よみびとしらず。

あいどんのう。

46億年の成れの果て

2021-08-28 13:03:05 | 散文
「46億年かけて出来上がったものがこれだよ」「失望しない?」と誰かが尋ねたこれでもう十分だと誰かは答えたいいやわたしたちはまだまだこれからだとまた別の誰かは言ったその一つ一つの細胞から成るわたしたちはどこまでもネガティブな人間なはずなのに46億年の成れの果てにまだまだ終わりは見当たらず「この場所のどこに希望があるのか」と叫んだ子供の内側でさえも深く吐き出した息は泡となり無色透明な水に溶けこむストロ . . . 本文を読む

ブレス

2021-08-27 00:13:42 | 散文
いつもの笑顔の草葉の陰から破顔一笑 その微笑みに夜は来たりてあなたはようやく息を、吐く涙のひとつも流せずにいたことすら説き伏せてそのスマイルの届いた先にある光景にそれでもその場所に立っているあなたから差し伸べられた手のぬくもりを握りしめたわたしと同じ形の掌で顔を隠したあなたもわたしも微笑んでなにも残らないままお月様は昇るあの日の涙も微笑みもなにも意味を持たずにわたしたちはただ生き抜いたそのブレスひ . . . 本文を読む

スマイル

2021-08-26 14:02:23 | 散文
いつも笑顔のあなたから涙のひとつも引き出せなかった痛ましいほどのその微笑みに気がついていながら何も出来ない無力なわたしたちからまたたくさんの笑みは溢れたたくさんの笑顔が咲き誇るこの場所のどこに希望があるのかと咆哮したのはかつての物語いまは歯を食いしばりながら或いは本当に心の底からそのどちらなのかも頓着はせずになにも分からないままでいたかったこの感情の正体も不明なままのわたしたちは本当によく笑う . . . 本文を読む

ホシトリ物語

2021-08-22 13:30:32 | 散文
男は星を取りに行って猪に当たりけり種を蒔く女は傷だらけの男を介抱した夜には姿を見せない女の素性も名も知らず男は女に惚れこんで自身の思いに酔いしれた男は声高らかに女へ言い放つ「あなたは星よりも素晴らしい!」男の声に女は絶句した決して耳にしてはならないその言葉から種を蒔く女の身体は発芽して深い深い緑の幹は女を硬く閉じ込めた女から伸びた緑は天まで届き驚いた男は必死に駆け昇るその先にあるのはキラキラと輝く . . . 本文を読む

mirror

2021-08-21 10:50:23 | 散文
言葉を瞑ったそのなかにある本物のわたしはどれでしょうかと泣きながら笑うあなたの素顔は逆光に目が眩(くら)みわたしにはあなたの姿がわからずに確かにそこにいると手を伸ばしたらわたしは鏡のなかにいたこの向こう側にはなにも届かずにそれでもあなたから目を逸らさずにいるわたしはわたしの眼差しを何よりも恐れて前髪を伸ばしたわたしの視界にあなたの姿はうつらないなにも届かない世界であなたは歌う言葉も声も持たずしてそ . . . 本文を読む

光陰

2021-08-20 13:27:50 | 散文
くるくると翻(ひるがえ)る黒と白とは互いに染まらずさりとて離れずくらくらと景色の歪みは暗中模索した背後から差し伸べられた手のぬくもりを取り入ることなくただ恐怖だけがその場に残された月夜に泣いたのは誰の声かと問いかけた空の色を見間違えたのは互いに反転し合った愚かさとあまりにもあなたが恋しくてわたしはあなたを手放したままそのあいだに挟まれている誰かの影と陰影を産み出したわたし本来の明るさを何も映ること . . . 本文を読む

面影

2021-08-19 12:34:16 | 散文
限りなく近ければ一緒であるとおなじものだと主張したあなたは全く異なる有り様でそもそも限りなく近くもないとわたしが笑えば空晴れわたるまるで納得のいかないあなたは顔をしかめて雨を望んだあちらを立てればこちらが立たずお天気雨は困った顔をして雨と晴れとを繰り返し雲のまにまに漂う風は誰の目にも触れないようにと懐疑的な眼差しの誰かさんとは皆目異なるとても似たようなかたちであなたは佇(たたず)んでいた . . . 本文を読む

リピート

2021-08-18 16:29:18 | 散文
どうしようもなく繰り返すわたしは何度でも同じ違う場所を求めて彷徨った何千回にも繰り返された夜の月を仰げば兎は跳ねて雲の陰りは空を渡ってわたしに優しく微笑んでいるその刹那(せつな)に真新しい光は現れたその瞬間に現れた真新しい光は気が付いた時には消えていた新生な輝きはパチパチとシロとクロとを反転させながら繰り返す何かを伝えたいという妙なる願いは何度でも風に乗りわたしたちを運ぶ遠い明日からハラハラと思い . . . 本文を読む

グットバイ

2021-08-17 19:22:29 | 散文
なんだかピリピリと千切れそうな感情線に膜をはるそのぼんやりとした景色を眺めていつか見た似たような感情に思いを馳せればそれはもういまは昔とあんなにも抱えた痛みも無痛もどこにあるのかさえ分からなくなった苦しみを新たに抱えたモヤモヤとして雨の燻(くゆ)りにわたしは癒されたのか赦されるはずもなく自分の抱えた罪を忘れた思いは廻りてヒリヒリと遠い日の春を乗せた空とメリーゴーランドに心は浮かんでまた悲しみにさよ . . . 本文を読む

くも

2021-08-16 10:59:15 | 散文
どこへ行ってもどこへいくのやらどこにもどこかを定めぬままに雲は流れてわたしは居場所を失ったそこにあってもどこにも属さず手も取り合わずたったひとりきりの姿は健在わたしの範囲は有耶無耶に保たれている潜った先に確保した寝床に現れたのは夢の泡沫すべては雲とつながってこの手のひらには何もつかめずただそこにあるだけの確かなわたしは名前すら与えられないまま空の青さにとけこんだ雲は流れてわたしはどこへいくのやらこ . . . 本文を読む

あの頃

2021-08-15 11:59:27 | 散文
子供の足取りに耳をすませば赤いスカートはひらひらと舞った柔らかな手のひらをおおきく振ればただそれだけで世界は幸せに満ちていた明るい明日に全てを忘れて輝いていたのは月明かり夜になればすぐに眠りについていたあの頃は本当に知るよしもなかったあなたの素顔ただ泣き濡れて知らずしてあなたにわたしと同じ涙があったとはわたしを寝かしつけてくれた掌のぬくもりのその小ささがわたしの全てであった時わたしに噛みつかれたそ . . . 本文を読む

HOME

2021-08-14 09:28:04 | 散文
猪に蹴られた風は吹き花の散る景色に山吹色の透明な水の音は眠りを誘(いざな)う此処にいるよと蛍は飛び交いかそけき光の真ん中に真昼の太陽は揺らめいていた種に水を遣る幼子(おさなご)の麦わら帽子の日陰に落ちたまんまるお月様はどこへやらみんな寄る辺なくひとりになった夜に居場所を探してる . . . 本文を読む

あわみず

2021-08-13 11:29:23 | 散文
水に薄められた思いを乗せて産まれたわたしはどんな形か憎しみも歓びも淡水に溶かして解けた糸の先にある海は荒波の怒りや感嘆を元の姿に呼び覚ます元の姿を知らないわたしは初めて触れたその激情に精一杯の拒絶を示して海とおんなじ涙の味をなにも知らずに産まれ出た元のわたしを知らずして元の在処を知らずして当たり前のように歩きはじめたわたしは歌声も鱗も持たずにただ何かが欠けていると誰に何を言われたわけでもなく怯えて . . . 本文を読む

酔ひ星

2021-08-11 11:56:56 | 散文
酔うて星を取りにいった男はぽしゃりと水辺に落ちたそうして夢から醒めたとき男の身体は女となりて酒は一滴も呑めなくなっていた酒に溺れてあなたは醒めてわたしの覚悟は泡となるきらきらと輝きながらあなたは落ちたどうか酔いから醒めないようにと女は星を打ち砕く今宵も良いや酔いやと町の賑わい女は眉をひそめて家路に着いたそうしてあたたかな毛布にくるまれて男は女の夢をみる酔いは回りてくるくると星々は廻るぐるぐると悩み . . . 本文を読む

無音

2021-08-09 11:27:23 | 散文
言葉が追いつかず追い越されたわたしは無口なままでどこになにがあるのかさえ手探りだけでは見つかりようのない言葉の壁に阻まれた同じ言語にバベルの塔は構築されて伝わるはずだと早合点したわたしの言葉は空を切る無口なままで空は切り刻まれて傷を負うどこの誰にでも繋がる空のしたその明るい場所で言葉を放った誰になにを言えばいいのかさえ分からないままで言葉を飲みこむこの声に音が無いなどとわたしの閉ざされた声は内側に . . . 本文を読む