<壱>
あたたかなひの微睡みに
まるまりかどとれ水したたる
火の鳥を背に負い東へと向かう
赤き血潮は地のともしび
水は血となり地を染めかためて形(かたち)成す
<弐>
火の鳥は先に発ちなお私の背後にあり
ななめにのびる影法師は私から逃げ出した
影から影へと
足から足へと
踏みつけ(られ)た足は拡大し影法師を追う
火の鳥と反対方向を目指す影法師の行く末は?
火の鳥は東へ
影法師は西へ
. . . 本文を読む
闇夜鴉に願いは託された
月のない夜に梟の目は瞬きもせず
眼識をもって世界を見つめる
水の底沈んだ語り部は未だ目覚めず
胡蝶の夢は空を舞う
絶えることのない思いは堆積し
世界は苦しみも温もりも知っている
尽きることのない感情とともに
朝日に向かって風は吹く
そして風入り乱れて乱気流となり
あなたはどこまでも どこまでも
イカロスの羽ももたずに飛び立ちて
母なる海はすべてを受け入れる
いまは . . . 本文を読む
重なり合わなかった手のひらを
それでもあなたは重ね合わせようとしました
そんなあなたが寂しさに満ちてしまわぬよう
ネズミが我が衣を盗んでいきました
ネズミの抜け道は落ち葉の重ねに
こんこんと湧き出(いづ)る水は人知れずさやさやと
あたたかな日の恵みは透明なひかりを放ち
人里なくとも木立(こだち)色を染め
我が衣は森に同化して行方も知れず
「懐かしき景色は抗いがたく」
飛べない羽衣も風を纏い . . . 本文を読む
このやわらかく脆い思いにかたちを与えると
そのすがたは涙となった
だれかがこぼした大粒の涙は海となり
生きとし生けるものの母となる
さあ海を見にいこう
傷ついた涙からうまれた私たちの故郷は
コワレモノのあなたとおなじ色
こわれたいのちの故郷は
決してこわれぬ青い海
あの海とおなじちからをその目に宿した
あなたは力強いあなた
この世の汚れに染まらずとも
この世の汚れに染まろうとも
あなた . . . 本文を読む
どうか私に謝らないでください
あれだけ傷つけておきながら
なお許しまで乞わないで
私は許さなくてはならなくなるだけなのに
この苦しみや痛みなど
あなたには何一つたりとも
さらに傷口を押し広げるが如く
あなたは私に謝罪する
どうかごめんね許してと
深く反省していますだから元の通りにこれからも
元の通りにこれからも
許さなくてはなりません
私に傷や苦しみなどはありません
なにも傷ついてなどおりませ . . . 本文を読む
光をうけとめるハズの手は硬く拳をにぎり光は闇へと変化する
にぎられた拳はたなごごろ開きその闇に触れる
しばしその場で待たれよと
居待ち、立ち待ち、月は移ろう
水の恵みを分け与えた地球の双子星
寝待ち、更け待ち、時は移ろい
逆さまの八の字にヘビは重なる
表と裏の一体は朝焼けの海を思い出し
日の光に目眩まし姿欠け
ウロボロスは自らの尾を噛み千切り宵を待つ
くだけた尻尾は千の星となり
海を眺める . . . 本文を読む
もう誤魔化さなくていいんだよと云う悪魔のささやき
泣き笑い顔でかわしたらいつもの誤魔化しアブラカタブラ
本当のことなんて口にできるはずもない
本当のことなんて素直になるなんて
誤魔化して気を張って強がってフタをして
微笑んでよろこんで同意して猿芝居
噛み潰した苦虫の置き場なくやり場なく
死骸は腹にたまって消化不良
鏡のなかのあいつはいつも顔色悪く
自分の顔なんて疾う(とう)に忘れたとつぶやく私の姿 . . . 本文を読む
部屋に亀がいるのに弟がお土産で買ってきたへんな液体を亀にかけたから、亀の姿が見えなくなった。
わたしは亀の絵がかきたいのに。
母にそう抗議すると母はまた別の液体を亀にかけた。すると亀の姿はちゃんと現れた。亀は大きさをかえる、これは小亀のあいだだけの特徴なんだろうか。姿を現した亀は手のひらサイズの大きさから500円玉サイズまで小さくなっていて、大きくなるときはポンと音が鳴ったまるで蓮の花が花開くとき . . . 本文を読む
カメ、囲め
囲んだカゴメ
カメの目カコの目
戒めたダレかが噛みしめた
籠の目の奥のスキマから
大切なものは海に沈んだ
蓄積されていく記憶も没した豊饒の海は
知らん顔きめこみ地球を巡る
懐かしい気持ちにもフタをして
水の片割れは月に住み
カメとウサギは対をなす
ウサギは跳ねた
急ぎ急いで海を渡る
陥没した地面にカメがおちないように
囲んだカゴメに月おちて
カコの目沈んだ昼下がり
時の軸歪んでくるり . . . 本文を読む
息を吸って 吐いて
太陽の子を吸い込んだ
吐き出す場所はどこにある?
うつ向いた先にある土の上
見上げた彼方の夜の空
吐き出す姿は月の子か
清らかな水の流れに身をゆだね
水中に吐き出されたかそけき光は
湖面から外へ昇るすべなく
湖底へ沈む勇気もない
ふわふわと漂うあいだに水は日照り
貝は化石となり山に登った
光は光に照らされて
誰の目にうつることなく迷い子のまま
ふわふわと漂いその眼前には誰か . . . 本文を読む
もういやだ聞きたくない顔も見たくないと
目を背けた太陽の子に差し伸べられた手は誰の手か?
暗闇から伸びたその手をつかもうとする太陽の子に
必死でしがみつくキツネの子
周りはテキに囲まれて
トリはその中に怪鳥を送り込む
故郷(ふるさと)に似た島国に怪鳥はなにを思うのか
水の調べに怪鳥は癒されて女神は本来の姿を取り戻す
暗闇に続く坂道に
取り残されたのは誰かの欠片 希望の在処
満月の日に欠けたもの . . . 本文を読む