よみびとしらず。

あいどんのう。

GREEN

2021-02-28 11:30:17 | 散文
みどり色に染め上げられたのはあなたの頬か感情か未熟な身体におさめられたものはもう泣かないと決めた悔しさと声をあげて泣き喚いた歓びと森の静けさは怒りや悲しみをとうに知っていた木の葉をはこぶ風もみどりに染まる頃あなたの頬も感情も他の色を知るこの身のみどりは保たれたまま真夜中にあるど真ん中わたしは揺らぐ青色の炎をじっと見つめてた . . . 本文を読む

シャッター

2021-02-26 10:54:44 | 散文
目を閉じた瞬間に全ての景色はみな一様に移り変わりて目を開いた瞬間にまた元の場所へと戻っていったもう二度と出会えぬ景色を色褪せていく鞄にしきつめたストロボをたいてシャッターはおとされる音の鳴る世界にある眼差しを音の無い世界に閉じ込めたのは人魚姫から声を奪ったのと同じ理由だと あなたは笑うわたしも似たような顔をしたかなしみもよろこびも その場所にはいっさい残らずにただ切り取られた一枚の静止画は追憶を連 . . . 本文を読む

バベル

2021-02-25 10:30:28 | 散文
ただの落書きとガラクタとぐちゃぐちゃになった涙と言葉と規則正しい不協和音と もて余すしかない感情と懺悔を繰り返しバベルの塔はさらなる高みへと傾き崩れ落ちたまま見えない壁は積み上げられてやがてあなたにたどり着くまで青い鳥はその塔で羽根を休めかりそめの宿とするただの透明な空間に取り残された あなたの記憶に風は吹きバベルは朝(あした)と夕べの二重螺旋を織りなした . . . 本文を読む

海の記憶

2021-02-24 11:37:26 | 散文
やがて海へたどり着いた幼子は初めての海にむせび泣くここは怖いと生まれ落ちてきた時と同様に海は帰っておいでと手をこまねいた幼子は海での呼吸をもう覚えていなくてさらに泣くまわりの大人たちは皆一様に笑ってた昨日から迎えに来てくれていたあなたを放置してわたしは海から離れて家路に着いたかなしみは海に置き去りにして漣(さざなみ)揺れる 本当に帰りたい場所は果たしてどちらであったのか迷うことすらしなかった幼子は . . . 本文を読む

山と女

2021-02-23 00:59:28 | 散文
その山を登る男の帰りを女は麓(ふもと)でずっと待っていた山は深く険しくそしてうず高く男はその山を登るしかないのだと勇む心で女は麓の庵から男の帰りを待ちわびるのだと強く静かな心根で男は女を思い女も男を日夜思いやっていた山を登る男の気配のそこかしこから女の気配は漂っていて山はそれを不快に思い男を拒んだ男はなおも登り続けた山は雪嵐となり女の気配を退けようとも女は退(の)かず男のそばに居座った山中の霧はい . . . 本文を読む

うみ

2021-02-22 08:29:09 | 散文
いたみとくるしみにさらされているわたしをどうか見ないでと遠ざけた波音はあなたの言い訳も涙も全てかき消して浜辺に取り残された亀はただひとり空を仰いで月を見たうずまいているのはかなしみとにくしみと憤(いきどお)ることすら絶えてなくなったわたしの笑顔には何の感情も残らずに肚の内側に耐える思いのみぞただ唯一の在処であったそんな場所を打ち砕く嵐に遭いてわたしの心はさらわれた一匹の蛇はわたしの目を見据えてわた . . . 本文を読む

千夜(ちよ)

2021-02-20 18:16:11 | 散文
穏やかな光を受けとめて むらさき色のひれのなか幼子は眠る青色の夜を待ちわびて月夜に荒い気性の狼どもは毛の逆立ちて遠吠えのmessageは隠された柔らかな光に包まれる彦星の行方を追いかけた機(はた)織る日女(ひめ)は手を休めていはく白妙(しろたえ)の衣はためく不確かな夜にひとおりふたおりいちばたの流れに身をゆだね道は分かれた水の跡にも夢の記憶をみどりさしたる夜の礎石(そせき)に苔むした彼方の思い出は . . . 本文を読む

きょうふ

2021-02-19 18:01:28 | 散文
腹をすかせて研ぎ澄まされてそれでも視界は変わらずに月を喰べた空の色はあまりに深く満ち足りて微笑んだあなたの影はいくつものわたしを覆いつくして夜は来る音のない笑い声だけがこだましたなにも感じなくなるまでにそれがまさしく正しいことだと思い違いも甚だしいと雷(いかづち)は空を割りわたしの真下に落とされた光に包まれて目は眩(くら)み世界は暗闇よりもさらに恐ろしいものへと変化する明るく賑わう朝の訪れにわたし . . . 本文を読む

ふうせん

2021-02-18 01:32:13 | 散文
ただふくらんで飛ばされたわたしの頬に似ていると笑うあなたも大きく大きくふくらんであの青色の空に重なったあなたに会いに行きたくていくつもの風船を空に飛ばした大きな思いに負けないように涙の色を空に託した風船は風に乗り届けどこまでも月の奥地に棲む兎は陽気にうたを歌い海の底にある悲しい人魚は枕を濡らして夢を見たたくさんの風船はこの世界にしきつめられて柔らかな感情は壊されることのないよう太陽は優しくわたした . . . 本文を読む

あい

2021-02-17 11:25:06 | 散文
愛の色染めた藍色は深みを増して海につながった愛しい子どもはたゆたいながら此処ではない場所ばかりを目指して途方に暮れる日の暮れた空に烏(からす)飛びその羽の色と同化した私は夜となるあいの色見失い戸惑う幼な子に矢は放たれて赤色の糸は結ばれたひとに夢を託していまはもう昔夢を託されたひとは夜な夜な悪夢にうなされるもがき走る道は暗闇に覆われた暗夜行路のその先の光にはかえらずの灯火(ともしび)かそけき明かりを . . . 本文を読む

仮面

2021-02-16 01:25:33 | 散文
夜のこわさに仮面をつけたのは眠れない夜をやり過ごすためこっちへおいでと手招く声に耳をふさいで諍(あらが)った涙で視界は滲(にじ)めども晴れわたる空の青さは知っていた恐怖は希望を飲み込んでそれでも時計の針は止まらない刻一刻と夜は明けて空とわたしは少しずつ明るさを思い出す夜は仮面をつけたままにっこり微笑み明日を導いたおやすみまたねと声のする仮面で素顔を隠した夜の本音は雲散霧消してまた新しい朝はやってく . . . 本文を読む

さやいし唄

2021-02-14 13:20:29 | 散文
しんしに手がけたお社は苔むしたただの石となりわたしはそこにいますよとウソをついてまで欲しがったのはあなたの流したきれいな涙雲は流れて霧(きり)晴れたそこにたたずむわたしの影には気づいてほしくなくて太陽は昇るからりと澄んだ空の青さと冷たい水に棲むわたしの心根はどうしようもなく同化してただひとつとて定まることのないお天気に私の心も重ね合わせようかひとりじゃないと知りながらただのひとりであるしかないとい . . . 本文を読む

かがち

2021-02-13 11:53:39 | 散文
反射するものの中に守られたわたしと同じ姿かたちのわたしと異なる明日に落ちたみずうみのなかに太陽は届かずかがんで俯いた瞳にある光は太陽に背きなお明かりを灯す薄紅にも夜の暗闇も何も見つからないと涙をこぼした水の明かりの眩(まばゆ)さを遠くで見つめたヘビはただひとりこの胸の痛みはひとりだからじゃないことをそんなことは知りたくなかったと眉をひそめた孤独に泣くのならどんなに幸せだったかとヘビは涙を知らぬまま . . . 本文を読む

ゆめ

2021-02-12 12:30:49 | 散文
ぬくもりのありかに手を伸ばしたなら夜の眠りは訪れてともしびは静かに夜に昇った開けた空は開かれて開け放した窓は風にゆらいだはためくカーテンに舞う花の香を思い出す間もなく夜は明ける明けて消えゆく夢の続きを喫茶店にて待ちわびた珈琲の香りは覚醒をうながし夢は彼方へと遠ざかる場所同じくして時(とき)重ならず伸ばした手のひらは空(くう)をつかむ食べられる筈もない雲の味をば重ねて夢見た日の当たる場所 . . . 本文を読む

2021-02-10 12:22:58 | 散文
目に穴は空いてその隙間に夜はまぎれ込むひとりは淋しいと眠れない夜に悲しみに寄り添ったひとりきりの朝(あした)太陽は昇り夜とは異なる瞳は開けた同じ身体から見た別々の景色を誤魔化すために夢は現れたそれすら忘却しわたし自身は守られる目に空いた穴は胸の内側まで落ち込んだそうとは知らずに何も見えぬまま目の前にあるのは光あふれる日常と掌(たなごころ)握りしめて歯を食いしばる現在(いま)感情に耳をすませば打ち砕 . . . 本文を読む