テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

フレンチ・カンカン

2006-09-23 | コメディ
(1954/ジャン・ルノワール監督・脚本/ジャン・ギャバン、フランソワーズ・アルヌール、マリア・フェリックス、フィリップ・クレイ、ミシェル・ピッコリ、エディット・ピアフ/102分)


 今から30数年前、その頃読んでいた映画雑誌「スクリーン」の記事で、世界中の批評家100人が選ぶ映画史上の歴代ベスト10というのがあった。ベスト1は「市民ケーン」。その他は(記憶では)「野いちご」「81/2」「戦艦ポチョムキン」「ゲームの規則」「大いなる幻影」「天井桟敷の人々」「生きる」「気狂いピエロ」「情事」。

 この中で「ゲームの規則」と「大いなる幻影」は同じ監督だ。フランスのジャン・ルノワール。多分、この記事がルノワールを意識した最初だと思うが、「」「恋多き女」「どん底」など双葉さんの本でもルノワール作品はどれも高得点だった。いつか観たいと思い続けて30有余年、念願叶ってやっとこさ逢うことができました。

 ジョン・ヒューストンの「赤い風車」でもお馴染みのパリの社交場“ムーラン・ルージュ”。これが企画されて、紆余曲折ありながら創始者の人徳でなんとか出来上がるまでが物語の背景になっていて、ラストでは初日の“フレンチ・カンカン”が絢爛豪華に披露される。

 主演のジャン・ギャバンが扮するのは、“ムーラン・ルージュ”の創始者ジドレルがモデルだというダングラール。いわゆる寄席劇場の経営者であるが、女性にももてる中年のパリジャンだ。その彼が、カフェで見かけた洗濯屋の娘二二(アルヌール)の踊りの上手さに惚れ込み、彼女を使って昔流行った“カンカン”踊りを復活させようと思うところから物語は始まる。

 ダングラールには寄席のスター踊り子ローラという愛人がいるが、ニニにご執心の彼を快く思わない。また、ニニにはポーロというパン職人の幼なじみの恋人がいて、ポーロもニニが踊り子になるのに反対だ。
 ニニ以外にも大勢の踊り子を募集して、“ムーラン・ルージュ”の建設に邁進するダングラールだったが、ローラとニニの逆“恋の鞘当て”やポーロの嫉妬でダングラールが大怪我、更にはローラをものにしたいダングラールの後援者が新劇場への出資を中止したりと次々と難題が降りかかってくる・・・。

▼(ネタバレ注意)
 ニニにはパリに滞在中の中近東の王子も夢中になり、新劇場への資金を提供、彼女にプロポーズをする。ところが、ローラがダングラールとニニが愛人関係である事をバラした為に王子は自殺騒ぎを起こす。
 一命を取り留めた王子は、ニニとパリでの思い出作りのデートをする替わりに新劇場の権利を譲り去っていく。

 こけら落としの日、ダングラールが発掘した新人歌手に嫉妬したニニがショーに出ないと騒ぐ一幕もあるが、最後は『ショー マスト ゴー オン!』。この辺りはハリウッドもパリも同じようであります。
▲(解除)

 ルノワールの語り口は滑らかで癖が無く分かりやすい。物語は前述の通りでどうということはないのですが、終盤のカンカン・ショーと舞台裏の椅子に腰掛けて客の歓声を聞いているダングラールのカットバックは、ショービジネスの淋しさと密かな楽しみを滲ませて味わいがありました。
 特筆すべきはカラー撮影の画作りですな。
 全編“ムーラン・ルージュ”の絵でお馴染みのロートレックを思わせる映像のオンパレード。流石、フランス印象派の巨匠オーギュスト・ルノワールの息子さんであります。
 “ムーラン・ルージュ”の室内だけではなく、それ以外の街角のカフェのシーンなんかでも色使いや構図がロートレックの雰囲気充分で、その他のシーンでもセザンヌやユトリロの絵画を思わせる映像があり、時々DVDの再生を止めて観たくなりました。
 撮影はミシェル・ケルベクロード・ルノワール。このクロードさんは、監督の甥のようです。全編セットによる撮影との事でした。

 尚、ギャバンとアルヌールは翌年の「ヘッドライト」でも年の差のあるカップルで共演。全然ムードの違う話ではありますがネ。

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう、私は二度見ましたが】 テアトル十瑠

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8 コメント

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「ヘッドライト」は・・ (anupam)
2006-09-24 01:08:33
素晴らしい映画でしたね~ファザコンの私としては、ものごっつ萌える映画でした。



ところでちょっとニュース、ご存知かもしれませんが「チップス先生さようなら」10月2日か3日にNHKのBS2で放映されるそうです!ぜひ見てね~~
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筈見有弘 (オカピー)
2006-09-24 03:11:08
その記事は私も鮮烈に憶えていますよ。早く亡くなられた筈見有弘さんの記事ですね。彼は父親が双葉さんと同じくらいの年齢の映画批評家でしたし、奥さんもまだまだお若い渡辺祥子さんですよね。



当時まだ駆け出しでしたから、そこに載った作品を見たくてうずうずしましたが、実際に観られるようになったのはもう少し後東京の大学へ進学し、フィルムセンターなどに通い始めてからですね。「市民ケーン」だけはNHK教育で観た記憶がありますけど。

その他「キートンの将軍」「チャップリンの黄金狂時代」などもあったはずです。



「フレンチ・カンカン」はそのフィルムセンターで見ました。ルノワールにしては珍しく娯楽性が高い映画ですよね。「河」などは双葉さんも通常の映画を観る尺度では語れない作品と述べていますし、所謂純文学映画が殆どですから。
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「ヘッドライト」はネ・・・ (十瑠)
2006-09-24 06:58:53
実は途中までしか観てないんですよ。TVでしたけど。

いつでも観れるという安心感はありますね、名画ですからレンタル出来るし。



えぇーっ!

だけど、「BSオンライン」には出てないですねぇ。

予定外で放送されるのかな? 楽しみ!

ありがとうね。anupamさん。
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オカピーさん (十瑠)
2006-09-24 07:10:51
筈見有弘さんと渡辺祥子さんはご夫婦だったんですか。知らなかった(又は、忘れていた?)。



>その他「キートンの将軍」「チャップリンの黄金狂時代」などもあったはずです。



なんか、そんな気も・・・。でもコレをいれると10本を越すなぁ。同点10位が3本あったのか、それともベストテン外もあわせて記憶していたのかなぁ?



「キネマじゅんぽお」さんの記事を読んでも、ルノワールって難しいみたいですね。「フレンチ・カンカン」は分かり易くて安心したんですが。
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ベスト20 (オカピー)
2006-09-24 14:32:18
ベスト20だったのではないですかねえ。だから、十瑠さんの挙げた作品は全て挙がっているはずですよ。

ここには入っていなかったかもしれませんが、アラン・レネの「去年マリエンバートで」が記事に取り上げられていて、これも観たかった作品(その後勿論観ました)。



ルノワールは、ベルイマンもフェリーニもレネも好きな私のような人間の問いにもなかなかきちんと答えてくれない監督です。「ゲームの規則」は三度目で突然ピンと来たのですが、「大いなる幻影」はまだ完全には把握できていない気がしています。

「河」「恋多き女」「黄金の馬車」もまだまだ解らないです。
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レネさんは・・・ (十瑠)
2006-09-24 21:28:39
「去年・・・」しか観てないですが、苦手のタイプのような気がします。「二十四時間・・・」がもうすぐBSであるんで、レネさんに再チャレンジの予定です。



「大いなる幻影」はレンタルにあるので、予定に入っております。一番興味があるのは「河」ですけどね。
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はじめまして (シネマ)
2006-09-30 23:35:00
はじめて拝読させていただきました。滋味のある素敵なブログですね。

ルノワールはいまだにその真価がきちんと評価できない監督の一人でもあります。



30年前の第一位は「市民ケーン」ですか。

確かに映画史上の傑作ですね。「ゲームの規則」はまだ見たことないので見たいですね~。



過去記事も読んでみます。

また遊びに来ますね。
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シネマさん、いらっしゃいませ (十瑠)
2006-10-01 08:31:33
「シネマ」さんとはまた随分分かり易いHNですね。



TBいただきました「天井桟敷の人々」も名作ですが、私は未だ観てないんですよ。レンタルにはあるので、いつか観る気ではおりますが。



コチラからも遊びに伺いますね。
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