斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(45) 【出産一時金の増額負担分は、高齢者のサイフから】

2022年11月15日 | 言葉
 高齢者は、ますます厳しく
 出産育児と、75歳以上の後期高齢者とに、如何なる関係ありや? 厚労省は2024年4月から増額予定の出産育児一時金について、増額分の7%を後期高齢者の負担とする制度改正に乗り出すという(11日付け読売新聞朝刊、13S版)。同じ厚労省の予算内とはいえ、ズボン前部の綻(ほころ)びを、さらに擦(す)り減った尻の布を切り取って縢(かが)る(=補強のために縫う)ものだ、とは言えまいか。

 飛び跳ねるように上昇した消費者物価と、下がる一方の年金支給額。<年金支給額は物価変動に合わせて上下させる>の原則もどこへやら、実際は、物価変動は年金支給額を下げる口実に使われても、上げる理由には使われない。 

 賦課方式と積立方式
 お年寄りたちは今、極めて従順になった(ようにも見える)。背景の一つに、年金制度をめぐる若者世代への引け目と遠慮があるのかもしれない。どういうことか--。
 現在の年金財源は、世代間で支えあう「賦課(ふか)方式」であるとされている。若い現役世代の負担により、受給者は年金をもらっている--と。しかし、これはゴマカシ、言葉のトリックである。

 筆者たち団塊世代が社会に出たころ、異なる考え方で年金制度が運営されていた。年金財源は国の管理下で年金加入者が積み立てる、という「積立方式」の考え方である。ところが積み立てていたはずの巨額の年金財源は、「賦課方式」というコトバの登場とともに消えた。はっきり言えば、国と当時の政治家たちが、積み立てられていた年金財源を”無駄遣い”してしまった(9「賦課方式」、10「続・賦課方式」参照)。バブルに浮かれていた時代のことだ。

 シルバー民主主義は、いずこへ?
 話は戻る。高齢者の発言が尊重された頃に使われた「シルバー・パワー」や「シルバー民主主義」などのコトバが影をひそめ、ややもすると当世は「老人福祉」という語さえ消えかけたかに見える。今年10月から75歳以上の医療費窓口負担も2割に増えた。後期高齢者は今やヤラレ放題である。

断想片々(44) 【中身のないニュース】

2022年11月10日 | 言葉
 ニュースには中身のないものや薄いもの、不確かなものも多い。例えば9日付け読売新聞朝刊国際面(13S版)に載った3段の囲み記事だ。見出しは「『露、米選挙に干渉してきた』」「『プーチンの料理人』実業家プリゴジン氏」。米国内は中間選挙のさなかであり、トランプ氏の次回大統領選出馬が取り沙汰されていたから、格好のニュースネタだったのだろう。

 このプリゴジン氏、最近はSNSで敵方ウクライナ・ゼレンスキー大統領の力量を褒(ほ)め上げるなど話題の人である。前回米大統領選でもロシアがトランプ候補側に付いて選挙干渉したとの話が出たから、ふたたび「米選挙にロシアが干渉した」だけでは二番煎じ。その点「プーチンの料理人のプリゴジン氏も」は、新しい要素だ。

 問題は中身
 しかし、要はそれだけのこと。読者が知りたいのは選挙干渉の具体的な中身の方だ。一般に知られていない事実を知る「プーチン側近」なればこそと、読者は(もちろん筆者も)期待して読み始める。ところが、いくら読み進んでも「米選挙に干渉してきた」の域から出ない。結果、読者の感想は「なあーんだ・・」で終わる。フェイクにあらずとはいえ、中身のない、少なくとも薄いニュースである。

断想片々(43) 【独・ショルツ首相の訪中】

2022年11月07日 | 言葉
 中国の「核兵器の使用、脅しに反対」
<習氏、核使用に「反対」 異例のロシアけん制、独首相会談>(5日付け共同通信)
<独中会談、習氏「核兵器使用反対」>(5日付け産経新聞)

 ドイツのショルツ首相が4日、北京で習近平国家主席と会談した。この席で習氏はウクライナ情勢について「国際社会は核兵器の使用や脅しに対して、共同で反対すべきだ」と強調した。「発言内容は中国外務省発表による」との但し書き付きだから、中国側も積極的にPRしたい発言部分だったのだろう。

 名指しは避けたものの、ロシアとNATO双方への発言であることは確かだ。とりわけロシアへのけん制とも受け取れる。ウクライナ侵略戦争の勃発以来、中国が終始ロシア寄りの発言を繰り返してきた点を考えれば、若干ながら明快な軌道修正である。


 読売新聞は触れず
 ウクライナ侵略戦争を長い歴史の中で振り返った時、ロシアに与(くみ)していた国々の離反の過程は、大きな意味を持ってくるに違いない。メディアであれば、必ず記事にしておくべき節目だろう。ところが、どうしたことか大手の読売新聞5日付け朝刊13S版には、この部分を伝えるくだりが無かった。翌6日付けでも触れていない。
 さて、どうしたことだろう。読売新聞ともあろうものが、知らないはずもない。知っていながらネグレクトしたのか。だとすれば、いかなる意図のゆえか。