テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

シッピング・ニュース

2006-09-20 | ドラマ
(2001/ラッセ・ハルストレム監督/ケヴィン・スペイシー、ジュリアン・ムーア、ジュディ・デンチ、ケイト・ブランシェット、スコット・グレン/111分)


 叩かれて成長する人もいるが、概ね人間は褒められて大きくなる。煽てられて成長する子供時代に親からダメ人間の烙印を押されるほど辛いものはない。その後の人生に大きな影響を与える。そんな、親に『お前はダメなヤツだ』と言われ続けた少年時代を持つ男性がこの映画の主人公クオイル(スペイシー)だ。おまけに、泳げもしないのに親父に海に放り出され危うく溺れかけたという経験も持っている。
 学生時代に幾度かは陽の目を見ることはあったが、最終的には短大を中退。内気なクオイルは新聞社の片隅でインク係として生計を立てていた。

 ある日、通りがかりに見かけた派手な女性ペタル(ブランシェット)に声を掛けられ、食事をし、誘われるままにベッドに入る。『あんた、最高よ!』。忘れていた褒められる快感。
 “子宮で考える”というよりも、身の処し方は全て“ヴァ×ナで決める”ようなペタルにとって最悪な事に、この時彼女は妊娠してしまう。
 親は無くとも子は育つ。赤ん坊は6歳の少女になっていたが、相変わらず母はパンクなスタイルで男漁りを続けていて、父親は成人後の自分を褒めてくれた唯一の女性を捨てきれず、黙々と地味な仕事と子育てをやっていた。

 クオイルの会社に遠方に住む父親から電話が入る。仕事中に入った電話は全て留守電になり、昼食時に再生するシステムだ。
 『父さんだ。苦労ばかりのつらい人生だった。お前に期待もできそうにないので、母さんと二人この世を去ることにした。葬式の手配は葬儀屋に頼んでおいたから、お前は心配しなくていい。・・・』

 葬儀を済ましてクオイルが家に帰ると、今度は娘バニーを連れてペタルが家を出ていた。
 クオイルが警察の情報を待っている頃、クオイルの叔母アグニス(デンチ)が現れる。父親の異父妹だ。彼女に父親の遺骨を見せていると警察から連絡が入る。スピードの出し過ぎか、ペタルは男と一緒に車もろとも川に落ちて死んでいた。幸いバニーは事故車に乗っておらず、無事に保護される。警察の話では、ペタルは娘を養子縁組のヤミ組織に6000ドルで売り飛ばしていて、残っていた領収書からバニーを突き止めたらしい。呆然とするクオイル。無邪気に母親を探す娘にどう説明して良いか分からないクオイルは、ただ泣き崩れるばかりであった。
 途方に暮れるクオイルにアグニスがこう言う。『私はこれから故郷へ帰るつもりよ。あなたも一緒にニューファンドランド島へ行きましょう』

 カナダの東海岸、北大西洋に浮かぶニューファンドランド島。初めて訪れる父親の故郷。5月だというのに辺り一面雪と氷に包まれた凍てついた大地。そこには、彼の人生を大きく変える出来事が待っていた・・・。

*

 映画サイトの紹介では、<ピュリッツァー賞と全米図書賞をダブル受賞したE・アニー・プルーの世界的ベストセラー小説を、「サイダーハウス・ルール」「ショコラ」のラッセ・ハルストレム監督が映画化したヒューマン・ドラマ。絶望の淵に沈んだひとりの中年男が、移り住んだ小さな漁港での日々の生活を通して自らを取り戻していくさまを丁寧な筆致で描いていく>となっている。つまり、先に紹介した部分はプロローグ。物語としての期間は長いんですが、名匠らしく要所を押さえて簡潔に紹介しておりました。

 クオイルはその地で新聞社の社員募集に応募し、新米記者として雇われることになる。インク係程度の仕事を予定していたのに、募集は記者だから港湾に関する記事を書くように言われる。【原題:THE SHIPPING NEWS

 ただのインク係だったクオイルが記者として認められる事により、子供の頃からの内気な殻を少しずつ壊していく過程が一つの軸となっているわけですが、それ以外にも、アグニスや島で出会った未亡人ウェイヴィ(ムーア)など、いずれも曰わくありげな雰囲気で、彼女らとの関わり合いの進展具合も興味を引くところであります。

 更には、彼ら一族の名を付けたクオイル岬に立つ父とアグニスの生家。クオイル達はそれを改装して使うが、そこにも不思議な出来事が起こり、クオイルは祖先に纏わる忌まわしい話を知ることになる。

 いかにもハルストレム監督らしい文学的な匂いのする作品で、クオイルの夢や幻想の映像もスムースに受け入れられる。
 曰わくありげな雰囲気は、凡庸な監督では“勿体ぶった”印象になったり、小手先を弄し過ぎて先読みされたりするものですが、この監督は少しずつ裏切ってくれるし、程良い緊張感が心地よいです。この映画、回数を重ねるほどに味わい深くなる感じがしますな。

 多分とても面白いだろう原作の数あるエピソードを上手く繋げて、この監督らしい“小団円”(十瑠注:地味な大団円という意味)にまとめ上げた脚本は「ショコラ」と同じロバート・ネルソン・ジェイコブス

 見終わって最初の感想は、『スペイシーはとても上手いんだけど、出来ればトム・ハンクスで観たかった』。「フォレスト・ガンプ」の頃のトムにぴったしの主人公だと思いました。但し、プロローグの親に電話でサヨナラされる惨めな役はスペイシーの方が似合ってるかな(笑)。
 ジュリアン・ムーアは今まで美人だと思ったことが無かったんですが、これは憂いがあって綺麗だった。
 新聞社のオーナー役だったスコット・グレン。渋さに磨きがかかって、今回はダメ男を再生させるという儲け役でした。

 2001年のゴールデン・グローブ賞では、男優賞(スペイシー)と音楽賞(クリストファー・ヤング)にノミネートされたようです。

 今回はネタバレ記事は無しです。後日、ひょっとしたらあるかも・・・。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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10 コメント

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レナ・オリンのダンナさま、ハルストレム監督! (viva jiji)
2006-09-21 09:19:28
大好きな作品です!

ハリウッドに進出してからネーム・バリューのある俳優を使って少々ハレストレム独特「毒気テイスト」がライトになってきた感はありますが1作ごとに色合いの異なる秀作を発表し続けている好きな監督。本作はプルーの原作「港湾ニュース」がまたすこぶるいいんですわ。「ブロークバック~」も彼女ですね。

私が忘れられないシーン5つばかし。

*溺れるシーンは目をつぶります。

*ジュディ・デンチのアレの上にオシッコ。

*コロとロープで家を移動するシーン。

*「IBM・・・IBM」(笑)

*もどかしくも熱いスペイシーとムーアのラヴシーン。

T・ハンクスにスペイシーのエロさは出せない。(笑)しかし、ブランシェットは“やるぅ~~~”!
viva jijiさん (十瑠)
2006-09-21 10:06:28
そうそう。「ブロークバック・・・」も同じ原作者らしいですね。あぁ、女性なんですか。

どうりで。暴力夫を惨殺した女性にデンチがエールを送ってましたが、あのアグニスも哀しい性を背負ってましたねぇ。



>しかし、ブランシェットは“やるぅ~~~”!



最初は「ロード・オブ・ザ・・・」のお姫様とは気付きませんでした。レナ・オリンがも少し若ければやれそうな役でしたね。



実は“「IBM・・・IBM」”のシーンでトムが浮かんだんです。記者の先輩にヘッドラインを教わるシーンが好きですね。
TB、感謝です! (カゴメ)
2006-09-25 11:56:42
この目立たない、地味(滋味)な作品のレビューにお目に掛かれるとは。

とてーも嬉しいであります♪



>但し、プロローグの親に電話でサヨナラされる惨めな役はスペイシーの方が似合ってるかな(笑)。



スペイシーは囚人服を着たら一級なんですが(笑)、

残念ながらこの作品では刑務所に入らないので、

今一つ、物足りないかも、です(苦笑)。



>ジュリアン・ムーアは今まで美人だと思ったことが無かったんですが、これは憂いがあって綺麗だった。



天下一のアンニュイ女優ですからね(笑)。

憂鬱げな女性を演じさせたら、ストリープの上を行くかも。

ケイト・ブランシェットも芝居の上手さを発揮してましたね。
ジュリアン・ムーア (十瑠)
2006-09-25 22:39:42
へぇ、アンニュイ女優という範疇にあるんですか。

「ロスト・ワールド」とか「レボリューション」では活動的な役だったような気がしますが。

色々な役が出来るっていうのも魅力ですよね。
イジワル先輩記者役の (vivajiji)
2011-01-04 15:34:22
ピーター・ポスルスウエイト亡くなりましたね
まだ60代。
個性的で特異な風貌で巧い男優さんでしたが、
けっこうご贔屓だったもんですから残念です。
(合掌)
個性的な風貌 (十瑠)
2011-01-05 10:11:27
顔はすぐに分かったのですが名前までは覚えてませんでした。
この作品にも出ていたのですか。
意地悪がお似合いですよね。
もう少しお年を召すと、もっとイイ味の好々爺も出来たのに、残念な事でした。
合掌
冒頭は怒涛の展開なのに (宵乃)
2011-01-12 11:30:14
上手くまとまっていて、疲れることも頭が混乱する事もないですよね。後からフラッシュバックなどで繋がって、土台がしっかりしているから現実離れした部分も難なく受け入れられました。
さすがハルストレム監督。昔観て忘れかけている「サイダーハウス・ルール」も再見したくなってきました
宵乃さん (十瑠)
2011-01-12 14:34:42
「翼よ、あれが巴里の灯だ」を観た時に、この映画を思い出しました。
アメリカ大陸を離れる辺りが、確かこのニューファンドランド島だったかなぁと。
気候が厳しいけど物語の最後は暖かい気分になれましたね。
シッピング・ニュースで2度目 (bamboo)
2011-01-20 15:02:59
『最近の訪問者』にカウントされたら何かメッセージを残さないといけないかなと・・・。gooにはこんな怖ろしい見張りも備わっているのですね(笑)。
昨日オンエア~されたので数年ぶりに再見。初回はジュリアン・ムーアの追っかけで観ました。

ここを訪れて、「ブラス」と「父の祈り」で印象に残っていた亡き俳優、ピーター・ポスルスウエイトの名前を心に刻み直しました。
ペタルをブランシェットが演じていただなんて!まさに畏るべしかな。
これじゃあデンチも顔負けかもしれません。

「ブローク・バック・マウンテン」と原作者が同じなのは、どちらにもホモセクシュアルを登場させていることからも伺えますね。

>曰わくありげな雰囲気は、凡庸な監督では“勿体ぶった”印象になったり、小手先を弄し過ぎて先読みされたりするものですが、この監督は少しずつ裏切ってくれるし、程良い緊張感が心地よいです
同感でした。

最後になりましたが、画像に文字を回り込ませるタグを上手に使えるようになりました。
ありがとうございました
33bambooさん、いらっしゃいませ (十瑠)
2011-01-20 19:25:30
>gooにはこんな怖ろしい見張りも備わっているのですね。

ハハハ。「gooあしあと」の事ですね。
33bambooさんも登録してあるようですけど、使ってはいらっしゃらない?
見張りなんてモノじゃなくて、どのページが人気があるかとか、どんなキーワードでネット検索されてるかとか、そんな事が“一応”分かるみたいです。最近はさっぱり監視結果は見に行かずにいますけどネ。

ピーター・ポスルスウエイトの事、印象に残ってないので再見したいんですけど、まだ時間が作れません。いずれにしてもイイ映画ですもんね。

あっ、あしあとがあってもコメントを強要する事はありませんよ。(笑)

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