訳の分からぬまま巻き込まれていたそれでもなくなりはしなかった私が生まれながらに携えていた私自身の色かたち訳の分からぬまま放り込まれたその中心にあったのは私しか知らない私の知らない色と熱臆病な私は出来れば知らずにいたかった渦巻いた混沌のすぐ近くにある彼方から握りしめたこぶしを解きほどく時はもうまもなくとやさしい声がかすかに聞こえた . . . 本文を読む
傲慢なこどもはどこまでも繊細でただ明るく美しい太陽のみを欲しがった月の光なぞはにせ物であるとその輝きにはフタをして夜は海の底よりも深い暗闇に落ちたまたのぼる朝日さえあればそれで良いとその臆病さを背中に隠したどこまでも純粋でありたいと自分でも気づくことはなかった素直な願望に深淵の夜は音もなく忍び寄る大切なものを守るためこどもはそのぬくもりを否定して暗闇にひとり泣いていた . . . 本文を読む
口紅が折れて空に落ちましたあなたのきれいな青色の海とあなたにとてもよくお似合いな黄色い衣にわたしの赤い口紅がわたしの心までも赤くそめあげたあなたの口元は決してこの赤色にはそまりませんでしただから落としたこの折れたわたしの口紅がせめてあなたの世界を赤くそめあげますように . . . 本文を読む
白い服を着たとある男はただひとりになりたくて、舟の通ることもない沖合いにでて、海のうえで波にゆらされるがまま浮いていた。そのとある男は濡れるとからだが光る体質であったため、その光につられてイカやらカメが集まってきた。「わたしはひとりになりたいのだが」男はいった。「いはやはそうは言ってもねえあなた。夜の海でそんなにもひとりピカピカ光っていたら、それは目立って仕方ないよ。おいらはてっきりお星様でも落ち . . . 本文を読む
移ろいやすき天気のなかでやまに登る浅はかなれども縁浅からぬあなたを求めてみどりの深き森にいり淵(ふち)深からぬ水辺のおくに清らかな音色は岩清水わたしの落とした弱音はそこにまぎれた透明でとても清らかな姿に戻されて泣きながらわたしを待つあなた泣き虫はきらいだときりすてたわたしも生まれ落ちた日は確かに泣いていた大切な忘れものを思い出すためわたしは標(しるべ)なきやまに登る . . . 本文を読む
満月のよるにふたつにわれたうちのかたほうは水に落ちもうかたほうは空にのこったわれてもわたしはひとつだと姿かたちはそのひとつのまま空にのこったかたわれはいつものごとくにそこにあり水のなかに落ちたもう一方のかたわれはだれに気づかれることもなく空にいるかたわれと同じ姿かたちでそこにいるからっぽなりて満たされることのない月夜はめぐるわたしに欠けることなどあってはならぬとわれたひとつは置き去りのままいつもの . . . 本文を読む
くらい時代に生きたとて 心根もくらいとは限らない闇夜にとろけた烏とて その眼光は静かに輝く眠りのさなかにかろやかな歌声は深淵にひびく深間(ふかま)にひとつの希望もなくともあなたはそれと重なりてひかりなき場所にも明かりはともされる深淵は遠のき あなたは途方にくれようとも深淵は遠のく 泣きわめこうとも遥かかなた迄またいつかお会いしましょうと夜のなか笑いながら昇る月の穴はぽっかりと真っ直ぐに正直なまま軌 . . . 本文を読む
海が燃えている曇天のした、白いかがり火はゆれおだやかな波間に立つ影はなし透明な膜におおわれた砂地のうえにだれかの足音は絶え間なく鳴り響くゆらりゆられてみどりのゆりかご冷たき水はそのなかにぬくもりを抱きてかえりくる誰かを待ちわびるおかえりなさいただいまと生まれおちたすべてに語りかけそしてわたしたちは泳ぎ方さえも忘れさる連れてきた涙だけが海のにおいを知っていて聞いたこともない海の波音をわたしは耳にする . . . 本文を読む
海はかなしみを知らぬものかという問いに太陽は答えたあれは何も知るよしもないと憤怒した海は波をまきあげ空にたてつくも太陽には届かずこれがかなしみでなくばなんであるかと嘆く潮騒は涙色にそまるその瞳からおちたものの正体も知らぬ太陽の輝きは今日(こんにち)も大地を照らす誰の思いをも気にもとめずに孤独を受け入れた太陽とその輝きをはねかえしけれどその存在に魅せられた海は嘆くことやまずとこしえにその涙からわたし . . . 本文を読む
緑色の雲は雨をふくんで水色はおとされた残されたきいろは空になくないたきいろはなくなりはすまいと空にはじけて地上へとそそぐはぜたひかりにつつまれて色彩に満ちた世界に私は生まれたよろこびも かなしみもなべて主張するなくなりはすまいとともにあることを選んだ世界に夜は来たりてないた子どもにおくられた音のない子守唄空はなき 子もないてそれでもあまねくともしびは絶えずに凪いだ海は取り残されて途方にくれた音のな . . . 本文を読む