お帰りなさいを告げる場所帰りたいひとを待っているそうとは知らずに訪れてまた別の場所へと帰りけるおかしなものだと島は笑ってその声に森はさざめき木立は揺れる鳥の鳴き声も海の波音もその奥になにがあるかは誰も知らずに島はただひとりなにも語らず帰りたいひとを待っている . . . 本文を読む
わたしはただカタカタと音を鳴らしてそうするとあなたは不安を駆りたててわたしはただ単純にあなたのそばへとひとりじゃないよと伝えたかっただけなのにカタカタとカタカタとそういうことは良くないことだと教えられてもちっとも理解なんかできずにいたわたしが奏でるカタカタはふるふるとふるえるあなたにとても合っていて恐がる必要はないのだと怯えなくても大丈夫だとそんな気持ちはあなたにはまるで聞こえずにわたしの思いはあ . . . 本文を読む
色去りて後変わる景色に冬支度
巡る季節のあたたかさに触れた
吹く風は記憶をたよりに西へ東へ
どこにでもあるようでどこにもないものを探し求めた
がらくたにまぎれたあなたを見つけに
海のなかなど探せないなどと云うなかれ
どこにでも行けるかたちになったわたしに贈られたのは
臆病なこころとうつむいた影法師
はりつけにされたわたしの影は伸びる
いつか届けと夜にまぎれたわたしの素顔に
うつりゆくあなたの影は重 . . . 本文を読む
背中を合わせて行ってきますとおやすみなさいのキスをした良き夢の花束よ届けあなたまでその夢のほとりで待ち合わせましょう名もなき歌声のささやきに夜は明けて太陽はのぼったその夜明け前呼吸はひりひりと痛みをまして身体に血潮はかけめぐる水の恵みと風のそよぎに鳥は向こう側で鳴いていた飛ぶすがたなくその羽根は大空(たいくう)をかけめぐる川の流れはついぞとどまるためしなし沢は音を立て水は沈んでまた浮きあがる天まで . . . 本文を読む
傘もささずに帽子もかぶらずに毛布ももたずに晴れた空のしたを歩くあなたは美しいそして震える指先でさしてなお目深にかぶってうつむきてなお拠り所をにぎりしめてなおいまその一歩をふみだそうとするあなたは勇ましく吹く風はすこやかにあなたを包みこむどうか幸いあれと届かぬ声色でいくつもの夜をひとり重ねて夜明けを待ったヒーローはいないと知りながら絶えることなき水の音は運ぶいつまでも語り継がれる英雄物語ヒーローはい . . . 本文を読む
いつか きっと とありふれた言い訳を嫌うあなたの苦笑いが見たいわたしに光はともるどうか目をそらさないで見つめてほしい 素直な心根からわたしは咲いたあなたは手を伸ばしわたしは足音を追う光と影は重なりてかつてみた景色を忘れたままでふたりは笑ったいま共にあることに勝る歓びはないと力強くささやいた 小さな明かり . . . 本文を読む
あの日かざしたあの傘はいまもあなたの頭上にあるのだろうか冷たい雨風にさらされるなかれと誰かがかざした小さき傘の古ぼけた思い出は水に錆び穴のあいた傘に雨は降る冷たい雨風にさらされて立ち尽くす身体を誰かがひっぱるあの宇(ひさし)まで宇(そら)からそそいだ雨の音に錆びついた記憶は色あせたまま懐かしき歌声に耳すます . . . 本文を読む
起きて立つ
それすらも不自然に成り果てたことを
見てみぬふりして周りに合わせた
歪(いびつ)な月が空を行き交い
涙は落ちずに手は砂となる
あいまいな記憶から正しさを削除し
偽りの本音に仮面をかぶせた
雨に濡れた身体は海から離れて
満面の笑みは光を厭(いと)う
影に隠した頑ななまでに隠して守れと
守ろうとしたものの名前すら忘れたままで
ひび割れた仮面を身につけて
歯を食いしばりひとり立つ歪んだ世界 . . . 本文を読む
ものすごく深い眠りについた一晩のうちにいくつもの夜を越えてきた目が醒めると翌朝だった龍宮の入り江に亀眠る繰り返された破壊と再生一夜に変わる歴史の果てにまたあなたとお会いできますように . . . 本文を読む
やまかげにうつらぬ灯(ともしび)夜も更けて小枝かそけき音のする視界にまぎれぬいとし子よ落ち葉かさこそ噂する手のなるほうへいらっしゃい木枯らし鳴子(なるこ)の呼ぶ声に迷い子めぐるやまぎわは赤色黄色に葉も染まり足早駆けこむいまいづこいまの時忘れた幼な子は疲れて眠る母の胸過去も未来も遠ざかりただ夢にみる山のさとどこへ行くとも行かぬとも定まらぬ思いに佇(たたず)むやまのべ姿なきすがたは暗やみにとけ落ちた涙 . . . 本文を読む
波のうねりに規則なくさりとて沈まぬ世界に立ちて飛び込んだ海は夜に繋がる孤独な夜の空を魚はおよぐ捕まるものかと追いかけて離れたくないと逃げだした下に上がって上へと下りたてんでばらばらに白波揺れる波のあわ立ちてすぐに消えゆく儚き夜の夢に似た人魚の哀歌揺られて踊る潮騒に騒ぎ立てられてこどもたち駆けた走らずにいられぬ衝動は太陽にも負けない輝きを放ちひかりは与えられたわたしの海に澄みわたる青さは涙にとけてこ . . . 本文を読む
ここだけで完結できることを否定するあなたの時の流れは光陰矢の如しなにもみえずに聞こえない声に耳を傾けることなど無駄でしかないと切り捨てた時代の流れは濁流と化して溺れる者ありシマの浮舟にたどり着いても癒されず常に襲われる怪しい影に追い立てられてシマを飛び出した怪しい影はじぶんの影に重なりて離れずわたしを急かす急いで行きたい場所なんかないのに影に追われてわたしは駆けるただ真っすぐに駆け抜けてシマはどん . . . 本文を読む
静かではあれども気配賑わう思い出の影にひそむ月夜とは異なる暗闇にまぎれた君の影探した影法師姿なきかたちを追いかけてたどり着いた末に滝ありき月明かりのぼりて日は沈む風と水の音だけがこだました森にすむ木霊(こだま)はさやさやとやさしいあなたの口真似てやわらかな思いは風に乗り歌声届けよ あの彼方までナイトメア眠れず朝は来る月のぼる空を待ちわびて悲しみに満ちた胸は黒色のここに夜はあるのに来ない夜月の影隠し . . . 本文を読む