアル片手に独学の身にとって、この山行はナマで学べるいい機会。 両氏には山行通して質問攻めでしたが、良い勉強させていただいきました

現場監督さん余裕の表情隊員たち① 
隊列を引っ張る現場監督さんは一見スキがあるように見えていて それでいてスキが見当たらない練者の山ヤである

ソツのない動きに無駄のない装備。 
ユニクロのハ-フパンツで沢に入るあたりは山慣れた者しかできない芸当 
見た目は街でも通用し機能はドライ素地。洗練されている シロモノを知っている証拠だ 
驚くべきは体力。 
本人曰く「息、上がってますよ」という割に ぐいぐい引っ張るそのぺ-スに皆タジタジ。

滝を登る安藤さん隊員たち②

冷静沈着、聡明な安藤さんはネット上でのイメ-ジがピッタリと合致する 実に親しみやすいお兄さま 
確かな状況判断と岩登りにおける冷静なル-ト読みはさかぼうなど遠く及ばない 
私の質問も懇切丁寧に教えてくださるあたりに山ヤの器量がうかがえる

常に次へ次へとステップアップを求める向上心は会話の端々に見て取れ、 海外登山から沢登、アルパインクライミングまで山のことなら何でもこなす 行動力には脱帽ものである

滝を登るさかぼう隊員たち③

ジャ-ジに山Tシャツという機能的ではあるがどう見ても アカ抜けないイデタチのさかぼう(笑)

思い切りいい登りっぷりに、実はあまりル-ト読みしていない「猪突猛進型」 人物像が見て取れる 
「これが青春だ!」を合言葉に流れに向かい、好んで濡れていくのも ファイト一発的発想からきており、熱いココロを持つ反面、濡れた後の事など あまり考えていない


生まれつきの野球体型による下半身の筋力充実は理想的な縦走系登山体型 ではあるものの、天性の道読みの悪さはその才能を活かしきれていない

大滝3段・260m

さあ、いよいよ大詰め 
このためにここまでやって来たと言っても過言ではない大滝 
下段、100m 
中段、80m 
上段、80m 
上の方はガスに霞んでいるあたり、雰囲気はさすがである

そもそも、この山行はあるひとつの目的によって開催された 
それは知るヒトぞ知る「プロジェクト」 
その息合わせと挨拶代わりの山行であった 
いわば皆、バリエ-ション志向の輩たちだ 
ならば、オフとはいえ「癒し系山行」では治まるはずもない 
その輩たちの最初のタ-ゲットがこの大滝 
笑みを浮かべているそれぞれの眼には期待とその先に見えるモノを 捕らえている様子が覗えた

下段・100m

下段は水流に沿って登りつめていく 
ところどころ適度な緊張感を持って、またシャワ-を浴びながらの快適な 登りである

当初、平日休の職を持つさかぼうはこの企画への参加は到底無理だと思っていた 
皆と山に行きたい。この滝を一目望み、登ってみたい。 
ただただ、心残りであった

しかし、情熱が理性を思い留まらせた 
このキッカケを逃したら、恐らくきっと後悔する 
そしてチャンスはもう訪れない 
さかぼうは、エントリ-を決めた


中段・80m

中段は大きな石積みにも似た迫力の岩壁 
下段に比べ一段と傾斜がキツくなっておりここはザイルを取り出す 
現場監督さんがリ-ド、安藤さんが確保の体制に入りランニングを取りながら あっという間にガスに霞む高さまでザイルが伸びていった

「上がってきて!」の身振りでセカンドはさかぼうが行く 
タイブロックをセットしてここは無理せず安全なル-ト取りを心がけた 
2ピッチ目、ヌルヌルのナメに緊張させられたがフリクションでどうにか突破 
実に快適、気分爽快。充実のひとときである

しかし、このあたりで風が出てくる 
下段で濡れた体の震えが止まらなくなってきた 
体を動かすため、また足場の良いところで上着を着るため 中段上半部、さかぼうは独り右の巻き気味の踏み跡をたどった


詰め 
上段はザイルは仕舞い、思い思いにル-トを取っていく 
上段の落ち口で口にした流れは大滝登攀の緊張で乾いた喉を潤すには 最高の素材であった

大滝を過ぎるとグッと水量も細り、やがてその流れもなくなる 
詰めは上部まで沢筋を行き、 最後は大したヤブコギもなく登山道へと飛び出す

さかぼうは現場監督さんに迎えられ、二人は安藤さんを迎えた 
三人は固い握手を交わした 

未だ見ぬ世界

下山は戸渡尾根から 近丸新道を辿って余韻を噛み締めながら コロコロと下って行く

キッカケは思いもよらぬ所にある 
そしてそれを掴むのは自分なのである 
「自ら望めば必ずいつか手に入れられる」 
群馬岳連の先輩岳人から授かったそんな言葉を思い出した

未だ見ぬ世界が遥か遠くに広がっている 
一歩一歩、歩いて行けば必ず世界は広がって行く 
だから私達は歩いて行く 
やがて広がる世界を想い描きながら 
来るべき瞬間のために


sak