斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(7) 【隣国の鉄杭騒動】

2020年01月21日 | 言葉
 話題の本『反日種族主義』(李栄薫・編著、文芸春秋刊)に、韓国で起きた「鉄杭騒動」についての記述がある。当時の日本でも一部報じられたようだが、大半の日本人は知らないと思われるので、紹介してみる。

「植民地期に日帝は朝鮮の地から人材が出るのを防ぐため、全国の名山にわざと鉄杭を打ち風水侵略をした--」
 風水思想の盛んな韓国では、戦後このような話が口承されてきた。非科学的な言い伝えも民間にはよくあるが、韓国では金泳三政権が1995年に「光復50周年記念力点推進事業」として国家規模で取り上げ、大々的な鉄杭撤去運動を展開した。運動期間の6か月間に除去された鉄杭は439本に上り、うち18本が「日帝の手で打ち込まれた」と認定された。認定された1本である慶尚北道亀尾市の金鳥山の鉄杭について、鑑定にあたった韓国の風水専門家は「金鳥山で鉄杭が打たれた場所は風水学上の明堂(優れた場所)。龍が天に向かって立ち上がる場所に仏が横たわっており、その額の部分に鉄杭が打たれていた」と証言した。新聞記者に「この鉄杭は日帝が打ったという科学的で客観的な証拠は?」と問われると「証拠はないが、金鳥山は風水的観点からして非常に重要なので、日帝の所業であることは間違いないと推定した」と答えた。
 江原道揚口郡で除去された3本の鉄杭は大型で、最も長いものは2・58メートル、直径2・5センチ。3本とも表面にサビはなく、一見して最近作られたものと思われたが、ソウル国立民俗博物館は次の説明文とともに展示した。
「民族抹殺政策の一環として、我々民族の精気と脈を抹殺しようと、全国の名山に鉄杭を打ったり、鉄を溶かして注いだり、炭や瓶を埋めた。風水地理的に有名な名山に鉄杭を打ち込み、地気を押さえ人材輩出と精気を押さえ付けようとした」

 日本国内では測量上の必要から山頂に石やコンクリートの三角点を打ち込む。平場では道路に鉄杭も打つ。日本が朝鮮統治時代に大掛かりな測量を実施したこと、その際に山頂に鉄杭が打ち込まれたことなどは、調べれば韓国内でも分かったはずだ。もし当時の「光復50周年記念力点推進事業」関係者が日本に問い合わせていれば、日本には「何者かを抹殺するために」山頂へ鉄杭を打ち込む風水信仰がないこと、崇敬を集める富士山の頂上にも三角点が打たれていることなどは、すぐに分かる。
 他国の民俗・風習は尊重すべき伝統文化である。とはいえ、隣国ではどのようなプロセスでモノゴトが認識されてしまうかを、日本国民として知っておく必要はある。

断想片々(6) 【カルロス・ゴーンの嘘】

2020年01月12日 | 言葉
 一般論と具体論
 逃亡先のレバノンで記者会見(8日)を開いたゴーン被告。「日産幹部と日本政府が仕組んだクーデターだった。日本政府高官の名前も出して証拠を明らかにする」という前宣伝だったが、高官名は出さず具体性にも乏しく、抽象的な一般論に終始した。役員報酬を過少申告した有価証券報告書虚偽記載容疑や、保有法人に多額の金銭を還流させた特別背任容疑といった肝心な点には、具体的に反論することもなかった。事情に疎(うと)い欧米のメディアには好評だったようだが、これまでの報道内容を知る日本国民には空疎な限りだ。菅官房長官、森法務大臣とも「抽象的で根拠のない話ばかり」と口をそろえたが、あの会見では他にコメントしようもあるまい。
 
 嘘と誇張
 10日付け読売新聞朝刊(13S版)は、会見主張の事実誤認を挙げている。まず「日本の有罪率は99・4%で、外国人の場合はさらに高くなる」という主張について。日本では有罪が確実な場合しか起訴しないため、有罪率は高くなる。つまり厳正さを裏付ける数字なのだが、事情を知らなければ「東洋の野蛮国の司法制度では、強引にクロにされるのか」と受けとられそうだ。それに外国人の有罪率は日本人の3分の1だから、言っていることは逆、つまり事実誤認である。
 次に「毎日8時間も検察官に尋問され、『自白しないと状況が悪くなる』と何度も言われた」。東京地検によると、ゴーン被告への毎日の取り調べは1日平均4時間弱。「毎日8時間」でないことは自分がいちばんよく知っているはずなのに、こんな嘘を平然とつく。ゴーン被告は毎日2時間弁護士に接見し、取り調べはすべて録音・録画されていたから、検事が「自白しないと‥」といった暴言を吐けば、すぐに分かる。取り調べ日数が長期になるのは、おのれの犯した犯罪件数が多く複雑だったためで、「人質司法」のせいばかりではない。
 
 「今も私は日本の国民と、日産を愛している」
 会見でゴーン容疑者は、こうとも言った。唯一、日本国民を振り返らせるコトバだったかもしれない。しかし嘘と誇張を痛感してしまった後では白々しいばかり。日本国民をナメたコトバだ。もっとも頭脳明晰なゴーン容疑者は、そんなことは百も承知のはずだから、こちらも日本人向けというより、事情に疎い海外メディアに向かって「こんなにも日本を愛しているのに、私は裏切られたのですよ」とアッピールしたかったのだ、と解釈した方がよさそうだ。