斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(28) 【接種「完了」とは?】

2021年06月02日 | 言葉
 新型コロナワクチンの「高齢者接種を7月末までに完了する」は、菅首相がもっか力こぶを入れている政治目標である。ところが「完了」の意味が定義されていないという理由で、混乱をきたしている地方自治体もあるとか。読売新聞が6月1日付け朝刊多摩版で伝えていた。

 都下・東大和市に住む女性(76)の場合
 数日間挑戦し続けた予約電話がやっと繋がり、指定された1回目接種日は「8月15日」。東大和市は「7月末までに接種を完了する」と説明していたので、女性さんは不審に思い、多摩地域を担当する読売新聞立川支局へ電話を掛けて来た。
 さっそく記者が東大和市役所に取材してみると、同市内の高齢者は約2万4千人で、市の試算では、7月末までに2回の接種を済ませられる高齢者は68%にとどまる、とのこと。市の担当者は「68%なら(7月末を)完了と見てもよいのでは、と考えた」とも言った。
 政府目標には、何をもって「完了」とするかという統一した基準がない。そこで東大和市のような独自の解釈も出て来てしまう。記者が総務省地域政策課に聞くと、統一した定義を設けなかった理由について「地元の事情を基に、自治体の判断にまかせた」と説明したという。
 数字の辻褄(つじつま)合わせは、役人の得意とするところ。菅首相の「高齢者接種を7月末までに完了する」との決意表明に対し、市の担当職員が忖度した結果だろう。

 国民から乖離(かいり)した役人のコトバ感覚
 確かに、最後の1人の接種が済むまでは「完了」と言えないなら、1万人の中に頑強な接種拒否者が1人いるだけで、いつまで経っても「完了」には至らない。しかし、それは理屈上のハナシだ。9900人が接種していれば、市民も「完了」の2文字に納得するだろう。だが1回目の接種が「8月15日」であるにもかかわらず「7月末までに2回目も完了した」との報告が国へ上がるのだとすれば、でたらめな数字操作だとしか言いようがない。およそ普通の日本人が使う、普通の日本語のハナシではない。