黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院の態勢は詐欺的です(by東京大学教授)

2013-01-30 19:00:44 | 法科大学院関係
 第5回法曹養成制度検討会議の議事録より(27~28頁参照)。

○井上委員
 1点だけ。基本的な情報は,入試のパンフレットというよりは,各校の基本的な情報は開示するようにと,そういうことになっていまして,認証評価でもその点はチェックされます。それと今の御前提では,学生はだまされて入ってくるんじゃないかということなんですが,私はロースクールをずっと回って学生にも直接インタビューするんです。学生は基本的な情報は十分知っています。十分知っていて何で入ってくるのと,こういういやらしいことを聞くんですけれども,自分が努力すれば自分だけは別だろうと,こういう感じの人がいて,態勢は詐欺的かもしれませんが,被害者は詐欺に遭っていない。ちょっとここのところはまずいんですけれども,情報は十分彼らも知っています。
○田島委員
 それは詐欺に遭ったというのをやはり気づくのが遅いんですよ。三振した後で気づくわけですから。
○佐々木座長
 お話は分かります。議論をするのは構いませんけれども,とにかく組織の見直しの話との関係で,ちょっと今はそっちに時間がないものですから,限らせていただきたいんです。(後略)

 このブログでも,法科大学院は詐欺のようなものだ,という趣旨のことは何度も書いてきましたが,いまや国の公的な審議機関でこんなことが議論される時代になりました。しかも,委員の中でも井上委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)や佐々木座長(学習院大学法学部教授,東京大学名誉教授)など,明らかな法科大学院推進派とみられる大学教授までが,法科大学院の態勢は詐欺的であると自ら認めている。それでも法科大学院制度はやめようとしないのです。
 日本は,不合理な規制でがんじがらめになっている分野が多く,規制緩和の必要性が叫ばれて久しいですが,これほど不合理性が明らかになっているにもかかわらず廃止されない「規制」というのも,ある意味珍しいでしょう。

 井上委員も指摘しているとおり,各法科大学院の基本的な情報(各年度の入学者数,司法試験合格者数など)はパンフレットなどで開示することになっており,各法科大学院もこのような基本情報について嘘をつくことはできません。そのため,平成22年度以降司法試験の合格者数がゼロとなっている姫路獨協大学法科大学院は,さすがにどう言い繕っても学生を集めることができず,いち早く募集停止に追い込まれたわけです。
 ただし,将来の見通しなど不確実な事項については,法科大学院関係者は平気で「嘘」をつきます。
 法科大学院制度の発足当初は,まだ制度そのものがあまり一般に知られていなかったことから,学生から「法科大学院とはどのような制度ですか?」との質問を受けると,「修了した者の7~8割が法曹になれる制度です」などというあからさまな「嘘」をついて学生を集めているところもあったそうです。
 もっとも,司法試験の合格率が実際には2割台にとどまっており,さすがに今ではこのような「嘘」は通用しないだろうと思いますが,代わりに今ではこのような「嘘」が使われているようです。

「たしかに,今の司法試験は合格率2割台にとどまっている。しかし,各法科大学院による厳格な入試選抜等の結果,昨年(平成24年度)の法科大学院入学者は全体で3,150人となっており,今年(平成25年度)は3,000人を下回ることがほぼ確実視されている。そして,各法科大学院における厳格な修了認定により,実際に標準年限で修了できる者はおそらく2,000人を下回るだろう。そして,司法試験の合格者数は年間約2,000人程度で推移しているから,数年後には修了者のほとんどが司法試験に合格できることになる」

 この説明は明らかな「嘘」ですが,基本的な数字のデータは間違っていません。何が間違っているかというと,

①司法試験は5年間で3回まで受験することができ,当然ながら過年度の修了者も多数受験するため,仮に平成25年度入学者のうち2,000人弱しか修了しなかったとしても,直ちにほぼ全員が合格できるような試験にはならない。
②平成25年度入学者が法科大学院を修了する頃には,おそらく予備試験の合格者数も増えており,司法試験の上位合格者層のうちかなり部分を予備試験合格者が占めるようになるため,予備試験を経ない法科大学院修了者が司法試験の上位に食い込むのは,数年後にはかなり難しくなると予想される。
③現在の司法試験は合格者本人に成績と順位が通知され,就職活動時にも順位は当然問題にされる。現在の法曹界は明らかな供給過剰状態にあるため,上位200番くらいに入らなければ法曹としての就職は難しい。また,司法試験合格時に30歳を超えるような高齢者は,司法試験の順位にかかわらず就職は難しい。
④現に,平成24年に司法修習を終えた65期修習生のうち,約4分の1は弁護士としての一括登録ができなかった。また,正確な実数こそ不明であるが,弁護士登録した人のうち少なからぬ数が「ノキ弁」「即独」といった経済的基盤の極めて弱い状態での開業を余儀なくされ,しかも法科大学院時代に作った多額の借金を抱えていることから,その多くが数年のうちに実質的廃業を余儀なくされると予想される。こうした傾向が数年後にはさらにひどくなるだろうというのは,法曹関係者におけるほぼ一致した認識であると言って良い。

こういった法曹界内部の実情にひたすら目を背けていなければ,このような議論は成り立たないということです。

 また,これも法科大学院制度の発足当初からみられた現象ですが,実際に法科大学院へ入学しようとする人の中には,厳しい数字のデータを見せられても,「しっかり努力すれば自分だけは別だろう」などと安易に考える人が非常に多いです。
 おそらく,法科大学院側も「実際に修了できない人,三振するような人には勉強を怠けている人が多い。しっかり努力して勉強すれば,司法試験の上位200番以内に入ることはそれほど難しいことではない」などと一生懸命宣伝しているのでしょうが,世の中にはこうした宣伝に騙されやすい人も結構いますから,こうした嘘にひっかかる人ばかりが法科大学院に入ってくるような構図になっているのでしょう。
 さらに,こうした「嘘」の宣伝主体が大学や大学教授であるというのも見逃せないポイントです。世間で幅を利かせている詐欺まがいの商法では,顧客を信用させるために大学教授の名前を利用している例が多く,ましてや大学そのものが宣伝主体となっているのであれば,まさか権威ある大学教授たちが嘘をつくはずがない,と信じてしまう人が出てくるのも無理はないでしょう。
 しかし,大学教授たちの言っていることが本当に正しいのであれば,原発事故などは起きなかったはずです。ましてや,法科大学院制度については,冒頭で引用したとおり最も権威ある東京大学の教授や名誉教授までが詐欺的だと言っているのですから,いまどき法科大学院に入学するのは誰がどう見ても誤った選択なのです。実際に法科大学院を出て弁護士になった人の中にも,市民集会で法科大学院に行く価値について問われ,「お金と暇のある人は行った方がいいと思います」と答えた人がいるそうですが,もちろんそうでない人にとって行く価値はないという意味でしょう。

 法科大学院制度のモデルとなったアメリカのロースクールも,お金のない人は見向きもしない進路であるとみなされているそうですが,日本では法科大学院に行かなくても予備試験を経て法曹になることができ,しかも現役の法曹にとっては,法科大学院修了者ではなく,若くて地頭の良い予備試験合格者こそが「喉から手が出るほど欲しい」人材なのです。
 今後は予備試験の合格者数も増やすことが予定されていますから,おそらく数年中には予備試験合格者でなければ法曹として評価されない時代が到来するでしょう。そのような時代の到来を見越して,既に法科大学院へ入学した人の中にも予備試験に挑戦する人が増えています。法曹になりたいのであれば予備試験を受ければ良く,アメリカのロースクール以上に日本の法科大学院は無意味な存在なのです。
 昨年の適性試験受験者数から推測すると,今年も2600人前後の学生等が悪質な国営詐欺に引っかかって法科大学院に進学してしまうのではないかと危惧されますが,法科大学院を修了して得られる「法務博士」という学位は社会的に全く評価されておらず,いたずらに年齢を重ねてしまうだけであることから,司法試験に合格するか否かにかかわらず,将来の就職にあたり「法科大学院修了」はマイナスの効果しか生みません。
 これ以上の犠牲者を出さないためにも,学生や社会人の皆さんには法科大学院に「行かない」こと,学生等の子や孫を持つ皆さんには,可愛い子や孫を法科大学院に「行かせない」ことを引き続き強く訴えたいと思います。

8 コメント

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Unknown (xyz)
2013-01-30 21:05:41
このままいくと弁護士業界だけじゃなくて、司法制度も崩壊しかねないので、さすがにそろそろ政治家が何とかするんじゃないかと思っていますが、甘いでしょうか。文科省と大学のちっぽけな利権と司法制度を天秤にかけたらどっちが重要かはあほでもわかります。
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Unknown (Unknown)
2013-01-30 21:59:05
その自己保身に終始して自らの社会に及ぼす害悪を顧みない所業がすでに大きな非難を受けている件の大学教授たちが,この段になって自分たちの所業を詐欺的だと論じ合ってなお改めることをしないこの事態は,今の時代のこの日本で本当に起きていることなのでしょうか。本当にこの国は,行き当たりばったりで始めて,いったん始めてしまったものをやめるのは死んでいった英霊に申し訳が立たないからと引き返しができず,現場を知らない大本営を頂点とする馬鹿の4乗がさらに泥沼へと引きずり込んで夥しい人命と血税を無駄にしたあの戦争を経験したのでしょうか。しかも今の悲劇は理性を代表するはずの者たちによって主導されている。こんなことをしている間にもどんどん血は溝に流れ,金は大学に流れていく。こんなことがいつまで。
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Unknown (Unknown)
2013-01-30 23:09:25
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52002256.html

こういうグラビアを出せば,適性試験出願者が増えるのだろうか? 立命館ローの出願者が増えるのだろうか?

ロースクール推進派の考えていることは…。

菊間千乃もやればいいのに…。
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Unknown (Unknown)
2013-01-30 23:14:22
>夥しい人命と血税を無駄にしたあの戦争を経験したのでしょうか。

Wikipediaで調べてみたところ、井上、鎌田先生は戦後生まれですね。佐々木氏も3歳で終戦なので、覚えていないのでしょう。

結局、戦争を知っている世代がいなくなって、日本人のモラルが低下したのではないですかね?(こういうことを書くと右翼っぽいですが、私は護憲派、あくまで推測で述べているだけです)。
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Unknown (Unknown)
2013-01-30 23:32:16
>私はロースクールをずっと回って学生にも直接インタビューするんです。学生は基本的な情報は十分知っています。十分知っていて何で入ってくるのと,こういういやらしいことを聞くんですけれども,自分が努力すれば自分だけは別だろうと,こういう感じの人がいて,態勢は詐欺的かもしれませんが,被害者は詐欺に遭っていない。

これは、東大ロー生へのインタビューだからまだ何とかなっているだけじゃないのかなあ・・・
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Unknown (詐欺的被害にあっている下位ロー生)
2013-01-31 13:28:34
現在広島修道ローに在籍しているものですが、広島修道の授業や成績評価の仕方の詐欺的レベルは常軌を逸した状態あります
あれはもはや犯罪に近い行為だと思います
他の下位ローももしかすると似たようなものかもしれません
たとえやむなく法科大学院に進学するとしても
広島修道のように理不尽に留年率や退学率が非常に高く、
また、明らかに法曹養成をする能力を欠落した教員が、教壇に立っているような下位ローへの進学は
自殺志願者以外いくべきではないと思います
本当に被害は甚大です
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Unknown (Unknown)
2013-01-31 18:48:38
私も詐欺の被害者です。
既に駿河台大学法科大学院を卒業し、受験資格を得たものの中身がありません。
入学して3か月ほど経った頃、詐欺だと気が付きましたが入学してしまったので受験資格欲しさに、詐欺だとわかってて苦労して貯めた貯金を学費に費やしました。
ドブにお金を捨てる思いでした。
当然、ある教授に直談判をしたところ、理不尽な対応も受けました。
受験資格のあるうちは、何とか勉強を続けたい思いで訴えたい思いをこらえています。
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Unknown (Unknown)
2013-02-01 13:03:29
広島修道 法科大学院はね
もう本当にかなわんですわ
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